第4話 虎姫の誕生

 「はーはーまだ着かないのー」

 そんな弱気が出てしまう。だってかれこれ二日以上険しい山々が連なる中国山地を北へ北へと歩いているのだ。

 そんな弱音よわごとに萌花がいつもの口調とは違った感じで話しかけて来た。

 「結奈いい加減にしなさい。あんたのためにどれだけの犠牲を払ってると思ってるの?」

 それに言い返そうと思ったが、萌花の姿を言いかけた言葉を胸の中にしまった。

 なぜなら、萌花の目から涙が出ていたのだ。

 「萌花………」

 「大丈夫よ。先を急ぎましょう」

 「あ、うん」

 そう言うが萌花の背中からは悲しい気持ちを押し殺しているのを感じた。だって私は、幼い時に実の親を戦争で亡くしそこから立ち直るのに時間がかかるのを経験しているのだからだ。

 そんな感じで、私達は|敦賀城下つるがじょうかにある願通寺がんつじに着いた。


 「結奈様、この寺で一泊しますか?」

 「そうしましょう」

 そう言って私達は、願通寺の山門さんもんを叩いた。

 「誰だよ、こんな時間に……」

 そう言いながら小さな門から私と同じか少し上ぐらいの青年が出て来たのだ。

 「すみませんが、今夜ここに泊まらせてくれませんか?」

 そう言うと青年は、私達の姿を見て慌てた様子で奥の方に消えてしまった。その様子を見て私は、萌花に気になった事を聞いた。

 「あのさ、萌花?」

 「どうされました?」

 「私、先にお風呂に入りたいのだけど……」

 そう言うと萌花は、少し考えていた。なぜなら先の落城間際に抜け出した為、最小限の道具を持って城を発った為ほとんどお金を持っていないのだ。

 「まぁ、そうだけど少し待って反応が無かったら行きましょう。それでいいわね?」

 「うん……」

 そんな相談をしていると先ほどの青年が誰か連れて戻ってきたのだ。すると奥の老人が私達に声をかけて来た。

 「お客人、中に入ってください。事情は、中で聞きますので」

 そう言うと老人は、奥に姿を消して行った。その姿を見て私は、萌花に耳元で囁いた。

 「萌花大丈夫なの?」

 そう言うと萌花は、静かに首を縦に振る。私は、萌花の返事を信じて萌花と共に寺の中に入った。私達は、青年の後を着いていくと一際大きな建物に連れて行かれた。

 「御住職様が中でお待ちでござます」

 そう言うと青年は、どこかに消えてしまった。そうして私は、中に入ろうとすると萌花が私に腕を引っ張って来た。

 「どうしたの?」

 そう聞くと萌花は、私の耳元まで寄って耳打ちをして来たのだ。

 「結奈、中にもう一人気配を感じるわ。念の為に刀付けて起きなさい」

 そう言うと腰に付けていた脇差わきざしを私に渡して来た。私は、その脇差を受け取り腰に指すと本堂の中に歩みを進めた。

 「お久しぶりでございます、萌花様」

 「え、久しぶりね住職。でも奥にもう一人おるけど誰なの?」


 そう言うと萌花は、小口を切っていつでも斬りかかる体制になっていた。それを感じた住職は、慌てた様子で萌花に刀を納めるように言った。

 「殺生せっしょうは、本堂ここではおやめください。こちらにいらっしゃるには、朱音あかね様でございますので刀を納めください」

 そう言うと萌花は、刀をさやに納めた。私がほっと一安心していると萌花は朱音に鋭い問いを投げかけた。

 「どうして、内府の妹君がおられるのですか。しかも手勢を率いてですよ?」

 「その話をするのでしたら場所を変えましょうか

 そう朱音が言うと本堂から足軽兵が雪崩れ込むと同時に私達は、一斉に刀を抜いた。

 「一体どう言う事かしら、朱音様?」

 そう言うと朱音は、クスッと笑った。

 「私が姉の命より、敦賀屋敷に幽閉ゆうへい致します。この者達を捕らえよ」

 そう言うと足軽の兵達が穂先ほさきを私達に向けてずりずり進行して来た。

 「萌花、大将以外切り殺しなさい」

 そう言うと一瞬戸惑った萌花だったが、静かに首を縦に振った。それと同時に私達は、一斉に敵に向かって刃を振った。

 「朱音様、どうなさいますか?」

 「一旦撤退しなさい」

 そう言うと足軽の兵達は、本堂から引き下がった。すると朱音は、ゆっくりと刀を抜いてこちらに近づいて来た。

 「結奈様でしたか?私と一騎打ちをお願いします」

 そう言うと朱音は、刀を構えていた。その様子を見て私は、彼女が本気だと言うのを知った。


 「萌花、左文字さもんじよこしなさい」

 「よ、よろしいのですか?」

 「構いません、どうせ死ねば関係無いのですから」

 そう言うと萌花は、桐の箱に閉まっておいた左文字を私に渡して来た。

 「結奈様、朱音様は十分にお強いお方です。お気をつけてくださいませ」

 「ありがとう、萌花」

 そう言うと二十畳ほどの広さを誇る本堂の中に冷たい空気が流れていた。季節は、冬でしかも灯りは、ご本尊ほんぞん阿弥陀如来あみだにょらい立像を照らす灯りのみだ。そんな中、私は左文字を鞘の中に納めた状態で畳を蹴って彼女に迫った。

