第5話 祖父との再開

 私とさめさめを率いて僅かに残して置いた金山残留部隊を除いた部隊を率いて本陣に戻ったのだが、私は衝撃の景色を目の当たりにする事になった。

 「御大将、あれ囲まれておりませんか?」

 そう一人の兵士が指差したのは、我軍の本陣を取り囲むように狐の紋が翻っていたのだ。

 「さめさめあれってもしかして朱奈が反旗を翻したのかな?」

 「おそらくその可能性は低いものかと思います」 

 そう答えが返ってくると私は、少し頭を抱え込んだ。なぜなら裏切るタイミングなどいくらでもあったのだ。なのに、このタイミングで裏切るのかと言う事を考えていた。

 そんな感じで考えているとさめさめが話しかけて来た。

 「どうするの?」

 「仕方ない、金山城に退却しようか……」

 そう考えて命令を下そうと金山城に向かって進軍しようとしたその時だった金山城には、既に狐の紋の旗で埋め尽くされていた。

 「とりあえず、本陣に戻って現状を確認する」

 「御意」

 そう言って私は、数人の兵士を率いて本陣に戻った。


 「すまないが、通してくれないか?」

 「すみませんがそれは出来ません」

 「なぜなのです?」

 そう聞こうとすると後ろからある見覚えの少女が出てきた。

 「朱音様、どうされたのですか?」

 「どうされたじゃないでしょ、なにぐずぐずしているの?さっさとこの者達を捕えなさい」

 「は、仰せの通りに」

 そう言うと兵士達が私達を包囲した。すると兵士がこんな事を言い始めた。


 「内府様は、私達を処罰するつもりなんだ」

 「落ち着きなさい、とりあえずあなた達は動かないで」

 そう言って私は、金山城から奪って来た馬から降りて朱音の目の前にやって来た。

 「どういうつもりですか、狐ノ宮朱音様?」

 そう軽く圧をかけて話すが、何事も無いように振る舞っている。

 「何もございません、内府様より貴方を帝城ていじょうにお連れせよと命じられましたのでお連れするだけです」

 そう言うと私は、ある違和感を感じた。それは、味方の兵の気配が全くと言っても良いほど感じないのだ。後方の金山城にも虎の紋や若葉の紋が一本も無いのだ。そして本陣にある青の桔梗旗が無くなっているのだ。

 私は、朱音に確信を込めてこんな質問をした。

 「もしかして、皇帝陛下のご命令ですか?」

 そうこんな事が出来るのは、私の祖父にして皇帝であるみなと保津たもつただ一人なのだ。だが、確か私の記憶が正しければもう七十八か九の高齢である。そんなお爺さんにこんなだいそれた事本当に出来るか、そんな事を考えながらもこの国で鯨紋に不動の御旗を持って進軍するのは祖父しかできないのは知っている。

 すると朱音は、何も無いように返事を返して来た。

 「その質問にはお答え出来ません、何も答えるなと内府様より厳命されていますので」

 そう朱音は、淡々と答えた。まるで、何かを隠しているようだったが、私はあえて追求する事を辞めた。

 「分かった、これより湊城みなとじょうに向かう、戦闘行為の一切を禁止するよいな」

 「御意」

 そう言うと私は、朱音の率いる部隊の一隊に預けられる形で、帝城である湊城に向かう事になった。

 この金山城から一日ぐらいで馬なら行けるらしいのだが、夜道を行軍するのは危険である為と言う理で一度敦賀城に入って帝城に向かったのだ。


 「結奈様、まもなく帝都に着きます」

 そう私の横を一緒に武装をした朱音が話しかけて来た。私は、正直に言ってこの訪問は余り乗り気と言うよりはどこか違和感を感じた。まるで、こっちにっ来ている事が分かっているかのようと言うよりは、監視されていると言っていいほどである。

 そんな事を考えながらも私は、朱音と金山城を落城させた部隊と共に帝都である一乗谷に入った。

 「朱音もあまり帝都に来たことが無いので案内出来ないですが、内府様の用が済んだら一緒に観光とかどうですか」

 「そうですね」

 そう私は朱音の誘いをあっさりと返した。正直に言ってこの街を見ていると虎臥城と若宮城わかみやじょうから見る街並みを見ているようで少し寂しい気持ちになると同時に憎悪ぞうおと言う二つの感情に苛まれていた。

 そんな感情などどうでもよいと言う勢いの如く私は、帝城である湊城にやって来た。湊城は、山の上に建てられた城で防御力の強い城である。そして、湊城の最大の特徴と言えるのは、横長に伸びた城郭じょうかくである。これは、虎臥城でも採用しているものなのにどうして湊帝國の帝城にも採用されているのか不思議な感じで見ていると朱音が守衛兵に声をかけた。

