夢の始まり
名前を授かった翌日。僕はいつものと変わらない日常を送っていた。ロンドン魔術学園、その図書室の一角であるスペースにある会話OKのテーブル席にて話していた。
「ふーん。で、アーサーとモルドレッドねぇ……」
「なんだよ、マーガレット。そのにやけ顔は」
ハスキーな声が聞こえる。この声を聞くだけで彼女だって分かる。いや僕の声がなんというか軽い感じなんだよなぁ……モルドレッドはわりかし男性感ある感じなんだけども。喉仏もモルドレッドは魅力的に映るだけども、自分はそうでもないしね。
彼女の黒髪のセミロング姿、本を読む姿、声から安定感を感じさせられる。
「円卓の騎士としての仕事とかはないの?」
彼女の発展魔術である並列思考で読書と会話、問題を解くを両立しながらの姿は、いつ見ても素晴らしく思う。
魔術学園の生徒は、基礎魔術と発展魔術の二つで評価される。基礎的な魔術がなければ当然のことながら何も出来ないし、基礎も極めれば個性となる。発展魔術は、本人の持つ気質から持つ魔術であり、命名され伸ばしていくものである。本人の気質によるものだから、オリジナリティは強く、近い魔術であろうとも特性は異なることから基礎魔術とは切り離して考えている。命名はあくまでも一つだが、出来ることは一つとは限らない。例えば、モルドレッドは付与。物質に色んな属性や材質の特性を付与することが出来る。
「まぁ、俺達は一応学生の身分だからな。仕事の割り振りは少ないし、マーリンいわく能動的に動く駒として期待しているからねって言われたものでな」
まだマーリンしか他の円卓の騎士に会ってなかったりする。マーリンいわく、円卓の騎士といえど”役割”が
「まぁ、学生としての役割を期待されているわけね。就職先見つかってよかったじゃん。今のうちに色んな人とコネ持っておきなよ~」
「いや、なんだその親面は?」
「心配なんですよ。いや、結構マジな話ね。アーサーくんは、のんびりして気が抜けて……記憶もすっぽり抜けていたりするし、モルドレッドくんは、恐怖心と慣れとかかな?」
モルドレッドは訝しんだ。
「いや、恐怖心は分かる。慣れとはなんだ?」
「自覚なしかぁ……じゃあ、頭の片隅に入れておきな。君は、恐怖に怯えて対抗するけども結局は慣れでごまかしているだよ?恐怖のみならず痛みに対しての向き合い方が下手なのよ」
自分の方にも目配せをした。僕はその観察眼に対してこう返そう。
「なんだいホームズかな?」
「お前は今まで黙っているのに急に入ってきたな。そして発した言葉がマーガレットはホームズじゃあないんだわ」
「まぁまぁ、モルドレッドくん。否定から入るのは置いといて、私もアーサーとモルドレッドみたいにもう一つの名を持つのも悪くないよねぇ……ぶっちゃけ羨ましいし」
モルドレッドが裏切ったのかって顔をする。どうやら、彼女は自分側だろうって思っていたらしいが外れたな。
「……だが、解釈違いだ!」
そういい、並列思考によって行った作業は全部途切れ、魔力を失い本は落ちる。
「あんたも否定じゃねぇか!」
「いいや、モルドレッドくんの頭ごなしの否定とは違う。私にホームズは解釈不一致だ!ところでアーサーくんはホームズに関してはお読みで?」
「ないね」
「原作未読か!」
大声で叫ぶためモルドレッドが過剰なまでにビビる。
「まぁ、名前は知っているけども読んでいないってことあるよね。わかるわかる。メディアとかもそんな感じにしか思えない名付けするもんね。まぁ、個人的にはポワロだろ~って思っちゃったんですよ。灰色の脳細胞とかいいなってプロファイルとかかっこいいなって、ホームズって現場でガンガン攻めていく感じだし、まぁ嫌いじゃないよ。原作はそれなりに読んでいるつもりで、シャーロキアンからの質問攻めになるべく満足に答えられると……それは驕りだな……というか、ホームズで赤髪って赤髪同盟の話変わらないか?まぁ、さっきの二人についての話の流れ的にもさ―――」
ものすごく早口で語っていく。
「並列思考ではなく直列思考だとえらい早口ですね……」
「何その発言……」
