第1話:同性愛者がマジョリティな世界
「……ん」
目が覚めると、見知らぬ天井が視界に入る。「良かった。目が覚めたのね」と母の声。母に握られた手は温かい。あぁ、僕は死ねなかったのかとため息が漏れた。だけど、母に泣きながら抱きしめられると、僕も自然と涙が溢れた。
「なんで泣くの。僕が居なくなったってどうでも良いくせに」
「良いわけないでしょ! 馬鹿! あんたは私の大事な一人息子なんだから……」
「……ごめんなさい」
母の言葉を聞いて、自然と謝罪の言葉が漏れた。そういえば母には何も酷いことを言われていない。ずっと心配してくれていた。あんなの全部嘘だと、どうせ僕を否定しているんだと、そう決めつけていたのは僕だったと気付く。
「
病室のドアが開き、見知らぬ女性が僕と母の名前を呼んだ。そして、抱き合う僕らを抱き寄せ「良かった」と泣いた。
「誰……?」
思わず口にしてしまうと、女性と母は顔を見合わせ、僕を心配するようにこう言った。
「何言ってるんだ。お母さんだよ」
「お母……さん?」
何を言っているのだろうこの人は。母ならここに居るのに。どういうことだろう。
「ねぇ母さん、父さんは? 仕事?」
自称ではない方の、本当の母に問う。すると母は「お父さん……?」と、そんな単語初めて聞いたというような反応をした。なんだかおかしいけれど、母達は僕の方がおかしいと言わんばかりの反応をしている。しばらくして看護師がやってきて、母たちは看護師と何かを話し始めた。近くで話しているのに、声ははっきりと聞こえてくるのに、言葉の意味は頭に入ってこない。
話を終えると、看護師に連れられてMRIを撮ることに。診断結果が出ると、医師は言った。『頭を打った衝撃で記憶が混乱しているのでしょう』と。しばらくは入院して様子を見るらしい。
病室に戻ると、母と自称母は写真を見せながら僕に語ってくれた。その写真と二人が語る思い出と僕の記憶は一致していた。けれど、どの写真にも父の姿は無く、全て自称母に置き換わっている。改めて見ると、自称母はなんとなく父に似ている気がしてきた。自称母に名前を聞いてみると
昔、本で読んだことがある、
「ねぇ、僕がゲイだって話覚えてる?」
僕がそう言うと、二人は目を丸くした。
「正義はヘテロだって……」
「違うよ。僕はゲイだよ」
二人は顔を見合わせ、そして複雑そうな顔をした。そして語ってくれた。僕がヘテロセクシャルであることが原因でいじめを受けていたと。
僕は死ぬ間際に星に願った。『異性愛者と同性愛者の立場が逆転しますように』と。ヘテロであることが原因でいじめられたことや、母が二人いることから、星がその願いを聞き入れてくれたのではないかと僕は仮説を立てて二人の母に色々と聞いた。
話を聞いて確信する。僕は死んだ後に同性愛が普通で異性愛が普通ではない世界に飛ばされたのだと。
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