電脳使いと太陽の騎士/舞台防衛戦その3

「ガヴェインさん……何にもないですね……」


 夜のロンドンは日本にいた頃と違って、ネオンにまみれた光景ではなく、温かい自然な明るさに包まれている。それでも、建物の上でいると明るさというのは下の道にある街灯ぐらいしかなくて、暗さは案外ある。この感じだと目視での観察は難しいじゃないかと思う。


 そんなことよりも私、こんな時間で出歩いて良いのだろうかという不安がよぎってきた。でも、ここはロンドンだ。日本なんかじゃない。


「そうだな。エーテルの探知は出来るでい良いですよね」


「ええ、まだ理論というか、実践ではやったことないので果たして活かせるかは分かりませんが」


 実践で使えなければ、それは戦いの場において武器とは呼べない。昔、槍を持つ時に言われたことの一つであり、私が槍を持つ理由でもある。


「エーテルの探知は私が担当できる。問題は電脳技術で攻めてきた場合だ。その場合のケース頼む」


「いえ、そこは問題はないです。電脳技術持とうがエーテルを探ることで見つけることが出来ます。エーテルは万物に宿りますし、肉体を置き換えたとしても全部ではないですから」


 ガヴェインさんの顔が一瞬動揺する。


「ガヴェインさん?」


「いや、詳しいですね。是非、今日このあと時間が取れれば、詳しく聞いても?」


「別に構わないですけども……」


 ホームズは果たしてOKを出すのだろうか。あの子が真っ向から拒絶するところは見たことがない。


「すごい今更だが。近接二人で持っていくのは失敗だった。遠距離ないとかみ合わせが悪いな」


 なんて返せば良いんだろう。私は正直、この人を掴みところが分からない。というよりも、私が人と話す際に掴んでいける器量を持っていないのが正しいだろうと考える。


「……来た。複数だ。分かるか?」


 敵影が2。対処できる人数だ。


「町中だ。派手にやるとそれはそれで問題になる。気をつけてくれ」


 それは承知。電脳武装アマノヌホコ、準備完了。システムとの同期完了。行ける。


 お互いに迫りくるローブに覆われている黒い影を追い、警備の穴を開かないように意識しないといけない。あまり持ち場から離れると厄介なことになことを考える。黒い影はそのまま下の道に移り逃げていく。


「はっ、投擲か!」


 投げる右腕のパラメータを引き上げ、身体のバランスを取れるようにかける。そして、青い左目は目的の相手までの道のりを捉える。槍は風のエーテルも纏い一直線に飛ぶ。


「なんだよ!その殺意しかねぇ槍の軌道!完全に狙いを一点に済ませてるだろ……」


 相手の足に刺さる。すぐさまに抜き、逃げるのを諦めて立ち向かうことを決意するようだ。私はすかさず追いかけて拘束へと急接近していく。


「だが、俺には」


 戦闘の最中にやたらと喋る男だ。黒ずくめでさっき見えたもうひとりの方にも同じ格好を考えると統一性を感じる。


「これがある!」


 電脳システムに対応した外骨格がローブからちらりと見え、そして刀が懐から斬りつけようとする。謹製の電脳阻害装置を起動する。外骨格は機能せずに力が緩む。それにこの刀は……粗悪品だ。


 安物でも良いものはある。ライキリでも使えばいいし、そもそも刀を使うのがそもそも合わない。刀にしてはこの外骨格は力が過剰すぎる。選んだ人の知識、選択が悪いと見える。


 やっぱり、電脳は使いやすいが、使いこなせるかはべつなんだろう。


 日本でもやっぱり同じことが考えられたけども、この異国の地であってもそこは変わらない。どこも人のあり方の形は変わらないか……


「何をしやがった!日本人かよ!なんでだよ。お前そこにいるところじゃあねぇだろ」


 知らない。拘束の魔術を掛ける。ホームズには程遠い。彼女のマネで掛けようとしてもやっぱり上手くない不完全さが目立つ。もちろん、ホームズの発展魔術によって複合されたエーテルで編んだとしても単純なクオリティとして差を痛感させられる。実際、このままだと効力が効くか怪しいからガヴェインさんに掛け直してもらいたいな……


「おい、聞けよ!」


「戦いの時は喋る余裕なんてない。そして、日本人だが、君が思っている人間ではないだろう」


 拘束をしたまま連れ歩く。どこにいるかのエーテルの感知をするとすぐ近くにいることが分かる。器具を使わずに分かるのは魔術の良いところってつくづく実感させられる。


 建物の上に行き、その方角を見るとすでにガヴェインさんが戦っているのが見える。


 その方向を見るとガヴェインさんが輝いて戦っているのが分かる。輝いているのは比喩ではない。すでに肉弾戦に持ち込んでおり、身体が輝いているのを見るとおそらくは再生の魔術を使っているのを考えられる。


「くたばらねぇ……」


 ナイフでガヴェインのスーツを切り裂くが、すぐさまに再生をしてしまう。傷を無視して相手の腹に一撃を喰らわせる。


「ああ、そうだ。くたばらない」


 私は彼女の魔術について詳しくは知らないのだけども、これはただの回復魔術とは違う。輝いているのはなんでかはわからないけども……


「さっきから切っても切ってもすぐ治っていく……!」


 当たっても治せるが、動きを理解したのか躱していく。


「これは私の特注なんだ。私のお気に入りの店舗があってね」


 ガヴェインさんの会話なんかズレてない……?イギリス人って皮肉大好きって言うからやっぱり、こういう人が多いのだろうか?


 だが、実際敵の持つナイフによってスーツは引き裂かれるが、すぐさまに記事から組成される。この仕組みなんだろう……エーテルに関連した道具などについてはまだまだ勉強中だから断言は出来ないけども、回復は例えるならば破れた生地を縫い合わせる行為、ガヴェインさんの再生は破れた生地から生地が生えてくる行為というべきだろう。多分、自分のエーテルに関連した物を編み込んでいるのかな……?


「光が鬱陶しいわ!」


 エーテルによって刃が伸びる。大きく振りかぶった痛恨の一撃


「良いだろう。飾りだ」


 その刃を握ったことと光っていることの事実を突きつけられる事によって、あっけの取られた顔をしたところに左ストレートを決める。


「なかなかタフだった。まだやるか?ってわけにもいかないよね」


 拘束を掛ける。


「あぁ、来たんだ」


「拘束の魔術これで大丈夫ですかね?」


 ガヴェインはうなずく。ならば良いんだろう。これ以上、誰か来るのだろうか。


「……その光っているのは飾りなんですか」


「飾りだ。ここで戦っているのがすぐに分かるだろう?それにガヴェインという名前だからね。太陽らしく光ってなければ」


 円卓の騎士の名前にまつわる由来は知らないので何を言っているのか。この人、ユーモア微妙にあるのか……私には掴みきれません。ホームズさんが欲しい。イマジナリーホームズさんを呼び寄せるべきか……?


「まぁ、それに人は何かおかしな物があると邪険するか突っ込みたくなるだろう?……公演時間は終わりだ。とりあえず劇場に向かおう」

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