魔術都市ロンドン備忘録

りん

一章

戴冠式

「うわぁー遅れてごめんごめん。色々準備に手間取って、どうやって行けばいいのか分からなくてさぁ」


会場に金髪の好青年が汗を掻き、肩で呼吸しながら必死な姿でやってきた。目の前に見える茶髪の青年は呆れた顔をして叱りつける。腰には鉄の棒を多く装備している。


「いや、あんた。俺よりも先に出ただろ。なんで、俺のほうが先に来るだよ」


呆れるほどの正論。僕が先に出るって言ったんだけども、ここに来たのは後になってしまった。そうして、いつものように話すとメガネを掛けた男の人が遮るように入り込む。


「あのだな……儀式を執り行うだが……?」


茶髪の男は叱りつけるのをやめ、態度を取り繕う。


「申し訳ないです。マーリン」


ストーンヘンジ。辺りは何もないまっさらな中でどうやって立てたか分からない石が並んでいる。ここで円卓の騎士、いわばロンドンの自警団として現代では機能している。実際にアーサー王伝説から来ているかっていうとそういうわけじゃなくて、なんちゃってなんだろうけどもね。でも、それなりに歴史はあるらしい……


ストーンヘンジの真ん中。他に色々と人はいるが、円卓の騎士はそれなりに知名度があるからか、疑われることなく堂々と儀式は行われていく。まぁ、自分は何かをするというわけではないのだけども。


マーリンは、何やら色々と文章を読み続ける。格を保たせるためには必要なんだろうけども……


いいや、いるのかな。名前に意味を持つのは魔術やそれ以外でも意味はある。そのことを踏まえて何かしらの作業をしているのかも。……魔力の類感じないのは気にしてはならない。


「では、戦いの儀を」


戦いの儀は、ストーンヘンジから少し離れて平原で行う。自分とあいつとの一騎打ち。自分は右手にエーテルから剣を作り出す。


「ここでも剣を使わないだな」


いつもそうだ。剣を使わない。彼は、腰に備えておいたいくつかの小さな鉄の棒から一つを魔術を吹き込んで、銃を取り出す。


「俺は剣が嫌いだ」


そうやってごまかす。君はそういう人間だからな。


一歩足を出す。間合いを詰めていく。すかさずの発砲、反応できる速度だからかわす。


「剣は弱い。信頼に値しない。それは円卓の騎士に参加しても続けるさ」


後少しで剣で切り裂ける間合いに入る前に彼は銃を捨て、すかさず新たな鉄の棒に付与の魔術を掛ける。


「汝、鎖であれってね」


その鉄の棒は鎖に変形し、彼の手に巻き付けて自分の方へと飛んでくる。付与の魔術は魔術で耐性を得ているとは言え、元は鉄の棒。そこからあくまでも形、機能、性質を付与したに過ぎない。つまりは斬る!


斬りつけようとした時に気づく。鎖は剣に巻き付いている。


「剣でやろうとするからこうなる」


慌てて離そうとした時にはすでに遅く、体制を崩す。剣を持った手から横方向に引っ張られて倒れ込む。


風のエーテルを使い地面スレスレで発動し、体制を持ち直し、手を鎖に握って主導権をこっちが握る。鎖で、彼を飛ばす。彼が地面に落ちてくる前に魔術を仕込む。


「ちっ」


舌打ちが聞こえる。彼の地面落下寸前に風を吹かせて、自分の剣の大振りに当てるように仕込んだ。


「そこまでだ」


マーリンの介入が入る。


「完全に決したな」


「そして、汝らをアーサー、モルドレッドと授ける」


その後、また色々マーリンが言葉を詠んだ。戴冠式といって良いのかわからないが、伝統ある名前の冠を授かる。これを生かすも殺すも自分次第って訳。


――――じゃなかった。モルドレッドの顔を見るともっと複雑そうな顔をしていた。


儀式は問題なく終わった。名前と言ってもあだ名、コードネームみたいなもので、それほど意味があるのかと言えば謎だ。伝統だとしても、意味があるから伝えるわけだ。


「で、どうやって帰るだっけ?というかロンドンに帰らなきゃダメなの?ハワイとか行かない?」


完全に忘れた。なんか色々考えると頭脳みそがパンクしちゃうだよねぇ……


「あのなぁ……まぁいい。バスに向かうぞ」


そういい、手を掴み引っ張り出そうとする。


「なんだい。馴れ合いかい?僕は良いけども君は良いの?」


「離すとお前が離れそうだからだよ。お前は本当にハワイに行きかねん。ロンドンに帰るんだよ」


わぁー男女間だったら告白じゃんって言おうと思った。自分の気持ち悪さとモルドレッドの顔を想像するだけで嫌な予感がするから控えた。


そうやって、バスに乗り一段落がつく。モルドレッドは開口一番に口を開く。


「なんで、お前がアーサーで、俺はモルドレッドなんだよ」


「まぁ、空席だったのがここだけだったからねぇ。そういうもんじゃない?」


「煽ってんな?」


「はい?」


「まぁいい。アーサー王伝説知っていれば少しぐらい思うことあるだろ」


バスで景色が変わるのを見ながら、記憶の海の中で探し出す。だけども、そこで見つけ出す前に口は開く。


「いや、共通認識を共有するために俺の口から語ろう。アーサー王伝説、まぁ昔にあったお話の一つだ。円卓があり、そこに騎士が集う。そこで色々冒険とか聖杯探索なんてことをした。だけども、大事なのはその先だ。カムランの戦いで俺とお前は対峙することになるかもしれない」


「ははっ、そういうことかい。だけども、名前にまつわる因縁に過ぎない。僕は僕だし、君は君だからね。モルドレッド?」


神経質で苦難によって引き締まった顔は一際引き締まる。


「だけども、絶対などない。俺は君との対峙をするかもしれない。そうなった場合死ぬのは―――」


「あら?それだと君は名前にまつわる因縁を絶対だと捉えるのかい?絶対はないのに?」


君はいつも絶対はないという。その考えは同意出来ないね。だからこうやって弄ぶ。


「おっと、バスが着いただけども、これからどこに向かえばいいだっけ?モルドレッド?」


「だからその名を―――」


「まぁ、これからそう呼ばれる機会も多いだろうしさ。少なくとも今はお互いにアーサーとモルドレッドってことにしない?」


さっきの言い負かされたことを受け入れたのか分からないけども、彼はそう言った。


「これからよろしく頼む。アーサー」

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