第12話 撤退せよ
あぁ、もう。何がなんだかなぁ。
「おいっ、おはなさんっ! 話が違うじゃねぇかっ!? 今なら、マンイーターを分散しても問題無いって言ったよな!?」
現在、俺たちは緊急の報告を受け、ポチの背中に乗って拠点へと帰還中。夕日が目に染みるほどに赤い。
その一報は三か月前に作った大型の拠点に残してきた、アスからもたらされたものだ。
なんでも、ハンターたちが大挙して、
『まぁ、こう言う事も稀によくあります』
「おはなさん、一応、AIだよね?」
『はい』
こいつは、ダメだぁぁぁぁぁぁっ! ポンコツだぁぁぁぁぁぁっ!
『ですが、アス以外は割とどうでもいいでしょう。再生しますし』
「そういう問題じゃないっ! アスの心が木っ端微塵になっちゃうでしょうがっ!」
『人間とは面倒臭いですね。やはり、滅ぼすに限ります』
「面倒臭くなったら滅ぼすとか、おまえ悪魔だろ」
『でっびーる』
「ポチ、急いでっ!」
「わうーん」
おまえだけが頼りだっ、ポチっ。
ポチは一応生物であり、機械とは違って能力が自然上昇する。しかし、何もせずに堕落した生活をしていると逆に低下する。
俺と行動を共にするようになってから、ポチは粉骨砕身の働きを見せていた。そうしたこともあり、並のマンイーターを遥かに超える能力を獲得していた。
ただし、耐久力面に関しては殆ど向上の要素は見当たらない。こればかりは外部ユニットを装着し簡易的に頑丈にするしか方法が無いらしい。
そして、それを行える施設は今のところ発見できていない。したがって、中央管理センターに到達するまでは現状維持するしかないのだ。
ただ、それ以外は【突然変異】という形で次々に特殊能力が追加されていっている。ポチは元々、突然変異で生まれた個体なので、それが顕著だという。
確かに、他のマンイーターたちは突然、何かを習得するということが無く、ひたすら地味な成長を続けていた。
俺がポチに出会ったのは幸運であり、そして、不幸でもあった。こいつがいなければ、何も変わらなかっただろう。でも、何かが始まることも無かった。
俺もポチに対しては思うところがある。でも、こいつは与えられた仕事を忠実に守っていただけなのだ。
誰が悪いでもない。間が悪かっただけ。そう、自分を納得させないと、色々と感情がエクスプロージョンし、頭がおかしくなって死ぬ。
まぁ、死んだくらいじゃどうにもならないのが辛いところだ。
上下に揺れる視界の中、黒煙が立ち上る拠点を認める。情報通り、拠点がハンターたちに襲われているのだ。
ちなみに、ポチには足から【根】を生やして物理的に接合している。なので、どんなに激しい動きをされても放り出されることはない。
これも俺の能力の一つらしいが、使い道は今のところこれしかない。簡易シートベルトのような物だ。
『見えました、クイーン。あぁ、今はキングですか。ハンター、五十。内、戦車三十。マンイーターM-114・514型、十一となっております』
「どっちでもいいよ。マンイーターの撃破された数は!?」
『マンイーターの死亡数は十五となっております」
「半分以上もか……ハンターは殆どがAと考えてもいいだろうな」
『いえ、Sが混じっている、と考えた方がいいでしょう。Aの集団ごときが通常型とはいえM-114・514型を一方的に撃破できるとは思いません』
「Sか……確か
『はい、戦闘能力も頭一つ抜けている、と覚えておいてください』
厄介な相手だということは間違いない。場合によっては拠点を放棄し撤退も視野に入れた方がいいだろう。
以前の俺とは違い、今は守る者がある。
そして、ハンターたちは同じ人間のドルイドたちにも容赦しないだろう。あいつらは本当の意味で人間の皮を被った悪魔なのだから。
「アスと連絡を」
『了解しました。コンタクトを取ります』
俺の頭の上のおはなさんがピコピコという機械音を発する。実にシュールな光景だ。
母機がおはなさんで、子機はおはなさんの花びらとなる。子機を持つ者はおはなさんの花びらを額に張り付ける必要があった。
なので現在、アスはそれを無くさないように赤いバンダナを額に巻いていた。
