第3話 虎臥城の落城
はぁ、なんだろうこの
私は、母の死後何とも言えない虚無感に襲われていた。そんなある日の事だった。
「結奈様、話し聴いていますか?」
「う、うん聴いているよ」
「はぁ、本当ですか?」
いつも通り当主としての仕事をしていると萌花に少し気になった事を聞いた。
「ねぇ、萌花、この症状に当てはまる病気って知ってたりするの?」
そう言って私は、萌花に紙を渡すとクスッと笑った。
「えぇ、分かるわよ、恐らく症状からするに、ADHDの可能性があるわね」
「ふーん、そうなんだねぇ・・・・・・」
「それが、どうしたの?」
「いや、別になんでもないよ・・・・・・」
そう話を
「ていうか、結奈?課題そんなに掛かるのはおかしいのだけど?」
「べ、別に普通じゃないの?」
「ふーん、正直な事を言いなよ?」
そう言う萌花の顔は、まるで亡き母のような鬼の
「えーと・・・」
「結奈、はっきり言いなさい。だいたいわかっているのだから」
「少し本を読んでいただけだよ」
「ふーん、当主の仕事がまだ残っているのに随分余裕ね」
「いや、そのぉ」
「まぁ、今日中に全部終わるのならいいけど?」
そう言うと萌花は、私の部屋の隅に座った。
「どうしたの?」
「いや、あんたを監視しているのよ?」
「うぅ、そんな事しなくてもいいじゃない?」
そう言うと萌花は、深いため息をついた。
「あのさ、結奈が処理しないと行けないやつの大半私がやっているの分かってる?」
「うぅ、ごめん」
「なら、さっさとやるよ?」
「はーい」
そんな会話をしている中、城内がいつもと違って騒がしいかった。
「騒がしいわねぇ」
「結奈、少し見てくるからあなたは仕事終わらせなさい」
「そんなぁー」
そう言って萌花が私の部屋を出ようとすると、
「お館様申し上げます、白鷺軍二万がこちらに進軍中との事です、いかがいたしますか?」
そう足軽に言われても、あまりの恐怖のあまり頭が真っ白になった。すると萌花が足軽に現状を聞いていた。
「今誰が指揮を取っているの?」
「現在は、筆頭家老でおられる
「そう、分かったわ、もう下がっていいですよ」
「ごめん」
そう言うと足軽は足早に去って行った。
「ごめんなさい、当主がやらないといけない事なのに・・・・・・」
「別にいいけど、大丈夫?」
「え、えぇ、大丈夫よ」
「とりあえず、評定の間に向かう?」
「そうね」
そう言って私は、軍議が行われる評定の間と呼ばれる四十畳ほどの部屋に向かった。
そこに入ると、戦況の厳しさが分かる資料が散らばっていた。
「萌花とお館様、どうしてここに?」
そう言うと一人の女性が私達に声をかけた。
「お館様、敵は目前まで迫ってきております、既に
「そんな事しては、出来るはずがないでしょう?」
「そうだよ、お母さん」
そう言うと珍しく萌花が、私の意見に同情した。そう今指揮を取っている女性は、萌花の母にして私の母の代から筆頭家老として母と共にこの家を守って来ている真中家現当主真中桔梗である。
「なら萌花、北の要である
そう言うと萌花は、考え込んでしまった。
「でも桔梗様、
そう言うと桔梗は、ため息をついた。
「お館様、お言葉ですか、いずれの城も大軍には持ちこたえられません」
「なら
そう言うと桔梗は、難しい顔した。
「お館様、既に大蔵城並びに青倉城は敵の総攻撃が始まっております、また山東城も敵の総攻撃を既に受けておりもう・・・・・・」
「噓でしょう…」
「でも、あそこは、
「その法道寺城が、先ほど落城したのですよ・・・・・・」
私は、諦め切れなかったのだ。なぜなら、二度も落城する機会を見たくないし、これ以上家臣を失うのは嫌だと言う理由からだった。その一心で、地図と敵軍の配置を見た。だが、戦力の差があり過ぎる為、一度体制を整える為に私は、こんな提案をする。
「なら、この城を放棄して一緒に逃げよう?」
そう、言うと桔梗を始め黙り込んでしまった。
「お言葉ですが、お館様その策には乗れません」
「なんで、逃げないのよ?」
私の問にしばらく考え込んだ後桔梗は、ぽつりと言葉をこぼした。
「お館様、私達は、お館様を無事に逃げさせるために残る必要があるのです・・・・・・」
それは、私と言う一人の命を守るためにそれ以外の方法が無いと言う事の裏返しの意味を持っていたのだ。
「それなら人形でもおいておけば…」