冷めた顔をする。その後、一息つき、再び並列思考を展開し、喋る速さは再び戻して続ける。
「まぁ、名付けられるってそういうもんだよね……みんなからの認識って雑ってもんです。そんなことよりも、どちらかというとホームズって名付けられた事実に喜ぶ私でいたいものです」
「じゃあ、ホームズって呼んだ方がいいかい」
うなずく。
「……俺と違ってマーガレットは結構乗る気なんだな」
「ホームズって呼んで」
「あっはい」
「ところで、ご飯食べませんか?」
「あーそうだな……マー、いやホームズそうするか」
ニコリと笑う。
「まぁ、何食べるかおまかせするわ」
「この後講義あります?」
モルドレッドと共にないと答える。
「では、外でなにか食べましょう。そうだなぁ、最近出来た店にしましょうか?」
席から立ち上がり、荷物をまとめる。
「なんでも良いよ」
モルドレッドがそう言いつつ、何かが聞こえてきた。
「騒がしくないか?モルドレッド、ホームズ?」
図書室で暴れるのは、番人を知っていれば何かとご法度なんだけども、そのご法度にふれる大馬鹿がいるらしい。
「あぁ、俺としてはさっさと口になにか入れたい気分なんだ。行こう」
ホームズが走り出す。何も言わず、意図も伝えずに。反応遅れてとりあえず追いつきに行く。
騒ぎの元には学生と外向けに開放されて来たであろう外国人の客が襲われていた。
「お前ら日本人のせいで、俺達は落ちぶれた。どう責任とってくれんだぁ?」
雑な魔法を使い、それでは物足りないのか暴力でいたぶる。その様子から考えるに日本から来ている電脳技術で損している人たちか。
ホームズから即式の魔術を繰り出す。そこから出るリボンのような紐は暴徒をすぐさまに拘束をする。
「即式のバインドを解けないはとんだ三下って感じだ。俺はこいつらモグリと想定する。そして、裏に誰かいるのではないかと考えるが……」
「そんなことよりも、目の前の救助をしなさい。大丈夫かな」
身体を支えて立たせる。その立ち振舞は自分には見たことのない装置を全身にチラ見えする。体格的にもあんまり、女性とは言え小柄過ぎて、暴徒にマウント取られるのも仕方ないといえる。
黒髪のマッシュボブ、小柄な感じからして日本人ってこういう感じかって思わせる。
「申し訳ないです……情けなくて……そのお礼なら渡しますので……」
目線を合わせない。その中でお礼をするということだけは明確にはっきりと伝えてくる。どう向き合えばいいのかわからない中で、ホームズは相手に寄り添うかのように話しかける。
「あっ、大丈夫だよ。私は、あーホームズで、こっちの金髪のはアーサー、茶髪のはモルドレッドね。お怪我は?」
サラッと他人に対してホームズって名乗った。指摘すると面倒くさくなるので見逃すが。
「大丈夫なので……それよりもお礼をさせてください。このままだと私は、ただ申し訳ないだけなので」
モルドレッドに耳打ちする。彼は付与という特性を持つ都合、材質などに関してはそれなりの知識を持っている。彼女の素性について伝える。
「……日本人の平均的な事情は知らないが、それなりにはモノ自体は良いものだ」
彼がそう考察するならば確信に近づく。
「あーお礼はしたいか……貴女、お名前は?」
「―――です」
聞こえなかった。そこは震えた声であり、ホームズにしか聞こえなかったであろう。馴染みのないのない名前だからっていうのはあるだろうけども。
ホームズは、一回間を置く。
「うんうん。お礼はそうだなぁ。私達これから食べに行くのだけども、一緒に食べるお誘いとかいいかな?貴女のことを知りたいだけども、教えてもらうとかね?」
「えっ、あっその……お金とか物品とかその……」
「あーじゃあ、会計は払ってもらって。それと貴女の顔を見せてくれない?」
その顔を上げて初めて見えた。身長が低く上目遣いの目は例えるならば、輝きが入っている。
「あっ、よろしくおねがいします!」
その顔は可愛らしい笑顔であった。
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