 「内府の妹の狐ノ宮朱音です、内府様の命により虎臥家当主虎臥結奈と以下従軍兵じゅうしゃをお連れしました」

 「分かりました、結奈様は私達が案内しますので、従軍兵の皆さまは朱音様の方でお願いします。既に萌花様ご到着ですと結奈様にお伝えするよう内府様と若狭殿から頼まれています」

 「分かりました」

 そう言うと朱音は、私が率いてた数人の兵と共にどこかに行ってしまった。私は、守衛の若狭殿と言う言葉に少し疑問を覚えたが、まさか気のせいだろうと思っていた。


 「お待ちしておりました、旧若宮王国第一王女現虎臥家当主虎臥結奈様」

 そう言って城門の奥からどこか見覚えのある顔がやって来た。

 「はぁーやっぱりあなたの仕業なのね、若狭わかさ若宮家当主若宮琴音ことね

 「さすがですね、虎姫様私の事覚えていらしたのですか」

 「そうね、琴音がやって来ると言う事は今回の接待役はあんたでしょ?」

 そう私が聞くと琴音は、少し残念そうな感じで首を縦に振った。そして、姿勢を正して私達に改まって挨拶をした。

 「ようこそお越しいただきありがとうございます結奈様、長旅の休憩所がございますのでご案内いたします」

 そう言うと先ほどの天真爛漫てんしんらんまんさとは打って変わってクールと言うかどこか大人ぽっさを感じる空気で琴音は、私達を本丸の休憩室と言われる遠侍間の虎の間と呼ばれる所に通された。

 「では、またお声掛けさせてもらいますのでしばらくの間お待ちください」

 「分かったわ」

 そう言って琴音は、去っていった。それを確認した先に到着していた萌花がこんな事を聴き始めた。

 「ふゆ、さっきの子は誰なの?」

 「あー琴音の事?」

 「あの子どんな子なの?」

 

 そう萌花が琴音について聴いいて来たので、私は萌花に簡単な説明をすることにした。琴音は、私から見るとめいと言う所である。王族の中で、唯一の軍事のトップである征夷大将軍を歴任する名家である。しかし、王家を倒した新政府である白鷺軍によって領地である若狭は、次々と蹂躙じゅうりんされていき最後は、琴音と数人の家臣と共に湊帝國に逃げ込んだ。

 そう話すと萌花は、こんな事を言い始めた。

 「それじゃ、こんな接待役みたいなする家ではないのにどうしてしているの?」

 「多分だけど、普通の家臣として扱われているのだろうね」

 そう言うと萌花は、何も言わ無くなった。萌花には、こう言ったが私は少し気になる事があった。それは、琴音の部下が異常とも言えるほど少なかったのだ。確かに若狭侵攻によって琴音の家と言うより琴音自身と言った方がいいだろう、家も家族も失って残った家臣と共に逃げた聞いていたが琴音が単独でいるのは不自然な事を考えてると襖の向こう側から声が聞こえてきた。

 「結奈、少しいいかしら」

 「あ、どうぞ」

 そう言って襖を開けたのは、内府の妹である朱音が数人の家臣と共に敦賀においてきた衣装と共にやって来た。


 「これ、お姉ちゃんには内緒で持って来たから良かったら使ってね」

 「ありがとうございます、朱音様」

 「じゃ、私は広間で待っているわ」

 そう言うと朱音は、襖を閉めて広間の方に向かって行った。

 そこには、若宮王家しか使用が許されない若葉色に染め上げた衣装に平緒ひらおには若緑に白く染め抜かれた虎の御紋が施されていた。

 「結奈これって……」

 「えぇ、私の兄が本来王位継承の儀式で使うはずだった束帯そくたいを染め直したのよ」

 そうこの直衣は、本来なら私の兄が王位継承の儀で着るはずだったのだけど白虎戦の前に兄が私の誕生日プレゼントとしてくれたものであり、若宮王家が最後に作った継承儀式けいしょうぎしき衣装なのである。

