第2話 砂漠の大ミミズ

「んなろぉ! 久しぶりに死んだっ!」


 がぼっと地面から生え出る。

 その場所というのが数日前にキャンプ地とした場所で、死んだ場所から結構離れている場所だ。

 復活した途端に食われる心配はないが、またあそこにまで戻るのに数日は掛かってしまうだろう。


 まぁ、行かないけど。


 それに、砂漠犬とは違って植物を恐れないようなので同じ戦法は通用しないだろう。

 つまり、俺にできる事は、あのくそデカミミズに怯えながら、こそこそと迂回するのみ。


 情けない話だが、戦う力がないんだから当然の選択。

 このぷにぷにを投げつけたって、ダメージなんて期待できないだろうしな。


「くそったれめ。なんだっていうんだ、この砂漠」


 憤慨しつつも別ルートを進む。

 そうすると、大ミミズさんの群れと遭遇しました。


「ははは……ハロー」


 食われました。一口で丸飲みだよ。




「んがぁぁぁぁぁっ! なんだこのクソゲー!」


 憤慨しつつ、土の中からぴょこんと生え出る。

 遂に初期位置に戻されてしまい、やる気を失ってしまった。

 緑の絨毯の上に身を投げ、青い空を見る。


 白い雲がゆっくりと風に流されている光景を見つめていたが、やがてそれも飽きた。

 ため息を吐きつつ、身を起こす。俺にできる事は歩く事だけ。


 前世の記憶なんて役には立たない。

 道具という物があって初めて役に立つ知識など、何も無い今の状態じゃうんこだ。


「ミミズの苦手な物って何かあったか?」


 と考えてみるも思い当たる節など無い。あるわけがない。

 ミミズなんて脅威足り得ないし精々、農家に有り難られる生物、程度の認識だ。


 それが、あんな化け物になっている、だなんて誰が予想するんだ馬鹿野郎。


「いずれにしても、今はあそこら一帯には近付けないか。そもそも、無理して突破する必要性も無いし」


 でも、悔しいから突破します。ゾンビアタック舐めんな。




 十回ほど食われました。




「あ~、ダメだ~。突破できん」


 そもそも無計画なのが拙かったか。それでも、ある程度の情報は集める事に成功。

 連中には目が無く、聴覚が発達していると思われ、振動を感知して地上に飛び出てくる。

 普段は地中に身を潜ませ、太陽光から身を護っている。


 ……こんな所だろうか。ハッキリ言って役に立たん。


「いや、連中の研究よりも、自分の研究をしてみてはどうか?」


 逆転の発想を試してみる。

 その結果、絶望的であることが発覚。俺はこの事実にそっと蓋をして地面に埋めた。


「草が生える。いや、生やしてるけどさ」


 この能力以外、本当に何も無いのだ。

 ファンタジー的な存在だから、魔法とか使えないかなと頑張ってみたが、そんな兆候は一切無く。

 ぷにぷににも魔法使って、とお願いしたが彼らは、きょとんとした表情を見せるだけだ。


 ここに至り、大ミミズはどうにもできない、わはは、という結論に達しました。


「だが、ここで退いては俺の意地に関わる。せめて一泡吹かせたい」


 う~ん、と考えながら歩き回っているといつの間にか大草原が生まれていた。

 ここから先が大ミミズの縄張りとなるのだが、連中には植物が通用しない事が分かっているので、いくら周囲を緑化したところで意味は無い。


 くそったれめ、と身を草に向かって放り投げたところ、背中がやたら冷たかった。


「くそっ、水が湧き出て来てやがる」


 滾々と湧き出る水。

 緑化が進むと稀に水が湧き出てくるのだが丁度、そこに身を投げたようで背中がびしょびしょになってしまっていた。


「やってられん、もう帰る」


 といっても帰る場所なんてものも無いのだが。

 仕方がなく、俺はとぼとぼと大ミミズたちの縄張りから離れる決定をした。

 今度は大ミミズの縄張りとは反対側に挑んでみる事にする。


 俺の始まりの地へと戻って来る、となんだか様子がおかしい。

 草原だった場所に、ご立派様がそそり立っているではないか。


「もう樹が生えてら」