 「相手が悪かったね」

 そう言って鞘から抜いて彼女のお腹を一文字に割くように切った……

 「残念、まだ遅いわね」

 そう言うと彼女は、私の首を峯打ちしたのだ。その攻撃を受けて私は畳の上に叩きつけられた。

 「誰が遅いってー」

 そう言って私は、ゆらゆらする視界の中で畳に転がった刀を拾って立ちあがろうとして振り返った。そうして振り返った瞬間朱音の切先が、喉元にあった。

 「結奈様、敦賀屋敷にて我が姉が来るまで軟禁させていただきます」

 そう言うと私は、足軽に両腕を後ろで拘束させられたのだ。

 「最悪……」

 そう呟くと萌花が近くによって来た。私は、恥ずかしすぎて萌花から顔背けた。正直に言って萌花にこんな敗軍の将の姿を見て欲しくないのだ。

 「結奈様、しばらくの間畳の上で生活できますね」

 私は、てっきり馬鹿にされるのかと思っていた。そう言うと萌花は、朱音に話しかけた。

 「朱音、あの子をどうするの?」

 そう聞くと朱音は、首を傾げた。

 「わかんない、姉様次第じゃない?」

 「そう、わかったわ」

 「萌花も敦賀屋敷に入れるから大丈夫よ」

 「ありがとう、朱音」

 そうして私達は、輿こしに乗せられて願通寺から敦賀城二之丸にのまるにある敦賀屋敷に入った。


 「朱音様、おかえりなさいませ」

 「ただいま、風呂の用意は出来ているか?」

 「はい、すでに」

 「ならすぐに入るから支度させてくれ」

 「かしこまりました」

 朱音が誰かと会話している間私達は、輿の中で聞いていた。

 「萌花、出て来ていいわよー」

 そう言うと私と萌花は、狭い輿の中から出た。

 「すみませんが、湯治場とうじばの方に来てもらってもよろしいでしょうか?」

 「なん……」

 「わかったわ」

 私が聞こうとすると萌花は、朱音との会話に割って返事をしたのだ。

 「ちょっとなに言ってるの、萌花」

 「結奈様、ここは彼女の行為に甘えるのが策でございます」

 「でも、敵かもしれないのよ?」

 そう心配になり萌花に私は、言い返した。

 「大丈夫です、仮に敵ならあそこの寺から城まで行く道中で殺してますから」

 そう言うと私は、萌花に反論する事が出来なくった。確かにこの湯治場までに何度も殺せる機会はあったはずなのに彼女は、一度も私達に手を出さなかった。


 「ここが浴場でございます」

 そう朱音が案内すると奥に誰かの気配がした。私は、ふと萌花の方を見ると萌花は既に分かっているように首を小さく縦に振った。

 「朱音、誰かいるようだけど大丈夫なのよね?」

 そう萌花は、朱音に聞いた。その声は、先ほどまでの優しい声とは違ってどこか威圧感のある声だった。

 「えぇ、中に入っても大丈夫ですのでごゆっくりと」

 そう朱音は、何気もないように返した。


 「なら遠慮なく使わせてもらうけど、何かあったらあなたの首を取るわよ」

 「どうぞ、ご安心ください」

 「そう、わかったわ」