 それに着替えようとするともう一つの衣装が入っていたのだ。それは、深い青色に染め上がった衣装に紫の平緒には鮫の御紋と桔梗の紋が水色で縫い上げられていた。

 「萌花、あんた束帯持っていたの?」

 「いえ、持ってないですけどどうしたのですか?」

 「いや、これ私のと一緒に入って来たからさ」

 そう言って萌花に見せると萌花は、どこか納得した様子で話し始めた。

 「恐らく、真中家の正式な当主に就任させると言う事だと思いますよ」

 そう言うと萌花は、束帯に袖を通した。私も着替えながら萌花に気になった事を聞いた。

 「ねぇ、萌花真中家の家紋って鮫の御紋よね?」

 「えぇ、そうですけどなんで桔梗ききょうを使っているの?もしかして明智あけちなぎさの家だったりしないよね?」

 そう私は、この紋を使う一家の事を知っているのである。なぜならその一家に救われなければ虎臥城に逃れることなんて不可能だったのだ。その家の名は、明智家で白虎戦でも最後まで抵抗したが帝國軍によって滅亡させられているはずなのである。その一族も滅亡させられている為、もう土岐桔梗を使う一族自体がこの世にはいないのである。しかし、萌花が付けているのは紛れもない桔梗であり、私を守り抜って散っていた一族の紋であった。

 

 「覚えていらしたんですか、我兄の事」

 そう言うと私は、ようやく萌花がなぜ鮫の紋を使っているのかが分かった。なぜなら鮫の紋は、この私が渚に白虎戦の際に与えた紋であり私が好きな男子だんしでもあった。まぁ、好きな理由は男ぽっくない彼の所が好きだったのだ。しかし、白虎城を守る渚には告白をすると言う事は出来なかったのである。それは、身分の差と私が障碍の王女として名が広まっていたのだ。そんな事を知っている彼に告白するなんて出来ないと思った私は、告白をせずに白虎戦で彼の部隊と共に焼け落ちる白虎城を虎臥城の屋敷から眺めていた。

 「そんな事があったんですね、兄との間に……」

 「どうしたの、萌花そんなニヤニヤして?」

 そう言うと萌花は、そっぽを向きながら着替えをほとんど終わらせていた。

 「別に、結奈様にもそんな初心うぶな恋があったのですね」

 「ま、まさか漏れてた‥‥‥‥」

 「はい、しっかりと聞こえていましたよ」

 そう萌花に言われて私は、途端に恥かしくなった。

 「ほ、ほら萌花着替え終わったのなら手伝いなさい」

 「はーい、結奈様」

 そうニヤニヤしながら萌花に着替えを手伝って貰い終わる頃に奥から人のやって来る気配を感じた。


 「萌花、誰か来る」

 「えぇ、恐らく迎えの者かと思います」

 そう耳打ちが萌花がすると同時に襖の向こう側から声が聞こえた。

 「結奈様、入ってもよろしいでしょうか」

 「構わない」

 そう言って入って来たのは、琴音だった。

 「何の用だ琴音?」

 「は、支度の方がご準備出来たのでお迎いに上りました」

 「そうか、では案内を任せる」

 「御意、結奈様」

 そう言うと私は、立ち上がり琴音の後を追うように部屋を出ようとすると萌花が声をかけて来た。

 「結奈、あんな態度出来るのね」

 「まぁ、家臣の前ならあの程度しないといけないでしょう、内府様もやっているじゃない」

 そう小さな声で萌花に言うとどこか納得した感じで私の背後についてついて来た。


 「虎臥家現当主虎臥結奈様並びに真中家当主真中萌花様ご到着でございます」

 そう琴音が言うと襖が開くとそこには、内府である朱奈を始め多くの家臣が両隣に座っていた。そしてその奥には、御簾みすで隠されているが、数人の気配がした。

 まさか、お爺ちゃん御簾の中から孫娘を拝むのか

 そう思いながら私と萌花は、二百畳ほどの広すぎる部屋の真ん中に腰を下ろした。

 「遠路はるばるご苦労じゃ、孫娘ゆなよ」

 「は、お爺様もお元気そうで何よりでございます」

 そう言う突然広間が騒ぎ出した。私達を囲む家臣達が小さな声である噂につい話あっていたのが偶然聞こえた。

 「ねぇ、萌花やっぱり若宮家の跡取り姫の噂流れているんだね」

 「そうですね」


 そう噂とは、私の元の家である若宮王家にまつわる話ある噂話だ。それは、若宮城の落城直後の話まで遡ることになる。その頃反乱軍は一族の首を検証していたが、ある一人の首が無い事に焦っていた。それが若宮王家第一王女である若宮結奈の首である私の死体であった。その頃の私は、まだ一歳かそこらの赤子であるが反乱軍からすれば王家復興する団体の旗印になり兼ねないのだ。自分達が私の妹を旗印にしたように利用するに決まっていると考えた反乱軍は、血相を変えて探したが見つけることが出来ずに今家臣達が話しているような噂が完成したのである。

