一晩/幕間
「……裸になっている」
私はホームズではなく、マーガレットとしてありのままの姿を見た。
「そのランスロットさんこれは……」
寝顔は素直でよろしいって感じの子だ。一夜を過ごしたのは初めてっぽい初々しさ。愛人にしたいけども、初めてをこんなダメ人間にするのはダメっしょ。
「やだなーランスロットさんって。ミアって名前があるんだけどなぁ。昨日、私と寝たのを覚えてない感じか?えっ、待ってちゃんとOKしたのを覚えているよね」
「あーなんとなく覚えているですけども、酒を飲んだあたりから全然。そのランス、ミアさんとシたのめっちゃ恥ずかしいというか……」
普段飲まない感じと見た。
「そんなことよりもパートナーいるのに私と……してよかったのですか!?」
「全然問題ないよ。なんなら本人に言ってもいいし。そんな純粋な子だったらさっさと服着たら?」
恥ずかしながら昨日泥酔して脱いだ服を着る。
誰かと寝ることは問題じゃない。それは問題ではないからね。
「あれ……じゃあガヴェインパートナーという話も私の記憶がごちゃごちゃになったせい?」
「それは事実だよ。私とガヴェインはちゃーんと死が二人を分かつまでと誓いました」
確かベッドのそばに置いといたはず。
「この指輪がその誓いなんでね。行為をするときは邪魔だからねぇ。やっぱり愛する人にはケア大事よ。指用のコンドーム着けてしっかりしなくちゃ」
私は、私と私の好きな人を守るのがモットーですからね。
「貞操観念はしっかりしているのは安心しました……まぁ、人それぞれありますもんね」
一晩、私はこの子と色々お話した。好きなこととか、これまで一番嬉しかったこととか、悲しかったこととか。したいこととか、好きな子とかね。価値観に触れた。誰の目にも留まらない二人っきりで。
正直なところ、あの四人の中で一番頼れそうだったのがマーガレットだったけども、一番頼りにさせなきゃって思ったのもマーガレットだった。
だから、私はまじないをマーガレットに掛ける。
「キスマークってまずいです!」
「うーんこれは私からマーガレットへのまじないなんだけども、なんでまずいのかな?」
「キスマークなんて見られたら色々誤解されてしまいます!」
私の思ったことを言ってくれるのは嬉しいね。
「他人から“見られる”からまずいだよね?じゃあ、どうする?」
「さっきからそれはなんですか?」
「いいからいいから」
「隠します……!」
もちろん人は多面的だからどう見えるかは人次第だし、これから果たして役立てるかは分からないけどもまぁ、もっと言えば独りよがりだし、私なりに言うならば、
「じゃあ、鏡とかで自分の姿はしっかり見なくちゃね。キスマークは隠されているか。まずいことはしていないか、今の自分が最高の自分なのか、決めている理想の自分に近いのか。そう言うことを毎朝、毎日確認するといいよ」
「そのアドバイスじみた……説教?」
やめてくれよ〜あーでもここまで言ったら言う!なんか自分がおばさんとか年寄りって気分になる。
「だって、キスマークがないというのが理想の自分なんでしょ?キスマークあって、キスマークの見えるのは嫌だって話だもんね」
「自意識過剰みたいじゃないですか?」
「貴女にはたまにはそのぐらいの方が良いのよ。マーガレット」
私みたいにそばに気づかせる誰かがいるのが、長きに渡って安心できるだけどなぁ。私はその役目はできません。
「理想を演じるならばガヴェインが良いよ。ガヴェインは理想を体現しようって頑張ってるから。あのスーツ姿カッコよかったでしょ?もちろん身体を鍛え上げているってあるけども、オーダーメイドで自分をどう魅せるか考えているのね」
つい惚気てしまった。
「なんか、その惚気話を聞いているとこっちも笑顔になります」
「ふふ、自分が笑顔になると好きな人は笑顔になるのさ」
だけども、一番伝えたい危機については話せてない。
“マーリン”を信用するな。
その為に四人から一番信用できそうな子を選んだのに。男二人はありゃあ私の性的指向に合わないって以前に人として壊れてるし、円卓の騎士のメンバーに直接頼るのは怖い。まぁ、本来ならどちらか二人だったけどもね。
正直事前に知ってたから、どっちの最悪を選ぶかって感じだったけども、そこに外の人間が2人来た。
結局のところ、マーガレットにした。もう片方の子も私の趣味としては上出来だけども、状況がきつい。彼女は日本人で、あの電脳技術、そもそも肉体改造ガッツリあの出来出来るのはヤバい。まぁ、今晩はガヴェインと一緒にいるからそれで何か話すかもだけどもどうだろうね。
だから託すならマーガレットになった。
だけども、彼女のことを考えると下手なこと言えないよなぁ。マーリン勘づかれるのも困るし。だからこう言うしかないかな。
「じゃあ、説教みたいなアドバイスその2。相手が何を目的に考えているかって考えましょう……なーんてね本当に説教みたいじゃん」
「ハーン、あのお昼の件について話しておきたいことが……」
舞台での襲撃を守った翌日、お昼に慌てて帰ったあの後部屋で晩ごはんを食べていた時のこと。
「キスマーク……ランスロットさんと寝ていたんでしょう?」
「ごっっはぁ!!!」
ものすごい速さで平謝りする。
「……ごまかしておきました。その本当にすると思っていなくて」
あの時に首の裏、よく見ないと気づけないところにキスマークを隠すっていうのはランスロットさんはマジで鬼!悪魔!もうアレはサキュバス!
「私を不倫するゴミみたいな目で見ないでくれ……いや事実だけども、これには深いわけが……!」
「大丈夫です。私もガヴェインさんと会っています」
「ふぉげぶ!?ハーンも大概じゃない!」
いや、でもランスロットさんもなんか言ってたね……
「あなたと違ってベッドの上で寝たりはしてませんが……?ただまぁ、お互いに昨日の夜に”ランスロットさん、ガヴェインさんと会わなかった”ってことにしておきませんか?」
「なにそれ」
話が見えない。別に私は、まぁ、良くない話なのは分かっているけども、それとは違う深刻な雰囲気。
「訳はあります。だけども、今は話すのは難しい。お互いに利はあると思いますが?」
「うーんまぁ、別に私がハーンとガヴェインさんがいたという事実を誰かに話すってメリットとかないし良いよ」
ランスロットさんの言葉が一瞬チラついた。
「じゃあ、説教みたいなアドバイスその2。相手が何を目的に考えているかって考えましょう……なーんてね本当に説教みたいじゃん」
ハーンの目的は分からない。ただ、分かるのは昨日の夜に会ったという事実を誰かに知られるとマズイ問題であるということらしい。
ハーンは真面目な子だろうし、多分ガヴェインさんとの義理を通すために隠しているだろうし……まぁ、私の弱みも握っている状況で抗うメリットも理由もないしね。
「気になるのですが、ランスロットさんと寝た感想は?女性の方とするのってどんな気分になるのでしょうか?」
ハーンの目は好奇心に満たされるとかなりエグいことになる。ハーンと同じ部屋に住んでから気分としては子供を育てるかのような。イギリスにあるものが珍しいとはいえ、人の営みすら知らないのではというぐらいに好奇心で色々投げかけてくる。
「あぁぁぁ、やめてくれよぉ……さっきお互い話さないって言ったじゃん……」
「私達の間なら良いでしょう?やっぱり気になるです」
その瞳が大好きで仕方ないのが好きなんだけどもね。多分、彼女の瞳から映るこの世界は興味を駆り立てる物が多い楽しい世界なんだろうなって思う。
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