そんなの向けてくるな/想起の図書館その5

「ん。ああ来たか。待っていたさ。今は手数が欲しいからね。ホームズは僕に付きたまえ。ハーンはパーシヴァルの本体の方へ」


 ハーンはそのまま人形の誘導に従って向かっていく。トリスタンの口から開いたのは、私に対して落胆の言葉であった。


「君は僕にとっては羨ましくて、妬ましくて、そして失望した存在だよ。正直見てらんないところがある」


「はぁ……」


 いきなり自分の感情をぶつけられるのは非常に困る。どう言葉を返せば良いのかわからないから。敵影が見えたから矢を放つ。その矢を放たれた先にいた敵は毒矢に突き刺さるかのように動かなくなる。拘束魔術を仕掛けて、すぐさまに動けなくし、人形に受け渡す。パーシヴァルがいるだけでプロセスが非常に楽になるのは本当に味方にいると頼もしいのが痛感させられる。


「君は僕の矢の仕組みが何なんのか分かっているかい?」


「正直分からないですけども、今話す必要あります?」


「まぁ、そうだね。だけども、さっさと話して経験値を積むべきだという判断さ。僕の矢は4属性を”微量”ながら込めた矢だ。これで僕のいいたいこと分かるかい?」


 眉をひそめる。こういう話の振り方は正直好きではなく自分の声色は良いものではなくなる。


「人の気持ちを類推させるのは好きではないですけども」


 敵を一人ずつ仕留めていく。その作業じみた中でトリスタンはまだ口を開き続ける。


「だけども、君は人の気持ちを慮る人間だと思ったけども、僕の人間観察は間違いだったかな」


「私はあくまでも類推して動くだけ。それに結局の所、人は他人の気持ちが分からないから伝えたいと思う時は言葉に出さないと伝わることすら出来ない」


「思いの外、ドライだな」


「別にこのぐらい人と接してきた中で学ぶと思いますよ」


 自分の人生が他の多くの人から見ると果たしてどう映るかは、考えるのが無駄だとして向けなかったけども、実際のところどうなのかは分からない。私には私の人生はごくありふれていて、ただ、ガレスに才能あるから大学行きなよって言われて……


「君の発展魔術は並列思考による複数エーテルの使用が容易な点だ」


 ガレスにも言われたその才能。


「これは僕自身の嫉妬が多分に含まれていることは分かった上で話すが、さっきの言った僕の4属性を込めたエーテルの矢は君ならすぐにたどり着ける領域なんだよ」


「本当に嫉妬で喋ったね」


「嫉妬心で喋るならもっと喋るさ。だけども、それは不毛だ」


 複数エーテルの行使、二属性でも限界なんだけどな。


「君なら僕が大学に行くために数年掛けて編み出した4属性の同時行使をもっと多くのエーテルの量でもっと柔軟に活かせる。もっと自分の強みを見てくれ。じゃあないと僕は君を殺したくなってくる」


 ――――――――――殺したくなってくる理由が分からない。

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