第13話 手紙

 しばらくして結奈が、私の頼んでおつまみと飲み物を持って帰って来た。

 「ただいま」

 「えぇ、だ、誰なの?」

 「結奈よ、全くさっきまで話をしていたじゃない?」

 そう言うが、一致しないのだ。さっきまでいた結奈と言う少女は、狐のお面を被った剣士の格好だが、今いるのはセーラー服を来たどこにでもいる少女であった。しかも、顔は中性的で目鼻立ちがくっきりとしていてまるで欧米人見たいでありながらも、赤子みたいに肌がつやつやしていて触りたい程のものであった。

 「あ、うん」

 そう返すと結奈は、持って来たおつまみセットをソファーの隣に置いてソファーに座った。


 「あのさ、結奈って女子だよね?」

 そう私は、気になっている事を聞いた。なぜそんな事を聞くのかと言うのは、もし彼女、結奈がもう一つの世界線の私なら自殺の少し前から持っていたあの違和感についても知っているのでは無いかと思ったからだ。

 「答えずらい事を聞くねぇ」

 そう結奈は、持って来たたまごボーロをつまみながら返した。

 「あのさ、もしかして私の勘違いなら言って欲しいんだけど、あの手紙とあの違和感が関係あると思っているの?」

 「あ、う、うん」

 「やっぱりねぇ、私の事だからそうだと思ったわ」

 そう言うと結奈は、私にこんな質問をして来た。

 「ねぇ、もしかして今でも性と言う概念に違和感あるでしょ?」

 そう結奈が私に質問をして来たのだ。まるで何かを隠す為の質問に思いながらも少し考えることにした。

 確かに、無いと言えば嘘にはなるが前世の私より違和感はないと思いたかった。そんな事を考える私に対して結奈が更に私にこんな質問をして来た。

 「もし、あの時に教師やカウンセラーの人や医者があなたの言う事を認めてくれたら、もし話を聞いてくれたらどうなっていたと思う?」

 そう結奈が私に質問をして来た。

 「恐らく、少しは結果が変わっていたと思う」

 そう結奈に返した。そうしてしばらくの間、二人とも黙り込んでしまった。そんな中私は、ふと結奈にあの事を聞いてみた。


 「ところで、あの手紙ってどういう意味があるの?」

 「あ、やっぱり話さないとダメかな?」

 そう言ったのだ。やっぱりと言う感じであった。さっきの質問も恐らく、あの手紙の事とあの違和感の真実を隠すための質問だろうと考えると一つの答えが私の中で浮かんだ。それは、あの手紙には、あの違和感と自殺未遂をした結奈と自殺をしてしまった前世の私の答えがあると言う事であった。

 「話てくれないかな?」

 そう私は、結奈に改めてお願いをした。すると、しばらく考え込んだ結奈は、おつまみの持って来た籠から二つの紙パックを取り出してグラスに注いだ。

 「結奈、何それ?」

 「ビッグ・アップルと言うカクテルだよ」

 「そうか、大学生だもんね」

 「まぁ、そうだね。レポートとか定期考査が終った時はこれよく飲むんだよね」

 そう言いながら結奈は、グラスをストローでくるくるしていた。

 

 「どこから話してほしい?」

 「どこからと言われても、手紙の内容からですかね?」

 そう私は、結奈に言うと結奈は、さっきまでくるくるしていたストローから手を離した。

 「あの手紙からか、いいよ話してあげるよ」

 そう言って結奈は、例の手紙を取り出して私が読みやすいように意訳をしてくれた手紙を私に渡した。


虎姫へ

 この手紙を読んでいると言う事は、恐らく私は転生をしたのでしょう。そんな私に前世の私がなぜ自殺と言う手段を選んで死んだのかについて少しだけ話そうと思う。私は、夢の世界である若宮王国の中で虎姫として生きていた。その世界では、自分みたいな障碍を持った者が私の母の下で皆、平等で差別の無い夢のような世界であった。