 名前も知らない樹が天に向かって伸びている様は圧巻だ。

 それが何十本も生えている光景を見れば笑うしかない。


 あ、草生えた。


「笑っても草が生えるのか」


 だからどうした、という感じだが。


 だが、笑ったことで多少は気分も晴れた気がする。一人でいると笑う機会なんて皆無に等しい。

 たまに、ぷにぷにどもを眺めて現実逃避することもあるが、あいつらを見ていると虚無になるので長時間見ていると精神崩壊するだろう。

 ぷにぷにがいるお陰で孤独ではないが、やはり意思疎通出来ないのは辛い。俺は今、会話ができる存在が欲しいのだ。

 しかし、こんな下等生物では、それも期待できず。


「くそっ、やっぱり、あそこを越えるしかねぇ」


 腐れ大ミミズ。奴らの縄張りを越え、俺は新たなる土地へと進出する。そのためにも、奴らの欠点なりなんなりを探し出さなくては。

 そうと決まれば、こんな所で油を売っている場合ではない。何度死んでも復活する、この呪われた肉体を最大限に生かして特攻じゃい。


 というわけで玉砕する事、五十回以上。飽きもせずに食い殺してくれやがったミミズどもの弱点が判明した。


 それは、水だ。


 そう、単なる水。なんの変哲も無い水。水が奴らの皮膚に触れると焼け爛れるもよう。理由なんて分かるわけない。俺は研究者様じゃないから。

 でも、十分過ぎる成果だ。これを起点として腐れミミズの攻略を開始する。


 水が弱点、ということはここいら一帯を緑化すれば何とかなるだろうとは思う。しかし、緑化する前にパクリンチョと食われてしまっては、いつまでたっても水を作り出すことはできないだろう。なので、別の方法を考える必要がある。

 この幼児の肉体では戦闘は不可能。走って逃げる事すら無理な事。直ぐに追いつかれて丸飲みにされてしまう。

 なので、連中に気付かれないよう慎重に歩くしかないのだが、ちょっと歩いただけで連中に感知されて地中から一飲みだ。


「何か良い手はないか……今あるもので……」


 その時、俺に奇策閃く。というかこれ以外ない。外道的発想であるが、俺にはこれ以外考え付かないのだ。


「さぁ、いけぇ! ぷにぷにどもぉ!」


 俺は、ぷにぷにどもを生贄に捧げ、砂漠ミミズからの狙いから逃れる策を考え付いた。

 つまりは大量のデコイをバラ撒いて、食われる確率を少しでも減らそうとしたのである。


 その考えは間違いではなく、容赦なく食われてゆくぷにぷにども。その光景はちょっぴり心が痛んだ。だが、それもつかの間の事。なんとこいつら、食われた先から、俺の生やした草から生え出てくる。

 要するにだ。俺は急いでそこから離れなくてはならない。こいつらの飛び跳ねた振動で、砂漠ミミズが、こちらに襲い掛かってくるからだ。


「んがぁぁぁぁぁぁっ! なんでこうなるっ!?」


 流石はショタボディ。走ってもくっそ遅い。懸命に走ってもどうにもならないのでは、と思う。実際にそうなのだろう。いつ食われるのか分からない緊張感は普段よりも倍以上スタミナを消耗させる。


 心臓がバクバクと激しく音を搔き鳴らす。口から洩れるのは限界を知らせる悲鳴。それでも俺は走り続けなくてはならない。

 もしかしたら、それは無駄な努力なのかもしれない。でも、ここを突破しない限り、俺は無限ループを繰り返す定めなのだ。


 そんなのは嫌だ。


 声を出したつもりだったが、声にはならず、代わりにヒューという異様な音が喉から出てきた。体力も限界、精神も限界なのだろう。霞む視界。それは次第に歪んでゆき、光が闇に侵食されてゆく。


 それでも、俺は走った。まだ生きている。死んでいない。死は何度も経験した。怖くないといえば嘘になるが慣れてはいる。

 走れ、走れ、走れ。俺にできる事はそれ以外ない。草を生やしてどうになる。今すべきは走って逃げる。ここを突破する事。


 無我夢中で走った。幼い体で限界を超えて、それでも運命は残酷なのか。身体が浮き上がった。何度も経験した丸飲みの兆候。この後、大量に巻き上げられた砂と共に丸飲みにされ、光も届かない空間に押し込まれて溶かされる。じわじわと、じわじわと。