 そんな噂に御簾の奥から声がした。

 「静まらんか、わしの孫娘如きでうるさいの。内府よこの御簾を上げておくれ」

 「よ、よろしいのですか陛下?」

 「構わん、早くしろ内府」

 そう言うと内府は、裏に控えていた家臣数人と共に御簾の前にやって来て御簾と呼ばれる前世で言うすだれみたいなものを巻き上げた。

 「久しいの結奈」

 「お久しぶりです、お爺様」

 そう言うと改めて挨拶をすると内府は、陛下にこんな質問をしてきたのだ。

 「恐れながら陛下、虎臥殿とのとはどのようなご関係があるのか我らにご説明の方をお願いしてもらってもよろしいでしょうか?」

 「結奈は、若宮王家の後継者でわしはこの子の親に王位を継承した後にこの子の後見となったんじゃ」

 そう言うと家臣たちは、どこか疑問を抱いた感じでお爺様を見ていた。その様子を見た内府は、お爺様にこんな質問をしたのだった。

 「恐れながら陛下、陛下が若宮王家の人間だったと言う記録は無いのですがどういう事なんですか?」

 「あぁ、恐らく沙綾さや側の人間が反乱の正当性を作る為にわしを利用したのだろうな」


 そうどこか寂しそうな感じでお爺が過去の話を終わると広間には何とも言えない空気が流れた。そんな空気を遮るようにお爺は、私に向かって手招きをしていた。

 「結奈、こっちに来な」

 そう言うと私は、痺れる足を引きずりながらお爺が居る上段の前にやって来て座ろうとするとお爺は、自分の横にある誰か座るようの畳を指していた。私は、恐る恐るお爺のいる上段の間に足を踏み入れて座った。上段に座るなんて虎臥城の落城一か月前の評定で座って以降座って無かったので緊張したが、特に座っているだけなのでする事は無いと思っているとお爺は、こんな事を言い始めた。

 「この結奈に皇位を継承する」

 そう言うと広間は、凍り付いた。私にしたらいつもの事だなと思って下にいる萌花も全く同じのようで両隣にいる家臣達がざわめいているなか驚くそぶりもなくいつも通りの事のように振る舞っていた。

 「一同、静粛にしな」

 そう内府が何度声をかけたのか忘れた頃にようやく静けさが戻った。

 「陛下、恐れながらなぜこのタイミングで継承されるのかについて説明の方をお願いできないでしょうか?」

 そう言うとお爺は、少し黙り込んだ後にゆっくりと話し始めた。

 「恐らくもう皇帝として責務を全うできる身体ではないから、孫に皇位を継承するだけじゃ」

 そう言うと広間にいる家臣はどこか納得していた。私もうっすらと分かっていたのだ、こう言う継承の時は死期が分かっている人間が混乱を産まない為に自分が元気の時に行うと言う事を私と萌花は身をもって体験をしているから分かっているのだ。

 「分かりました、陛下」

 「では、これにて解散とする」

 そう言うとお爺は、部屋を出ると同時に頭を下げてた。まぁ、隠居宣言して皇帝と言う地位が無くなっても名君だから頭を下げるのかなと思いながら私はお爺が部屋を出るのを待っていた。

 そしてお爺が部屋を出ると皆が頭を上げると皇帝に就任した私と家臣と言う構図が出来上がっていた。

 「結奈陛下様、萌花様はとりあえず控室にお連れてくれるかしら琴音」

 「分かりました、内府様」

 そう言って私と萌花は、広間を後にした。

 

 湊保津の隠居は、その日のうちに敵である白鷺帝國に報告された。

 「そう、将王しょうおうが隠居ね」

 「樟蔭しょういんお婆様、どうするの?」

 「姫華はどうするの?今はあなたがこの国の長なんだから」

 「でも、沙綾お婆様は既に隠居して樟蔭と名乗っているけど実権を掌握しているから恐らく将王である保津お爺も同じことをするのじゃないかな?」

 そう姫華が言うと樟蔭は、少し黙り込んでから姫華にこんな事を言った。

 「なら、分裂の原因を作った帝國を潰してしまえばいいんじゃないのか、違うか?」

 「そうですけど、姉もいるのですよ?」

 「あの子が今の皇帝に就任したのか、なら私が先に侵攻するからあなたは咲輝さきと共に後で侵攻しなさい」

 「ですが、一体どこから侵攻されるのですかお婆様」

 「近江よ、将王の居城である大津城を攻めるわ」

 「分かりました……」

 そう言って姫華は、部屋を出て行った。

 「咲輝の予想通りになりそうね、どうしようかな」

 そう呟きながら部屋に戻った。

つづく

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