因果応報
三郎
プロローグ
普段は施錠されていて、誰も立ち入れない学校の屋上。僕は職員室から盗んだ鍵で、そこを開ける。
空を見上げれば、小さな星々と、満月が一つ輝いている。
「……綺麗だ」
僕は今から、あの夜空に輝く星の中の一つになる。そう思うと少しワクワクしてきた。
落下防止用のフェンスをよじのぼり、乗り越える。恐怖は全く無い。未練も後悔も、家族や友人への罪悪感も。何も無い。僕の中にあるのはもう、理不尽なこの世界に対する呪いだけ。
僕はゲイだ。初めて恋をした相手は同じクラスの男の子だった。だけど、彼は笑いながら言った。『ホモなんて気持ち悪いよな』と。僕は言えなかった。君が好きだと。この気持ちは隠さなきゃいけないものなのだと悟って、秘めてきた。
けれど、中学生になると彼に恋愛相談をされた。相手は女の子だった。僕は素直に応援出来なくて、言ってしまった。君が好きだと。
そこから先は地獄だった。彼を含む友人達は皆、敵になった。『気持ち悪い』『死ね』と暴言を吐かれ、暴力を振るわれ、クラスメイトも先生も見ないふり。学校に行けなくなった。親は心配して優しい言葉をかけてくれたけれど、僕がゲイだからいじめられたと知ると母は口籠もり、父は「大人になれば治るから」と言い放った。
レズビアン 、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー。頭文字を取って、LGBT。保健の授業でも習うほどの常識。
学校に来たLGBT講師は言っていた。『LGBTの割合は左利きの人やAB型の人と同じくらいの割合』だと。『セクシャリティはただの個性』とか『同性愛も異性愛も変わらない』とか、必死に訴えていたけれど、どれだけの人が真面目に聞いていたのだろうか。教室に戻れば『感想を書くためにどんな話だったか誰かかいつまんで説明して』とか『LGBT講習とかマジだりぃ』『話長い』『LGBTとか知るかよ』『どうでも良い』と、そんな声が飛び交っていた。真面目に話を聞いていた僕は『真面目だな』とか『お前は無関係じゃないもんな』と笑われ『代わりに感想書いておいて』と押し付けられた。明らかに同じ字で同じ感想が書かれているのに、先生は相変わらず見て見ぬふり。
「……あの世って、どんなところなんだろう」
きっとこの世界よりは美しいのだろう。夜空に輝くあの満月のように。
死ぬその瞬間まで、あの美しい月を見ていたい。僕はそう思い、後ろを向いて一歩下がる。足は床から離れて、身体は重力に引っ張られて地面に吸い寄せられていく。
その時、夜空を一筋の流れ星がかけた。
僕はその星に、
「異性愛者と同性愛者の立場が逆転しますように」
僕をいじめたあいつらが——彼が、逆に差別される。そんな世界になれば良い。
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