「それは、出来ません」
「そんなぁ…」
「もう、私達には勝ち目が無いのです、
「そんなぁ・・・・・・」
そう陰陽師になれる人は、この国で六家しかないのだ。東北の
私は、それらを考慮して次なる案を考えている最中、萌花が後ろに立った。
「すみません、結奈様少しの間静かにしてもらいます・・・・・・」
むぐぅ、むぐぅ
私は、萌花に布で口を防がされた後縄に拘束させられた後、荷物を入れるような箱に放り込まれた。
「母上、これでよろしいでしょうか?」
「えぇ、上出来よ、萌花」
「母上、私達はこれからどこに逃げればいいのですか?」
「萌花、心配しないで、この手紙を
「この手紙は、あなた達の身分証と結奈
「母上、このような重要な手紙私には、無理です」
「萌花、ならこれを
「まぁ、内府様なら知っているからいいですけど?」
「なら、よろしくお願いねぇ」
「はい、お母さん」
そう言うと桔梗は、配下の足軽に何か指示を出しているのが聞こえたが、私は自分の無力だと言う事を知って箱の中で泣いていると萌花が声をかけて来た。
「結奈、これから城外の
「ねぇ、その前に荷物どうするの?」
そう私には、自室にある書物だけは持って行きたかった。なぜなら母から貰った大切な書物があるからである。
「まぁ、そう言うと思っていたので、先に立雲峠に運ばせています」
「分かったわ」
そう言うと萌花は、私の入った箱とそれを持つ数人の箱持ち係の足軽と共に広間を後にした。
「萌花、ここはどこなの?」
しばらくすると萌花は、私が入っていた箱を開けて私は辺りを確認した。
「それは、後で話すからとりあえずこれに着替えて?」
そう言うと明らかに貧しい人の服を渡された。
「これに着替えないといけないの?」
「じゃないと命落とすわよ?」
そう言うと私は、仕方なく着替える事にした。
「着替え終わったなら、この袋持って…」
「この袋は、絶対に開けちゃだめだからね?」
「う、うん」
「あと、結奈この荷物、霊札で何とか出来ない?」
そう萌花が私に聞いて来た。確かに以前、母の書物で荷物をまとめる為の霊札を見かけて一枚拝借して置いた事を思い出した。
「あるけど、どうしたの?」
「それを使って荷物をまとめて置いてくれる?」
「分かった」
そう返事をすると私は、荷物を隠す敷物の上に霊札を置いた。
「小袋の四次元の空間に納まり給え」
そう言うと大量に持って来た荷物は、一枚の紙の中に消えて行った。
「さすがだねぇ、結奈」
「すごいでしょう?」
そうやって私が自慢していると後方から鉄と鉄のぶつかる物音が聞こえて来た。
「結奈、行くよ」
「う、うん」
そうして私達は、山中を北へと登って峠の山頂に着いた頃だろうか。城の南で、大砲の音が鳴った。
「ねぇ、萌花さっきの音って」
「う、うん多分ねぇ」
そう萌花は、どこか寂し気な顔しながら私達は、山頂から自分達の城が攻略されている様子を見ていた。そんな会話をしていると城下で火の手が上がった。私は、辺りを見渡すとあちこちで煙が上がっていた。
「この調子だと残りの城は全滅だね…」
「そうですね…」
「ねぇ、萌花……」
「何に、結奈?」
「わ、私って弱いのかなぁ…」
「いいぇ、そのような事は…」
「二度も私の周りの大人を傷つけてしまっているのよ……」
「なら、今はその大人達の為に逃げましょう…」
私は、静かに頷いた。やがて城下だけであった火の手は城に燃え移り真っ赤に染まる虎臥城に
時は少し遡って虎臥城の城内では…
「大将、お館様並びに娘様の脱出、無事に完了しました」
「そう、ありがとう」
「これで、
「そうだね」
そう言う桔梗は、上段の間に座った。
「皆の衆、これで気兼ねなく白鷺の
うぉぉ――――
「敵は、白鷺軍の総大将ただ一つ、
うぉぉ――――
「
うぉぉ――――
そうして、虎臥城の戦いは、白鷺軍の死者、三千人と真中軍の死者、二千三百人の死者を出す形で決着が付いたのだった。落城後、白鷺軍は、ある遺体を探すのに翻弄していた。それは、虎臥家当主の亡骸だった。
「申し上げます、陛下」
「見つかったの?」
「いえ、恐らく逃亡したものかと・・・・・・」
「そう、いいわ。姫路に戻るわよ、
「御意」
さぁ、結奈姉様、真の若宮王家の当主を決めましょう
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