 そう言って私と萌花は、浴場に足を進めた。浴場の規模は、さほど広いとは言えない。でも、普通の家にある浴場の二三個にさんこ分はあるだろうと言う広さであった。

 「露天に誰かいるわね」

 そう呟くと萌花は、露天風呂に向かうとした。しかし、流石に汗まみれの女子が他の子に遭うなど恥かしいものである。なので、私は萌花の腕を掴んでしまった。

 「あのさ、萌花さすがに身体洗ってからでもよくない?」

 「まぁ、そうね」

 そう言って私と萌花は、久しぶりに汗を流した。そして私達は、露天風呂に向かった。

 「意外と遅かったわね、萌花」

 そう後ろ姿で私達に声をかけて来た。


 「遅かったわねじゃないでしょ、朱奈」

 そう萌花が言うと湯舟に浸かっていた少女は、立ち上がった。

 「あら、いいじゃない真中家当主様」

 「あら、嫌味かしら内府と言う立場になったというのに恥じらいと言うのは全くね」

 そう萌花は、少女に言い返した。

 「久しぶりにその嫌味を言われたわ、まぁ、湯舟に浸かりなさいよ」

 「えぇ、そうね」

 そう萌花が言うと私と萌花は、彼女の浸かっている湯舟に入った。

 「で、本題なんだけどその子が結奈様なの、意外と貧相な身体なのね」

 「あんたも言ないでしょう、この暴れ姫」

 「あん、うっさいわねこの猫かぶり」

 そう萌花と朱奈と言う少女とが私を置いて言い争いを始めた。

 「お姉ちゃん、おつまみ持って来たよ」

 そう薄い桃色に染まった浴衣を着た朱音が入ってきた。

 「ありがとう、朱音」

 「お姉ちゃん、あまり長湯しないでよ」

 「わかった」

 そう言い残して朱音は、去っていた。

 「萌花、この子が狐ノ宮家現当主きつねのみやけげんとうしゅなの?」

 そう萌花に聞こうとすると萌花じゃなくて朱奈と言う少女が、変わりに答えてしまった。

 「私が狐ノ宮家現当主狐ノ宮朱奈しゅなよ」

 そう言うと萌花は、どこか呆れたのかため息を吐いた。

 「結奈様、本来でしたらきちんとするとところで紹介するべきなんでしょうがこの子こう言う子なので許してください」

 「別にいいじゃない、私とあなたの仲なんだからさ」

 そう言うと萌花は、呆れ果てたのか浴室から出ようとした。

 「どうしたの?」

 そう私が萌花に声をかけたのだ。すると萌花は、体に巻いたタオルを持ちながら振り返って来た。

 「暑くなってきたので上がろうかと思っただけです、結奈もあまり長いこと浸かっていると隣の狐みたいにのぼせますよ」

 そう言って私は隣にいる朱奈の方を見るとそこには茹で上がったタコとでも言うべきだろうか、顔を真っ赤にした朱奈がいたのだ。

 「だ、大丈夫ですか?」

 そう私は、朱奈に声をかけるとか細い声で私に返事を返して来た。

 「だ、大丈夫ー」

 そう返すと彼女は、湯舟のふちにぐったりしてしまったのだ。

 「萌花、こっちに来て」

 「どうされたのですか?」

 私は、湯舟のふちに設けられた足湯に浸かる萌花に声をかけた。

 「どうしよう、朱奈様が突然ぐったりしてしまったのだけど‥‥‥」