 しかし、夢から覚めると待っているのは、生きづらい社会である。特に私は、学校への登校は嫌な日々であった。なぜなら、教師に逆らえれば自分の進路選択の自由などの自由を奪われる世界なのだ。そんな世界があるのに、子ども達が生きやすい世の中を作ろうとしていたり、障碍を持っている子にも、健常者と同じ教育を受けさせようとしてみたりする者がいる。私は、現実を見てから言って欲しいものであると思う。だって、教師である者が気に食わない者は、「区別」と言う名の「差別」を行っている。その証拠に、教師に歯向かわないやつは、指定校推薦や推薦を簡単に書いて貰えるのである。しかし、少しでも逆らえれば、その子との区別をするために扱いを変えるのである。それが私の場合は、障碍を持っている可能性がある為、手帳を取るように圧力をかけて来たのだ。しかも、その手帳は取得しても別に更新をしなければなんの問題もないからと言って教師は、私に手帳を取らせようとした。しかし、実際はそんなに甘い話は無いのである。教師は、私の福祉手帳を利用して就職をさせようとしていたのである。なぜか、それは「普通」の就職では無く「障碍者雇用」と言う形で就職を狙っていたのだろう。しかし、この雇用には大きな落とし穴がある。それは、同じ雇用でも給料に差が生まれると言う事である。

 こんな話しを知ってしまうと、この社会に絶望と言う負の感情を抱いてしまうのも無理の無い話である。「手帳を持っていれば差別を受けにくいなる」と言う人がいるかもしれないがそれは幻の話で、勘違いと言っていいだろう。現実は、政府からの支援や法律によって罰則がある為雇用せざるを得ない状況なのである。そうした支援がなくなればどうなるのかなど言うまでもなく、差別の始まりである。今でも健常者と障碍者手帳を持った人では、給与に差があるのにこれに学歴社会によって生み出される学歴と言うステータスの差が重なってしまえば、言うまでも無く待っているのは「地獄のような生活」と言われるような最低限度の生活が待っているのである。しかし、手帳を持っているだけで、このような差別を受けるのもおかしな話である。手帳と言うのは、病気を持っているという証明であり、「その人の能力が周りに比べて部分的に高い面もあるが、健常者と比べるとそれ以外の面が低い」と言う事である。それなのに、障碍を持った人でも持ってない者でも自分と違った者を見ただけで差別やいじめと言った相手の嫌がる行為をしてしまうのである。

 そのような世界に居るのであれば、この夢の中のような誰もが目に見える差別を受けない世界に居たいものである

                       


 「なるほど、それじゃ私は夢の中で見ていた世界に居たいから前世からリタイアしたの?」

 そう言うと結奈は、静かに首を縦に振った。まぁ確かにあの手紙とこの意訳を見ると夢の中の世界の方がましなんだろう。

 「まぁ、現実から逃げたと言いたげだね?」

 「ぐぅ、そ、それは」

 「だって、あんた「あの違和感」の事をカウンセラーや医師から否定されて以降あの違和感について誰にも話さないでいたでしょ?」

 「そ、それは……」

 「信じてくれないからでしょ、心と身体の性別が違うと言う事を」

 私が言うとしている事を結奈は、あっさりと言ってしまった。

 「あんたに私の何が分かるのよ」

 そう彼女に怒鳴ってしまった。私の悪い癖だ。自分の気に食わない事になると他人に当たってしまうか、物に当たってしまうのかどちらかしか出来ないのだ。恐らくだが、私以外の人間ならもっといい発散方法を知っているのかもしれないが、私はこれ以外の方法を知らないのだ。

 そんな私を見た結奈は、一杯のジュースを差し出して来た。

 「まぁ、そんなに怒らないの?私も他人から言われると同じ反応してしまうもの」

 そう言いながらも結奈は、私の頭を優しく撫でた。まるで、姉が下の子を落ち着かせるような感じであった。

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