盤上に立つのは/幕間

 チェスをしながら老婆と男が会話をする。


「今回の一件、無事解決してよかったですよ。なにかと物騒な世の中なものです」


 男は笑顔を浮かべながら一つ駒を動かす。それに応えるかのように老婆も動かす。


「図書館には前から今回のために仕込まれた魔術の痕跡が発見されたよ。それも”呪詛”の類。随分と気の長い作戦だったように感じるよ」


 老婆は睨みつけるように男を見つめる。


「そうだったのですか。これは円卓の騎士も一段と仕事を果たせなければなりませんね。最近は電脳なんてものが流通して危ないですから。責任なき力は存在してはなりませんよ」


 男の駒を握る姿は、人生を侮辱して貶めるように映る。


「ただそうだねぇ……あの若造らも案外やれそうなことが分かってよかったよ」


 老婆は満足げに声色を良くして喋った。


「ええ、私の教え子なので……ヘレナ先生の元に送った子らも優秀で素晴らしいのですが、私の教え子はそれ以上の可能性に富んだ存在ですので」


 男は駒を一つ盤上から蹴落として、老婆は訝しんだ目をする。


「……マーリン。あんたが人間側、魔術師側に立つ限りは私は敵対なんてしないよ。それは私に限らないアレイスターらの意思も概ねそうだろうよ」


 男は微笑む。


「おやおや、私は何もしてないですけどね」


 駒をまた一つ動かしてチェックメイト。男の勝利となる。だがしかし、男は老婆の方へと向けず別の方へと思いを馳せる。


「私が駒を操るなんて思っていたらそれは違いますよ。私は……駒というのは嫌いです。もっと言えば、チェス等といったゲーム自体が好きではないのですよ。こんなもの解析なんてされてしまえば陳腐と化す」


 老婆はその言葉の糸を汲み取ることが出来なかった。彼は人間の営み、文化を好き好んでいたはずだがそこから発せられる言葉は矛盾している。矛盾しなくても、自身の見えないところでは何かがある、そう確信させる。


 彼の瞳には老婆はどう映るのか。それは誰もわからないだろう。

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