 「とりあえず、このを引き上げるわよ。その後にこの状況について聴くから」

 そう言って私と萌花で、長湯し過ぎでのぼせた朱奈を引き上げた。

 「どうされましたか、結奈様、萌花様……」

 「あ、朱音いい所にあんたの姉がのぼせたから介保頼んだわ」

 そう言って萌花は、朱音に朱奈を渡した。すると朱音は、深いため息を吐きながら脱衣所の方に朱奈を連れて行った。

 「た、大変ねあの朱音も」

 そう私が言うと萌花は、私の方を見ながら「嫌あんたが言うな」と言いたげな目で私を見てきた。

 「わ、私ものぼせそうになっていたからそろそろ上がるわ」

 そう言って私は、萌花を置いて脱衣所に向かった。


 「な、無いー」

 「どうしたのよ、結奈?」

 そう萌花が後ろから声をかけてのだ。

 「どうしよ、服と鞄が無いのよ」

 「とりあえず、この服に着替えてここを出ましょ」

 「で、でもあれが無いと私達は……」

 「だ、大丈夫です」

 そう萌花に言われて私は、用意された着物に着替えた。

 「ところで、なんで飛びさめの着物があるの?」

 そう私は、ふと呟いてしまった。なぜなら、萌花が昔くれた飛び鮫の入った短刀と同じ紋章だったのだ。

 そう考えていると萌花が私に話して来た。

 「これは、かつて朱奈様に送った物なんです。なので私が昔送った短刀と同じ紋章が入っているのですよ」

 「なるほどね」

 そう言って私達は、湯治場を後にして敦賀屋敷と言われる所に移動した。


 「では、ここにしばらくの間泊まって頂きます」

 「ありがとう、朱音」

 「お荷物は、既に置いてありますが、お着物に関しては洗濯してお返しします」

 「そう、分かったわ」

 「では、御用があれば門番に言ってくださいませ」

 「分かった」

 「では、失礼します」

 そう言って朱音は、敦賀屋敷から去って行った。広さは、私が昔住んでいた虎臥城の若屋敷より少し広いぐらいの大きさである。


 「あのさ、ここって本来どんな人が使うの?」

 すると萌花は、黙り込んでしまった。多分触れてはいけない所を触れてしまったのだろう。

 「別にいいよ、言いたくなかったら言わなくてもいいよ」

 そう私が言うと萌花は首を横に振った。

 「ここは、元々は真中家が治める城だったんです……」

 そう言うと萌花は、若宮王家滅亡の裏で起きていた出来事を話し始めた。若宮城の攻城戦の際に真中家は、敦賀城から出撃してその守りを湊帝國の一家臣に過ぎなかった狐ノ宮家に依頼をした。その時に反乱軍が押し寄せて来たら狐ノ宮家の所有にするように言って出撃をしたらしいのだ。反乱軍が抑える出石城の部隊によって殲滅されて真中家は、虎臥城に退避していた真中家家臣を除く全ての部隊が全滅してしまった。その後は知っての通り若宮城は落城して白鷺帝國が新たな統治者として君臨した。その出撃前に萌花の父が、狐ノ宮家に敗戦した時に一族が退避する用の屋敷の建築を依頼していたらしいのだ。それがこの敦賀屋敷なのだ。