『繋がりました。通信を開始します』
「アス、無事かっ!?」
『ナナシ様もご無事でっ!?』
「あぁ、すぐ傍にまで来ている。ドルイドたちは無事かっ?」
『数名やられました。今はM-893が応戦してくれていますが、突破されるのは時間の問題かと』
「そうか」
これはじり貧と考えた方がいいだろう。ここの遺跡はまだ十分に探索を終えていないので正直、手放すのは惜しい。
しかし、ドルイドたちの命と比較した場合、そこまで固執する必要性は無い。
「アス、遺跡を放棄する。直ちにドルイドたちと
『この拠点をっ!? しかし―――』
「命令だ。お前たちの命には代えられない。悔しいなら
『りょ、了解いたしました。これより撤退を開始します』
これで、ひとまずは良しとしよう。
『アス、撤退経路のデータを送信します。ここを通って脱出なさい』
『え? おはな様、ちょっ、まっ―――ほげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
あぁ、また何の脈絡も無しに。
データを直接、人間の脳にぶち込んだら激痛が走るって言ってたじゃないの。
たぶん今、アスは色々な物をぶちまけて酷い有様になってるだろうな。可愛そうに。
『あとは遺跡の外のハンターたちの注意を逸らしましょう。遺跡内のハンターたちはM-893に特攻攻撃させれば殲滅できるでしょうから』
「自爆攻撃させるとか、血も涙もないのか」
『樹液なら』
「あっはい、そうですね」
すっかり日も落ちて満点の夜空だ。ハンターたちがいなければ、水が入ったコップを片手に月見酒ならぬ、月見水と洒落込むところである。
そんな風情を台無しにしているハンターたちをボコるために戦場へと突撃する。実際にそれを成すのはポチであり、俺はくっ付いているだけなのだが。
だが、俺がポチに物理的に接合しているのは意味があることだ、とおはなさんは言う。
『戦闘区画に侵入しました。戦闘を開始します』
「ポチ、がんばえー」
「わおーんっ!」
会話だけだとほのぼのしているが、絵面はそれはもう酷いです。四本腕の艶々外殻を持つ巨大な化け物が襲い掛かってくるんだから、ハンターたちも堪ったものではないだろう。
そして、俺が接合していることにより、ポチは突然変異した能力を行使できる。つまり、俺はポチの強化パーツ。俺自身が何かできるわけでもなく、ただそこに居るだけでいいという。
そう、俺はオマケなのだ。悲しいなぁ。
「ごぉるるるるるるるるるるるっ!」
「うおっ!? 新手かっ!」
「一匹追加したところで大差は無いっ! やっちまえ!」
ハンターの戦車の種類は基本バラバラなのだが、どうやらこいつらは揃えているようだ。きっとSハンターが率いているチームなのだろう。
戦車の外観は【メルカバMK-3】に酷似している。巨大な砲身と重装甲はマンイーターでも苦戦するであろう。一方的にやられてしまっている理由が分かった。
しかもこいつら、【ナパーム弾】を使ってやがる。ナパーム弾は当たると対象を継続して炎上させる効果を持つ。
これは生物に対して極めて効果が高く、マンイーターに対しても一部を除き有効打となろう。
だが製造コストが高く、一般的なハンターはほぼ使用しないはず。だというのにバンバンぶっ放しているということは、有名なSハンターがここに攻め込んできた、と考えてもいいのだろう。
六年もハンターたちと殺し合いもしていれば嫌でも覚えるわな。もっと嫌なのは、確実に仕留めないと、しつこく追ってくる、ということ。
追いかけ回されたら星の再生にも差し支えるので、なるべくならここで決着を付けたい。
「今のポチなら、やっつけられるかな?」
『深追いは危険です。我々は再生できますが、ポチはそれができません。消耗品とはいえ、大切に扱うべきでしょう。何より、再育成が面倒臭いです』
「おいっ、AIっ」
まったく……おはなさんは
とはいえ、彼女の言うことも一理ある。俺たちみたいに雑に扱ってもいいわけではない。
であれば、引き際をしっかりと見極めるべきだろう。
