第10話 シゲノリ視点

「警察に届けたから」


 あまり連絡を取らない方がいいのかもしれないけれど、資産家の娘に電話をかけた。


『えっ!? ちょっ。やめてよ、そういうの。シゲノリが勝手にあたしのストーカーしてたんじゃん。なら、こっちだって警察に届けるー』

「金でもみ消そうとしたってムダだから。おれは、ミカが好きだ」


 電話の向こうでぐっと息を飲む音が聞こえて、次の瞬間には高笑いがしてきた。


『ほんっと、バカみたい。あんな木偶の坊みたいな女のどこがそんなにいいわけ? それとも、そういうのが好みなんだ?』

「なんとでも言えよ。おれは、ミカのことが好きだってことにようやく気がついたんだ」


 本当にバカだよな。こんなことになるまで気づかないでいたんだからな。


 病院で、ミカのオヤジさんにぶん殴られた。それくらいされてもしかたなかった。芸人も辞めさせると言っていた。ちょうどいい、おれも辞めようと思っていたんだ。


 だから、その後すぐ警察にかけこんで、事情を話して、スマホの動画コピーしてもらった。


 それらの手つづきがおわると、遅くまで営業している量販店に行ってバリカンを買い、すぐに坊主頭にした。おれにできるつぐないなんて、この程度のものだった。


 おれの、はっきりしない態度のせいで、ミカが死ぬところだった。それを思うとゾッとする。


『いいけど。裁判になったらあたしの方が勝つからね』

「勝ち負けじゃないだろ?」

『これまであげたブランド品や食費、全額払ってもらうから』

「それはまぁ、おいおいと」

『パパに言いつけてやるんだからっ!!』

「だから勝手にしろよっ!! しつこいんだよっ!!」


 言い放つと電話を切り、その子の電話を着信拒否にした。電話なんて、かけなきゃよかった。でも、それじゃあなんだかフェアじゃない気がしたんだ。


 さて、明日から仕事探さなきゃな。あと、事務所に辞めるって報告しないとな。


 明日、か。ミカ、元気になったかな?


 ペンキ、落ちただろうか?


 つづく


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