 「……そう言う事があったの」

 「別に過去の事なので気にしてませんし、結奈様も王位を追われた身なので追い詰める気はありません」

 「そ、そうね……」

 「も、寝ましょうか?」

 「そ、そうね」

 そうして何とも言えない微妙な空気の中私達は、眠りについた。

 「な、なによ」

 私は、城内の騒がしさに目を覚ました。その眠い身体を起こして門番の所に向かった。

 「どうしたの?」

 「これは、御客人今は危険ですので、御屋敷の方にお戻りください」

 「分かったわ、何かあったら教えてください」

 そう言って私が屋敷に戻ろうとすると鎧を付けた朱音がやって来た。

 「結奈様、至急この場から退避をお願いします」

 「どうしたの?」

 「白鷺軍がこの敦賀城に向かってきてます」

 「本丸に上がらせてくれる?」

 そう私は、朱音に言った。

 しばらく朱音が考えた後に朱音は首を縦に振った。

 「しかし、鎧を持ってないですがよろしいのですか?」

 そう朱音が言うと後ろから声がした。

 「結奈様、鎧でしたらお部屋に既に準備出来ております」

 「ありがとう、萌花」

 「朱音、すぐに本丸に上がると伝えてください」

 「分かったわ」

 そう言って私は、萌花と共に戦闘の準備をし始めた。

 「まさか、この鎧を使う日が来るとはね」

 「そうですね、結奈陛下」

 そう言って私は、黒と朱色の糸の鎧を着た。そして、金色の鍬形くわがたに白色の虎の前立てを付けた兜を手に持った。

 「では、行こうか萌花」

 「は、結奈陛下」

 そうして私は、愛刀を手に持ち屋敷を後にした。


 「待たせてごめん、本丸に案内お願いします」

 「わ、分かったわ」

 そう朱音が戸惑い気味ながらも私は、本丸に向かった。

 「内府殿、ここは援軍を要請すべきかと思います」

 「いや、間に合わないかと言ってここを捨てるわけにいは行かない」

 「朱奈様、虎臥家当主虎臥結奈様及び従者じゅうしゃである真中家当主真中萌花様がお目通めどおりを願っております」

 そう朱音が言うと城内が静まり返った。

 「どうされますか、内府様?」

 「通せ」

 そういつもと違ってどこか男っぽい声で朱奈が答えた。

 私達は、朱音と共に軍議の場に入った。


 「虎臥結奈殿、なぜこのような事態に謁見を求めて来られた?」

 「私共にこの戦に参戦させていただきたいのです」

 そう言うと家臣達が一斉に朱奈に向かって進言し始めた。

 「内府様、この者に参戦は不可能です」

 「このような女子おなごに戦なんか不可能です」

 そう家臣達が言い争う中朱奈がこんな提案をして来た。

 「あんた達黙りなさい、家老かろう

 「は、なんでしょうか?」

 「少し変わった者達いたんでしょ?」

 「確か障害者と言われる者達でしょうか?」

 「そう、その者達何人ぐらいいるの?」

 「確か三百ほど現在いますか」

 「その者達は練兵は終わっているよね?」

 「えぇ、終わっておりますがどうなさいましたか?」

 「結奈殿よ、この三百をそなたに与えるゆえ白鷺を撃退して来い」

 そう言って来た。当然ながら家臣達から大反発を受けた。

 「静まれ、結奈殿どうする?」

 そう言って朱奈が私に返事を求めて来た。もちろん私は、障害者部隊など扱ったことないどころか通常部隊すら扱った事無いのだ。しかし、ここで断れば虎臥城の二の舞になってしまうのではないかと考えてしまった。

 「分かりました、大将の首を取って参ります」

 「家老、結奈たちを練兵場に連れて行ってやれ」

 そう言って私は家老と共に練兵場に向かった。

 

 「真中殿も災難ですな、連中の指揮を任せられるとわ」

 そう家老が哀れみを持った感じで話しかけて来た。

 「そうですね……」

 そう萌花が返した。私は、正直に言ってこの時この家老の事が好かなかった。初対面だが、こんな差別的な人は私は嫌いである。そう思いながら私達は、例の練兵場に着いた。

 「では、任せました真中殿」

 「えぇ、分かりました」


 そう萌花が返すと家老はどこかに去って行った。私は、この者達の装備を見てふとある事を思い出した。

 「ねぇ、萌花式神砲しきがみほうある?」

 「えぇ、十二丁用意してますがどうなさいましたか?」

 「それをこの者達に全て与えなさい」

 そう言うと萌花は、戸惑っていた。まぁ、当たり前である。なぜなら式神は、限られた一部の家の当主しか使えないと言われているのだ。しかし、実際は少し違うのである。確かに式神本体は、限られた家の当主しか使えないし現在もそれは変わらないのだが、霊札を付けたこの銃は式神の力を使えるのである。

 「しかし、本当にいいの?結奈」

 そう心配そうに私に萌花が問いかけてきた。

 「もし、この力を使えば陛下すぐにバレるのでは無いですか?」

 「大丈夫よ、そんな王家の獣神を出すわけには行かないから」

 「そ、そうですか」

 そう萌花と私が話しているとある一人の青年が寄って来た。

 「ねぇ、お姉さん達が次の大将なの?」

 そう言うと青年はどこか怯えていた。恐らく、虐待を受けていたのだろうとすぐに察してしまった。そう思うと確かにここに居る者達は、酷く怯えていた。まるで私達を獣だと思っているかのようにだ。