 常人あら発狂するのだろう。しかし、俺は死んでも強制復活。嫌だなぁ、と思いながら溶かされて死亡するだけだ。

 そして、間を置かずに復活。いや、本当に草生える。


「―――っ!?」


 その時だ、草が生えた。巻き上げられた大量の砂から草が生えた。それは最初、一部だったが、連鎖するかのように次々と草が生え出てくる。それは緑の絨毯。そして、緑の道路へと変貌して行く。

 俺は無我夢中で緑の道路へと飛び乗った。ここで食われて堪るか、と意地を見せる。


 緑の道路は思っていたよりも丈夫。幼児で体重が軽いという事もあったのだろう、走っても足が取られなかった。

 だが、それもつかの間。空中に浮いていた砂から生えたそれは、いつまでも空中にあるわけも無く。加えて砂漠ミミズが飛び出してきている最中だ。


 緑の道は砂漠ミミズに覆い被さる形で落下。その上にいる俺は巨大ミミズに覆い被さるであろう緑の道路の上にいる。それは、意図せぬ形でトランポリンのような効果を発揮。

 つまり俺は、ぽよーん、とロケットのように射出されてしまった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 そして、受け身も取れぬまま、俺は砂漠に突き刺さって死んだ。

 まぁ、死ぬわな。結構な高さから落下したんだから。






 そして、次に意識を取り戻した時。俺は砂漠ミミズの縄張りを超えていた。

 死んだ場所には大量の草。つまり、草原が発生していた。そして、大量のぷにぷにの姿。その中には頭部に若芽を生やした個体がチラホラと。

 だからなんだ、ではあるが小さな変化が起こりつつあるのだろう。だってほら。

 俺の象さんが、ぽとり、と落っこちてしまったではないか。


「なん―――だと―――」


 ショッキング映像。情け容赦無しに心が折れる。どうしてこうなった。

 しかし、次の瞬間、その象さんに植物が集まり巨大な姿へと変貌して行く。それは巨大な植物の象であった。


「ぱおーん」

「中々、笑えねぇぞ」


 なんという事であろうか。俺は、象さんから象さんを生み出してしまった。何を言っているか分からねぇが、俺も何を言っているか分からねぇ。一つだけ分かっている事、それは、ぷじゃけんな、ということだ。


 この先どうすればいいというのだ。まだ、男の身体だったから我慢できた。幼女の身体なんていらない。俺のマイサンを返して。

 そう強く念じる。するとどうだ、植物の象は一瞬で枯れ消滅した。そして、俺の股間から、にょき、っとマイサンが生えてきたではないか。


「あ、焦らせやがって……」


 素直に息子の帰還を喜ぶ。同時にこれって使えるんじゃね、とも。

 幼女になるのは一時の事。巨象での強行突破後に解体すれば男に戻れる。素敵な能力を手に入れた。これは希望だ。なんとかやっていけるのではなかろうか。


「こ、これは使える。幼女になるのはいただけないが、今の俺の最大戦力だ」


 加えて自分で歩くよりも早い。マイサンには申し訳ないが酷使させていただこう。

 再び植物の巨象を強く願う。ぽろり、と息子が大地に落ち、それに植物が絡みついて巨大な象へと姿を変える。


「こりゃあいい」


 男の自分とは違う柔らかな声に戸惑う。だが、大丈夫。いつでも戻れるのだから心配いらない。今すべきことは、この能力を使って、この乾いた世界を調査する事。


 何故、自分はこんな体になってしまったのか。何故、世界はこんなにも乾いているのか。

 明確な目標が無い以上、俺はこれらの謎を解明する旅を続けなくてはならないだろう。


 それでも、まずは会話ができる知的生命体に出会いたいなぁ。とかなんとか思いながら、俺は巨象を歩かせ始めた。


「―――歩かねぇや」

「ぱおーん」


 象さん、草ばっかり食って命令を聞いてくれない。まずは命令を聞いてくれるように教育するところから始めないといけないもよう。


 人生って楽じゃねぇなぁ。

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