Day 4『紙飛行機』

もっと先まで、遠くまで。

「もー、先輩!

 そんなに引っつかないでくださいよぉー」


 背中に感じる先輩の体温が恥ずかしくて、甘い声を出してしまった。

 そんな風になりたくなんてないのに…。


******************************


 放課後の教室。

 文化祭の準備をしていた私たち。大道具の係だったんだけど、いくつか材料が足りなくなってしまい、作業が中断してしまっていた。


「ごめん!

 近くのホームセンターで買ってくるから!」


 買い出し係が飛び出していったものの、私たちは待ちぼうけ。ダラダラ喋って時間を使っていると、

「お!サボりはっけーん」

 部活の先輩に声をかけられた。


「違うんですよー。

 ガムテとかが足んなくなっちゃってぇ、今買い出し待ちなんですー」


 カッコいい先輩だと、みんなからは人気だったけど、私は別に好きでもなんでもなかった。

 …というか、モテることを鼻にかけた感じが嫌だった。年長者としては嫌いなわけじゃないけれど。


「ふぅーん?それで折り紙してんの?」

 ちょうど私たちは折り鶴を折っていた。


「平和学習とかで千羽鶴つくるじゃないですか!懐かしいねーって話になって」

 ね?と彼女に微笑むと、少し固い笑顔でうなずきかえす。気を使っているのだろうか。

 …あぁ、いや、この子は彼のことが好きなんだっけ。


「ほーん。

 俺、折り紙は紙飛行機しか折れねぇわ」


 ドンっと私の側に腰かけた。

(げぇっ!さっさとどっかに言ってくれ!)そんな気持ちを抑え込み、「へー、そうなんですかー」と曖昧な相づちを返しておく。

「俺も一枚ちょーだい」

 私の気持ちを知ってか知らずか、先輩は背中にのしかかるようにして、机の上に手を伸ばした。洋服越しに熱が伝わる。


「もー、先輩!」


 先輩はいつも私に対して距離が近い。

 …幼馴染みだからなのだろうけど。変な誤解をされるのだから、やめて欲しい。

 尻軽呼ばわりされるのは、私なのだから…。


 チラッと横目で、友だちを盗み見ると、さっきよりも気まずそうにモジモジしていた。…あぁ、もう!


「先輩の意地悪で気分が萎えたので、今日はサボりますぅー!

 代わりに、先輩がその子と一緒に私の仕事をしといてくださーい」


 ふたりの返事が聴こえる前に、鞄を掴んで立ち去った。

 …どうせ先輩も彼女のことが、気になってるのだ。

 人の行き交う狭い廊下を、逃げ出すみたいに通り過ぎる。


 陽は傾いていても、まだ空は青い。

 ポーンと小石を蹴飛ばすと、舞い上がった砂埃が鼻腔の奥を刺激した。


 不意にガサッと音がして、手元を見るとぐちゃぐちゃになったピンクの折り紙。私はそれを綺麗に伸ばして、イカ飛行機を折ってみた。

 しわの目立ったイカ飛行機。

 私はくるっと振り返ると、教室の窓めがけて、ぶん投げた。

 ビューンと飛んだピンクのそれは、見事入って見えなくなった。…あのふたりに届けばいいのに。


 私に恋はまだ早い。ただただ楽しく過ごしていたい。

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