 「大丈夫だよ、今から話をするからみんなを集めてくれないかな?」

 そう私は、この子に言うと青年は怯えながら皆んなに向かって声をかけた。

 「私は、新たに君たちを指揮する旧若宮王家きゅうわかみや虎臥結奈である、不甲斐ない私であるがこの隊の指揮を執ることになったよろしく頼む」

 そう言うと先ほど声をかけた青年が、手を挙げて話しかけきた。

 「あの、結奈様私達みたいな出来損ないでよろしいのですか?結奈様は、旧若宮王家の跡取り娘で王位継承序列第一位と言われたお方と聞いています、そんなお方がこのような出来損ないの私達を指揮を執る必要はないのでわ」

 そう言うと兵士達は、頷き合った。まぁ、当たり前か。没落したと言えども白鷺家現当主の妹には違いないし、旧王族と言う誇りもあるしね。ましてや、この隊には旧若宮王家の領民もいると聞くしどうしたものかと考えていた。

 そんな事を考えてると萌花が突然話し出した。

 「君たちは、結奈様の身分を知りながらも狼狽ろうばいするつもりですか?」

 「しかし、戦争は死ぬものです、怖いのですから狼狽するのは当たり前よ、萌花」

 そう私が萌花をさとすとある事を思いついた。

 「君たち全員残ったら私の直接の指揮下に置く事を約束する、だから全員残って帰る事これは命令である」

 そう言うと屋敷の門番が荷車を轢いてやって来た。

 「お客人、注文されていた物をお届けしました」

 「ありがとう、そこに置いて置いて」

 そう言って門番を離れさせると私は、兵士達に向かって話しかけた。

 「ここにある武器を取って出撃をする、時は無い素早く動きなさい」

 そう言って私は、皆が武器を取り終わる頃に伝令がやって来た。


 「伝令、敵金山城を出撃したとのことです」

 「そう、動いたのね」

 そう呟くと萌花話しかけて来た。

 「どうされますか、陛下」

 「無論打って出るでしょ?」

 「では、命令してください?」

 そう萌花に言われて前を見るとそこには武装をした三百の兵士達が私の指示を待っていた。私は、腹をくって兵士達に命じた。

 「この戦が、私のひいては虎臥の再興の兆しとなる、勇敢なる虎の武者どもよ、その武を侵略者達に誰にやいばを向けたのか思い知らせなさい、全軍出撃せよ」

 そう言って私率いる三百の部隊は、敦賀城を出撃した。


 「大丈夫なの、陛下敵は三千です」

 そう萌花が言うと私は、にこやかに笑みを返した。

 「萌花、あと頼んだ」

 「ちょっと待ちなさい、結奈」

 そう言って私は、萌花の馬から降りて走って敵に向かって走った。


 「さぁ、始めようか愚かな妹よ、姉を本気にさせたら怖い事思い知らせてあげる」

 そう呟くと一枚の霊札を取り出した。

 「白き凍つく大地に住みし熊よ、我の命に従い召喚し我が眼前の敵を蹂躙じゅうりんせよ」

 そう言うと足元から白い熊が現れたのだ。

 「ち、小娘かよ……」

 そう言うと白熊は、ゆっくり歩き出そうとした。それを察した私は、腰にぶら下げてる太刀を白熊の横に向けた。

 「君の首この刀で落としてあげようか?霊力込めて?」

 そう言うと白熊は、怯えながら返して来た。

 「ご、ご冗談を主人マイロード、しかしそれでしたら名前をいただく」

 そう言うと私は、全力疾走する熊に跨りながら白く丸い雲を見つけた。

 「白魔しろまる漢字は、白い魔神の魔でどうかな」

 「しろまるですか、ありがたき幸せ」

 「うふふ、喜んでもらって何より」

 そう楽しく話ししていると前方に砲身を構える部隊がいた。

 「しろまる、あそこに突進できる?」

 私は、しろまるに聞いた。恐らく私の予想だとライフルで白鷺家が使うのは四五式ライフルで、連射可能の厄介な品物なんだよね。でも至近距離なら銃身が長いから不向きだからいいんだけど恐らく後方の槍隊に殺れるんだよね。

