第11話 ミカ視点

 長年にわたる栄養失調のせいで、一週間点滴を受けることになってしまった。


 所属事務所にはお父さんが退職届けを出してしまった。


 スマホは、川に落とされた時にダメになっちゃった。


 なんだかお先真っ暗だな。ずっと生活を切りつめて芸人なんかをしていたから、栄養失調なんかになるのよ、なんてお母さんにまで言われて、これまでの四年間を全否定されたみたいで悲しくなった。


 芸人なんかやらなきゃよかった。だけど、シゲノリのそばにいたかったの。お母さんしかいない病室でポツリとつぶやいた。


 お母さんは、あたしの頭を子供の頃にしてくれたみたいにやさしくなでてくれた。


「お母さん、あたし、まちがえちゃったのかな?」

「ミカはどう思うの? こんな目にあっても、まだ芸人に戻りたい?」


 戻りたいのか聞かれて、頭を左右に振った。なんだかもう、あの場所はあたしのための場所じゃなくなっちゃった気がする。


 シゲノリのそばにいたいっていう、根本的に汚れた気持ちを貫くために、芸人を利用していたことが、急にはずかしくなった。


 これは、あたしが自分で招いた汚れの結果だ。シゲノリのせいじゃない。


 わかっているけど、涙が溢れて止まらなくなる。


 お母さんは黙って、あたしの背中をさすってくれた。


 その時、遠慮がちにドアがノックされた。お母さんはドアまで歩いて行くと、あわてて廊下に出て行ってしまった。


 ほんの一瞬だけど、シゲノリだった気がする。でも、なんで坊主なの? それ、あたらしいお笑いのネタなのかな?


 涙は一瞬でかわいて、笑顔に変わっていた。


 つづく


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