第12話 シゲノリ視点
勇気を振り絞り、花束を買って、ミカの病室のドアをノックした。すぐにおばさんが出てきて、廊下に戻される。ミカの顔は、少しだけ見えた。まだ、青白いな。
「シゲノリくん、なんのマネ? ミカはもう、芸人を辞めたのよ?」
「おれも、辞めました。これからは、調理師免許を取得して、いずれは喫茶店を経営するつもりでいます」
「冗談はよしてちょうだい。まさかとは思うけど、ミカにプロポーズしにきたわけじゃないわよね?」
ずばり、確信を突かれて言葉につまる。
「ミカは、あの子はとっても純粋なの。あなたみたいな遊び人の奥さんなんて、とてもじゃないけどつとまらないわ。帰って」
「……じゃあ、花束だけでも」
「帰ってっ!!」
突き返された花束。虎の子をはたいて買ったバラの花びらがはらりと落ちた。これまでの言動が招いた結果。とはいえ、みじめな気持ちでそれを拾い上げる。
「わかりました。また、あらためて出直してきます」
「もうこないで」
「そんなっ」
「『ホレルナヨ!!』なんてふざけたコンビ名だったけど、まさか本当になるとはね。いい? ミカにはいいお婿さんを選びます。働き者の、真面目な男性をね」
「おれだって、変われますよ!!」
おばさんは嫌々をしておれを突き放そうとする。
「いい? あなたの四年と、ミカの四年は意味が違うの。これだけは理解してちょうだい。そしてもうこれ以上、ミカに関わらないで」
カタン、とドアが開いた。まだ屁っ放り腰のミカが、点滴棒につかまって、そこにいた。病院用の作務衣はどこかミカを色っぽく見せていた。
「ミカ!! 病室に戻っていなさい」
「嫌だっ!! あたし、あたしシゲノリに話があるの」
「ミカ。ごめんおれ、ミカのこと、好きだ」
言葉が、流れるように口をついた。ミカの目から涙が溢れる。
「あたしも、ずっとシゲノリのことが好きだったの」
でも、コンビ名が邪魔をして、告白できなかったのだと言ってくれた。
おれは、ミカを抱きしめたくなる衝動を抑えて、徹夜して作ったワイヤーの指輪をミカの細い指にはめた。
「結婚を前提におつきあいさせてください」
それからのことは、もうとにかくおじさんとおばさんに反対されまくったけれど、何回も頭を下げて、調理師免許を取るまでの間は認めてはもらえなかった。
その後、キッチンカーのお金まで出してもらえて、おれはとてもしあわせなお婿さんになることができた。
だから、これからはミカのことをずーっとしあわせにしてみせるからなっ!!
つづく
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