「行けっ、ポチっ! ハンターたちをやっつけちまえ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ポチが咆える。すると地面から何の脈絡も無しに巨大な根が突き出し、戦車の腹を突き破った。
これが俺と接合することによって使用可能な特殊な能力。おはなさんはこれを【
「な、なんだっ!? 三番、四番っ! 応答しろっ!」
「ダメだっ! やられたっ! 止まるなっ! 止まればやられるぞっ!」
メルカバMK-3の機関砲を乱れ撃ちしながらハンターたちに警告する者がいた。
「あいつか?」
『恐らくは』
きっと彼がSハンターで間違いない。的確に指示を出し、植根突の直撃を阻止している。
この技は初見なら回避不可能の反則攻撃なのだが、一度に出せるのが二本までなのが痛い所。それでSハンターを仕留められなかったのは不運だっただろう。
まぁ、誰がそれに相当するのか分からない時点で仕方が無いのだが。
気を取り直し攻撃を続行させる。M-114・514型はまだ健在。彼らと連携を取り各個撃破を目指す。
彼らを指揮するのはおはなさんだ。俺は戦況を見守り最終決定を下すだけ。何をするにしても、おはなさんとポチには敵いませーん。
「な、なんだこいつらっ! 急に動きがっ!?」
「止まるなっ! 撃ちまくれっ! とにかく数を減らせっ!」
「やってる……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
一台、また一台と撃破して行く。ポチが加わった途端に戦況はこちらへと傾いた。
だが、それでもハンターたちは粘り強く戦い続ける。
「撤退は考えるな! 後ろを見せればやられるだけだ! 勝って生き残れ!」
Sハンターの鼓舞がハンターたちを活かす。M-114・514型もまた各個撃破されていった。酷い消耗戦、俺がそう呆れている時、それは現れた。
月の白い輝きに照らされる灰色の巨人。それは一見するとマンイーターにも見えた。しかし、圧倒的に違う部分は、彼らを構成するパーツが全て人工物だということ。
「なんだぁ、ありゃ?」
『
「マジか。強いの?」
『大したことはありません。戦車ほどの装甲も無く、戦車の主砲を上回る攻撃力も持ち合わせません』
「なんだよ、ただの案山子かよ。ビックリさせんなよなぁ」
『ただし、パイロットが【魔法使い】だった場合は別となります』
「どういうこと?」
『
「え?」
『機体は人間の生命力を【オーラ・コンバート・ブースター】で増強してエネルギーとします。また、学習システムを搭載しており、戦闘での経験値を蓄積してゆきます。そして、魔法使いの能力を十倍にするシステムを搭載しているのです』
つまり、人間をエネルギー源とした殺戮ロボットって認識で良いのだろうか。
「大雑把に理解した。マジキチだろ。んで、もしパイロットが魔法使いだった場合、どうなる?」
『ああなります』
なんということでしょう。そこには一瞬にして接近され、
「えぇ……マジかよ」
『魔法使いで確定ですね。これは相手が悪い。逃げましょう』
「判断が早いっ」
『相手に戦闘経験を積ませてはいけません』
「あぁ、そっか。戦うなら仕留める気でやらないといけないのか」
厄介なこと極まりない。でも、相手は俺を見逃す気は無いもよう。
『ナナシ……やっと見つけた』
「何? 俺の名を知っている?」
女の声―――にしては妙に幼い。そんな奴がパイロットだというのか。
いや、そんなことよりも妙だ。俺の手配書には【草の子】としか表記されていないはず。だというのに、アレは俺の名を正確に言い当てた。
これから考えられることは―――まさかっ。
『忘れたとは言わさない、フールーでの出来事を。お前のせいで、全てが狂った』
やはり、フールー出身者か。そして、その幼い声。ラリンクの幼馴染ではない。であるとするなら、可能性としては……!
「おまえ、ルッカか!?」
『ナナシ、おまえを殺す』
ボン、という音と共に、白銀と赤で煌めく巨大な刃が俺に迫った。
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