名を轟かせよアーサー!/舞台防衛戦その6

「僕はアーサー!円卓の騎士の一人、そして人を救う者だ!」


 言わねばならないって思った。身体がここで叫ばなければならないって伝えてくる感覚がした。理由も分かる。左手は痛むけども、エーテルを両手に最大まで集中して研ぎ澄ませる。


「名を名乗ったらどうだ?少なくとも、お前の企みはだいぶ遠のいた」


「名乗るわけなかろうよ」


「ジェイク……」


 カトリーヌさんが憂いた顔をする。身内からの犯行。もちろん想定すべきではあった。


「カトリーヌさん。離れますよ!」


 モルドレッドが抱きかかえてその場から引き離す。ジェイクは辺りを攻撃することなく、人はいなくなり、タイマンとなる。


「最初から狙いはカトリーヌのみだった。あいつは走り出してしまった。人気の道を駆け上がってしまった。嫌だ、嫌だ。俺はこのまま落ちぶれて、お前はなんで……」


「なんかゴチャゴチャ言ってるけども、すでに迷惑を掛けた。殺しはしない」


 足を引きずるかのような体勢。適当に喋っている分にはこちらとしては回復にリソースを回せる。適当に思いを煽らせるべき。


「ああ、ごまかすの大変だったなぁ……殺すために何もかも投げ売る。舞台を演じる時にこれが最後でこれから誰からも刻まれることがないって考えるとニヤニヤしてきたよ……」


「残念だが、ここでお前の野望は終わりだ。カトリーヌさんはこれからも多くの人の記憶に刻まれて……お前なんかと違ってな」


 身体から回路めいた血管が浮き出る……いや回路か!


「カトリーヌをお前の煽りに使うなぁ!お前はカトリーヌの尊厳侮辱は許されぬ!」


 間合いを取っていたはずなのにすぐさまに詰められ、察知した時には一撃を受けた。


「ああ、そうかもな!」


 返しに一撃を浴びさせる。電脳によって身体を最適化された運動神経。人類は身体の設計から限界があると改善を施されたって言うけども、これがその極地なわけか。だけども、ならば。


「これでも喰らえ!」


 エーテルの刃を大きく見せ、視線を集めさせる。あのパワーはおそらくだが、電脳妨害装置起動させるまでの猶予時間で破壊をしかねない。


「魔術なんてものは、クソ喰らえだ。滅びろこの世界の何もかも!俺の力で指し示してやる」


 エーテルの刃をつかみ取り、意識を向けさせる。懐から起動し、強力な電脳を停止させる。全身に改造しているとなるならば、正直停止させるとどうなるかは分からないけども止めないと自分が持たない。


「それはお前の都合に過ぎない!お前の力で示したとしても、カトリーヌさんと違って記憶にも残らず災厄として時の流れに忘れされるだけだ!」


「お前がカトリーヌさんの名前を出すなぁ!」


 装置が起動する。足止めやこっちに形成を持ち込むためにここで一手を。


「なっ」


 装置が機能していない。万が一がやってきた。


 だとしても、やるしかないか。


「風よ!」


 刃を振りかざし、風の力で牽制しつつ距離を取る。力はあるが、リーチはこっちにある。


「カトリーヌさんを思ってやっているのかぁ?お前はこのまま誰からも認識されずに終わる!」


「煽ってんだろ。そうやってしか戦えねぇんだな?」


 煽るにもパーソナリティ知らないと煽るのもね……だけども、やれる。


 一直線に飛びかかるその一撃はさっき同様早い。されど、そのルートは読み切っている。怒りは自分にぶつけるから、生きる糧は怒りにまみれているから。執着にまみれた一撃は手堅く行く。だから―――


「ぶつけられる」


 突如として壁が現れる。鏡のように。ジェイクが気づいた時にはそれが現れていた。まるで引き込まれるかのように衝突する。


「あの一撃で決められていたら終わっていたな。終わりなんてものはいつだってすぐに来ることを実感させられる。拘束させてもらう」


 正直、長期戦なんて出来る気がしない。だからこれで終わってよかった。安心して終わらせるためにも拘束の魔術を掛ける。魔術によって身体を縛り上げていく。


「なんだよ。お前を嬲り殺すはずが、お前を見続けたら現れて!幻影のたぐいか?」


「まぁ、俺の発展魔術ではあるな。感謝しているよ。君が怒りに駆られて見てくれて」


「うぅぅぅぅ」


 唸り、身体が光り始める。回路の部分がより一層光って。


「行かせろぉ!」


 拘束の魔術を打ち破り、解き放たれて這いずりカトリーヌが逃げた方へと駆け巡ろうとする。目で捉えきれない速さで、エーテルの痕跡で動いたことが分かる速さで!


「あぁぁぁぁぁああああああああああぁ」


 だが、身体が硬直した。


「あ……あ……」


 ジェイクとやらの男は痙攣し、動けなくなりそのままになる。


 終わり際の最後の執念が駆り立てさせた……だけども、終わり際じゃなかったら本当にダメだった。あのままカトリーヌさんの元にたどり着いていたら間違いなく殺されていた。痙攣して動けなくなるとしても。


「あぶなーいな」


 かなり緊張した。エーテルの籠もった一撃じゃないから傷を癒やせばなんとかなる。もういいや大の字になろう。ああ、これで最後だよね。マジで死ぬかと思った。今日はなんにも考えたくないけども、役に立ててよかった。






「アーサーくん!」


「カトリーヌさん。あんまり離れないでください!」


 しばらく意識を失っていたが声が聞こえるとモルドレッドとカトリーヌさんがやってきた。とりあえず大の字のままになるのをやめて立ち上がる。正直あんまり意識が保っていない。だけども、振り絞っておかなきゃ。


「ジェイクは……?」


「今は警察の人が取り押さえていますが、僕と対峙して最後には気絶というかどうなっているのか分からない状態に」


 カトリーヌさんが泣きそうな顔をする。だが、すぐさまにやめた。


「あなたの名前は私は絶対に忘れない。あの時いなかったら私は死んでたから。だからいつかお礼をさせてね」


 最後に聞こえたのはこの言葉だった。


「ありがとう」

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