 そう考えているとしろまるが、こんなこと言い始めた。

 「主人、私が敵を食い散らかしましょうか?」

 「いいの?」

 「えぇ、ですが相当えぐいことになりますがいいですか」

 「別にいいわ、侵略者は全員殺せばいいのよ」

 「御意」

 そう言うとしろまるは、全速力で敵陣に突進した。それと同時だろうか、目測にして三キロぐらいからだろうか、一斉に火の玉がやって来た。

 「しろまる、飛んでそのまま敵陣に突撃しなさい」

 「御意」

 そう言って敵陣に乗り込んだ。当然ながら、敵の本陣に向かって突進するのだがそう簡単には行かせてくれない。

 「しろまる、ここにいるのは全員餌だからさっさと食べ切りなさいよー」

 「主人よ、多すぎですよ、友人呼び出してよろしいですか?」

 「誰よ、その友人って」

 そう切り合いながらもしろまるに言うとしろまるは、食い散らしながら答えた。

 「白鮫はくさめです」

 「いいわよ、呼び出してもいいけど今私霊札取り出せないから無理だからね」

 そう言うとしろまるは、こんなことを言い始めた。

 「詠唱えいしょうだけで大丈夫ですからー」

 「わかったわ」

 そう言ってわたしは、雪崩の如く来る敵を切り刻見ながら詠唱を始めた。


 「生き血に捧げる海の暴れ姫よ、ここに居る全てがそなたに捧げる供物である。我が命に従い召喚せよ、白鮫はくさめ

 そうして現れたのは、白熊とは違って人間をした少女だった。

 「美味しそう、しろまるこれ全部君の主人からの贈り物?」

 「そうだ、お前好きだろう?残り全てやるから主人頼む」

 「いいよ、主人さんよろしく」

 「あぁ、よろしく頼む」

 そう言うと少女は、しろまるから軽く事情を聞くと次々と敵の首を取って行った。まるで、流れ作業のように人の首を切り落とすのだ。当然ながら私も相当数殺めているせいか、刀身が血に染まっていた。

 「主人、刀血に染まってるけど大丈夫?」

 そう少女が声をかけてきた。

 「まぁ、まだ切れるからいいけどあんまり大丈夫じゃないかな?」

 「なら刀身だけ綺麗にするね、大丈夫だよ殺しまくってくれて」

 そう言うと刀身に水が巻き付いていた。しかもその間も敵を斬っているので当然血がつくのだが、水が全く血の色に染まらないのだ。そしてしばらくすると元通りに刀が綺麗になっているのだ。

