Day 4『紙飛行機』
もっと先まで、遠くまで。
「もー、先輩!
そんなに引っつかないでくださいよぉー」
背中に感じる先輩の体温が恥ずかしくて、甘い声を出してしまった。
そんな風になりたくなんてないのに…。
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放課後の教室。
文化祭の準備をしていた私たち。大道具の係だったんだけど、いくつか材料が足りなくなってしまい、作業が中断してしまっていた。
「ごめん!
近くのホームセンターで買ってくるから!」
買い出し係が飛び出していったものの、私たちは待ちぼうけ。ダラダラ喋って時間を使っていると、
「お!サボりはっけーん」
部活の先輩に声をかけられた。
「違うんですよー。
ガムテとかが足んなくなっちゃってぇ、今買い出し待ちなんですー」
カッコいい先輩だと、みんなからは人気だったけど、私は別に好きでもなんでもなかった。
…というか、モテることを鼻にかけた感じが嫌だった。年長者としては嫌いなわけじゃないけれど。
「ふぅーん?それで折り紙してんの?」
ちょうど私たちは折り鶴を折っていた。
「平和学習とかで千羽鶴つくるじゃないですか!懐かしいねーって話になって」
ね?と彼女に微笑むと、少し固い笑顔でうなずきかえす。気を使っているのだろうか。
…あぁ、いや、この子は彼のことが好きなんだっけ。
「ほーん。
俺、折り紙は紙飛行機しか折れねぇわ」
ドンっと私の側に腰かけた。
(げぇっ!さっさとどっかに言ってくれ!)そんな気持ちを抑え込み、「へー、そうなんですかー」と曖昧な相づちを返しておく。
「俺も一枚ちょーだい」
私の気持ちを知ってか知らずか、先輩は背中にのしかかるようにして、机の上に手を伸ばした。洋服越しに熱が伝わる。
「もー、先輩!」
先輩はいつも私に対して距離が近い。
…幼馴染みだからなのだろうけど。変な誤解をされるのだから、やめて欲しい。
尻軽呼ばわりされるのは、私なのだから…。
チラッと横目で、友だちを盗み見ると、さっきよりも気まずそうにモジモジしていた。…あぁ、もう!
「先輩の意地悪で気分が萎えたので、今日はサボりますぅー!
代わりに、先輩がその子と一緒に私の仕事をしといてくださーい」
ふたりの返事が聴こえる前に、鞄を掴んで立ち去った。
…どうせ先輩も彼女のことが、気になってるのだ。
人の行き交う狭い廊下を、逃げ出すみたいに通り過ぎる。
陽は傾いていても、まだ空は青い。
ポーンと小石を蹴飛ばすと、舞い上がった砂埃が鼻腔の奥を刺激した。
不意にガサッと音がして、手元を見るとぐちゃぐちゃになったピンクの折り紙。私はそれを綺麗に伸ばして、イカ飛行機を折ってみた。
しわの目立ったイカ飛行機。
私はくるっと振り返ると、教室の窓めがけて、ぶん投げた。
ビューンと飛んだピンクのそれは、見事入って見えなくなった。…あのふたりに届けばいいのに。
私に恋はまだ早い。ただただ楽しく過ごしていたい。
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