破滅は傍に・舞台防衛戦その5

「なぁ、モルドレッド。僕たち出番なかったね」


 終演後、客が出て、他の4人はそれぞれの確保した人だったり、客に危害を及ぼすリスクを備えて警備見回っている中で劇場前に演者らスタッフのところを守っていた。


 他の4人は襲撃犯が来た。ホームズとランスロットさんのところが陽動、ハーンとガヴェインさんのところに本隊が来ていただとか。今回の案件、誰か一人でも傷つけたら問題になる。守る側としては条件厳しいし、攻める側としては誰か一人でも傷つけたらよかったことを考えるとなかなか捨て身に感じさせられる。


「出番なんてなくてよかっただろ」


「これは舞台ではないからね。登場する者に出番なんてものは必ずしもくるとは限らない」


 背後から現れたのは、4,50代の男性。歳をましての熟成感が漂う。名前をすぐさまに引っ張り出そうとする。


「えーっとシェイクスピア!」


「違うだろこの大馬鹿が」


 モルドレッドに頭一発殴られる。こうやって殴るのも結構モルドレッドって僕に対して緩みがちなるの本当にどうなのかって思うよ。


「っはは。それは偉大すぎるね。でも、脚本を手掛けているところは覚えていたのだね」


「いやほんと申し訳ないです……」


 名前覚えられないんだよなぁ……顔も時々区別付かないって時があるものだし……


「そういうのはよくあるのですよ。私なんて昔演じていた役名で覚えられていたとかありますし」


 後ろから現れるのは、一人の女性。華奢な体、不安定で折れてしまいそうなぐらいではあるが、同時に美しさとも捉えられる。


「カトリーヌさん。お疲れさまです」


 また、名前を覚えていなかった。顔はなんとなく覚えていたけども……ナイスと視線を送ろうとするとモルドレッドはすぐさまにふざけるなよって視線が送られる。こりゃ手厳しいよ。


「役を与えられると名前が一つ増えたようなものです。ある人にとっては私のカトリーヌなんかよりも遥かに価値があるように捉えます。人生が一つ増える体験は演じる時にも感じますが、受け取る側に届いた時に実感します。これは、役者をやっていていい経験ですよ。ですけども、名前は覚えといてもらいたいのは本音です。やっぱり役者としてその人本人として売れた方がいいので」


「そ、そうだと思います」


「固まってるね。モルドレッド。……しっかり名前を覚えておきますカトリーヌさん」


 笑顔でうなずく。モルドレッドは足を踏む。


「あなた方のお名前は?今度機会があれば舞台を見にきてください」


「私はモルドレッドと申します」


「そんなかしこまらず。モルドレッドくんね」


「では、あなたは?」


 ふとした会話の間を縫うかのようにその時が来る。破滅は隣に歩いている。そう実感させられた一撃。研ぎ澄まれた一撃をこの身で防ぐ。左手に刃が突き刺さる。すぐさまに抜ける。傷はすぐに埋め合わせるが痛みは消えない。


 周りは騒然とする。スタッフの中に今回の刺客がいたのか……!


「離れてください!俺は周りの安全を守る!頼んだぞ―――」


 名前は自分で呼ぶ。


「僕はアーサー!円卓の騎士の一人、そして人を救う者だ!」

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