 「ありがとう、助かるよ」

 「大丈夫、私はあなたに好かれたいだけあの子とは違う」

 そう言うと少女は、黙々と敵を殺して行った。おおよそ半数を私と式神で倒していると遠くから発砲音がした。


 「ようやく来たか、本隊」

 そう振り返るとそこには、虎の御紋と若葉紋の御旗みはたに青色の桔梗紋を携えた本隊が見えた。

 「全軍、陛下を救い出しなさい、突撃せよ」

 そう萌花の声が血に染まった草原に響き渡った。

 「ひぇー鬼だー」

 「こら、待たんかいー」

 「待てぇー首取らせてぇー」

 劣勢であった我が軍がいつしか優勢に変わっていたのだ。そう呆気に取られていると萌花と五人くらいの兵士を引き連れてやって来た。

 「陛下、危険すぎですよ」

 「でも、こうなるのわかってたでしょ?」

 「えぇ、なんとなくですが」

 そう萌花と共に話していると敵の馬印ばじるしが動いて居るのが見えた。


 「萌花、あれってまずいよね?」

 「えぇ、非常に不味いわ」

 「とりあえず全軍を引き戻してくれる?」

 「そうね」

 そう言って私達は、敵の本陣である慶林院けんりいんに本陣を構えた。

 「でぇ、今どれくらい減ったの?」

 「先ほど、死亡無し負傷者は、五十で動けるのは二百五十ぐらいね」

 「そ、そう」

 そうして頭を抱えていると伝令が飛んできた。


 「御大将おんたいしょ、後方より軍勢が押し寄せております」

 「紋はなに?」

 「は、朱狐しゅきつね紋並びに黒狐こくきつね紋でございます、また朱奈神の御旗も確認しております、また少数ではありますがくじら紋に不動の御旗も後方に見られました」

 そう言うと私は、萌花の方を見てしまった。

 「もしかして、帝國本隊が来ているのかな」

 「恐らくその可能性が高いかと……」

 「そうなれば、白鷺と湊の正面対決は回避出来ませんね」

 「そうですねぇ、仮に戦争になれば畿内は無事ではないでしょう」

 「それは不味いねぇ、とりあえず金山かねやま城に降伏の使者を出して頂戴」

 「御意」

 そうして私は、降伏の使者を金山城に向かわせたのだが、案の定と言うところだった。


 「……やはりダメだったのですか」

 「はっ、誠に申し訳ございません」

 「内府殿は、どこにおられるのですか?」

 「現在は、金山城近くの龍谷寺りゅうこくじに本陣を構えておられます」

 「萌花、これより金山城を包囲落城ほういらくじょうさせる」

 そう言って私達は、慶林院を後にした。

 

 「御大将、包囲完了しました」

 そう伝令から報告を受けて金山城の近くの井の口川の畔に陣を置いた。

 「萌花、鉄砲隊の用意は出来ているの?」

 「えぇ、準備完了していますが、本当に御大将お一人でよろしいのですか?」

 「えぇ、大丈夫よ、交渉失敗した時は合図を出すから作戦を決行して」

 「御意」 

 そう言って私は、しろまると昨日しろまるで召喚した白鮫と共に金山城に向かった。


 「あの主人様、私にも名前をつけてくれない?」

 「うーん、鮫姫さめひめのさめさめとかどうかな?」

 「ありがとう、主人様」

 そう言って私に抱きついて来たが、しろまるはどこか不機嫌そうだった。

 「どうしたの?」

 「別に……」

 「そ、そう」

 そうした微妙な空気の中私は、金山城の大手門の目の前に着いた。


 「しろまる、さめさめ敵が銃撃して来たら食い殺せばいいからね」

 「御意」

 「わかった」

 そう言う二人は、どこか血に飢えた獣のような感じだった。まぁ、元は獣なのだから仕方ないがそれにしても警戒はしているんだな。そう思いながら私は、城門の櫓兵に向かって声を掛けた。

 「降伏の使者として城主と交渉しに来た」

 そう言うと城門から一斉に火の玉が降って来た。私は、深いため息を吐いた。同時にしろまるが城門を破壊した。

 「さめさめ、狼煙を上げてくれる?」

 「既にあげてるよ」

 「ありがとう」

 そう言うと敵は城門の私に向かって突撃を開始して来た。まぁ、大将自らお出ましするとこうなるわよね。そう思いながら私は敵の首を切り取って行った。それと同時に遠距離攻撃隊による総攻撃が開始された。まぁ、総攻撃と言っても式神砲による本丸の攻撃である。

 「敵襲だ、虎姫こひめだぞー」

 「うるさいぞ、静かにしなさい」

 そう言いながらさめさめは、敵の首を切り取って行った。そしておよそ六時間くらい経過した頃で、私は本丸御殿に隠れる城主を見つけた。

 「た、助けてくれ」

 「嫌だね、さよなら」

 そう私は、満面の笑みのもとに左文字で城主の首を切り落とした。

 金山城落城の知らせは、京都のとある少女の耳に届いていた。


 「そ、そう金山城が陥落したんだ」

 「はい、どうされますか咲輝さき様」

 「戦支度をしなさい、二ヶ月後に近江を攻める」

 「しかし、虎姫が現れたと言う噂が流れておりますがどうされますか?」

 「なにそれ?」

 「虎の前立てをした少女が満面の笑みで踊りながら狩る事から名付けられたとのこと」

 「ふーん、虎姫ねぇ」

 「まぁ、いいわささっと用意しなさい」

 「御意」


 お姉ちゃん、多分この戦負けると思うけど大丈夫なのかな。まぁ私は、自分の仕事を真っ当にしておけばいいかな

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