Day 3『かぼちゃ』

割れた実の謎~これであなたもハロウィン騎士~

 最近、おばあちゃんがぼやいているのを耳にした。


「どうしてだか、全部割れちゃうのよね、今年のカボチャ。全部よ、全部!

 水のやり過ぎには気をつけているのに…」


 僕の家ではおばあちゃんが家庭菜園をしている。いっつもいろんな野菜を育てていて、夏は野菜を買わなくてもいいくらい。キュウリにトマト、シシトウ、オクラ、トウモロコシに……。今年はカボチャも植えていた。


 カボチャが大好きな僕はすっごく楽しみにしてたんだ。

 だって、カボチャは野菜なのに甘いし、いろんなお料理に変身するから。カボチャコロッケ、お味噌汁、お肉と一緒に炒めたり…。ケーキやプリン、デザートにしても堪らない。


 でも、特に好きなのは煮物。

 カボチャの甘さが一番引き立つ食べ方じゃないかと僕は思ってる。あの濃厚な甘さが堪らない。おかずとして食べるけど、ホントはデザートなんじゃないかと僕は疑っている…。

 ほら、お坊さんがウサギを食べたくて、長い耳を羽ということにしたっていうお話あるじゃない?

 あれと一緒でご飯中に甘いカボチャを食べたかった誰かが、カボチャの煮物もおかずっていうことにしたんじゃないかな…。


 …え?ずっと甘いと、飽きちゃうって?

 そんなときは、種を食べるのも『おつなもの』だよ。

 これは友だちに教えてもらった食べ方なんだ。ただお母さんは「外で食べるときにはしないでね」って少し嫌な顔をするのだけど…。

 でも、平べったい種の中身がほんのり香ばしくて僕は好きなんだよ。


 でも、そのカボチャが今年は全部割れてるらしい。急に水をいっぱいあげると割れちゃうことはあるそうなんだけど、どのカボチャも割れてるだなんて、変だと思わない?


 そこで、僕はビビっと来ちゃったんだ!

 ずぅーっとカボチャを見張っていれば、犯人が誰だか分かるんじゃない?


 そうと決まれば、善は急げ!

 僕は1、2の3の勢いで眠りについた。今のうちに寝ておけば、夜に眠くならないからね。


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 ズッバーンっ!!!


 庭から何かが弾けたみたいな音がして、僕は飛び起きた。

 パジャマも着替えずに飛び出すと、庭には二羽のニワトリと、大きな頭の知らない人…。

 そいつは木の枝みたいなヒョロヒョロの身体をしているくせに、頭は僕が両手で抱えられないくらい大きい。そして、何だか変な形をしている。暗くてよく見えないのだけど…。

 僕は見つからないように、そぉーっと近づく。


 突然、謎の人影は空に向かって叫び声をあげた。


「この世のカボチャは、すべて割ってやるのだ!このワタシ、ハロウィン騎士ナイトがな!!」


 月明かりが照らした彼の顔は、大きなただのカボチャだった…。


 びっくりした僕は思わず尻餅をついてしまい、茂みがガサリと音を立てる。


「誰だ…」

 ゆらりと振り向くハロウィン騎士。片手のつまようじみたいな剣がきらりと光った。

 僕は一目散に駆け出した。


 あまりに慌てていた僕は家を飛び出して、気づくとカボチャ畑の中を走っていた。


「待ーてー!」


 後ろから、カボチャ男が追いかけてくる。

 彼が通り過ぎた後は、畑のカボチャが破裂して、どんどん畑が黄色になっていく。


「お前もカボチャ騎士にしてやるー」


 黄色爆発を背景に、男はどんどんどんどん近づいてくる。

 僕も必死に走るけど、全然彼から逃げられない。


「こらー!待ちなさいってばー!」


 はぁはぁ息があがる頃には、全然足が上がらなくなって、そのうち僕は転んでしまった。慌てた僕はカボチャ畑に飛び込んだ。

 カボチャに隠れてやり過ごそう。


「…あらあら。畑に隠れちゃいましたね」


 男がこちらを見下ろす声がした。僕はギューッと身を縮める。側のカボチャが手にあたって、ひんやりした。


「ほーらほら♪

 隠れていても、無ー駄でっすよー♫」


 歌うような男の声とカボチャの弾ける音が、だんだんだんだん近づいてくる。

 どうしよう…どうしよう…。

 ドキドキドキドキしていると、ちょんちょんと頭をつつかれた。


 …見つかった?!

 と、ドキッとしたけど、男の声はまだ遠く。

 少しホッとして、そぉーっと顔をあげると、二羽のニワトリ。

 あれ?さっき庭にいたヤツかな?

 ぼんやり二羽を見つめていると、頭の上から声が聴こえた。


「あらあら、やっと見つけた♫」


 いつの間にか、身体を起こしていた僕は、カボチャの陰から出てしまっていた。

 背筋がゾッとしながら、ゆっくり見上げる。


「これで、あなたもハロウィン騎士よ★」


 そう言うと、片手の剣で自分の首をブチって斬って、カボチャ頭を僕に差し出す。

 黄色汁のしたたるそれを頭に被せられそうになったそのとき。ニワトリたちが大声で鳴いた。



 コケコッコー!!!



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 …ハッと目を覚ますと、窓の外はもう薄暗くなっていた。少しのお昼寝のつもりが夕方まで寝てしまっていたみたいだ。


「夢でよかった…」


 小さくつぶやいて、顔をあげると、ドアが開いて、カボチャ男が顔を出した。


「ぎぃやああああぁあああぁあぁあぁーっ!!!」


 ご近所迷惑間違いなしな悲鳴をあげて、転がるように逃げ出すと、カボチャの後から、おばあちゃんが現れた。


「……驚かしちゃって、ごめんね。

 ハロウィンの準備をしてたのよ」


 しーんとなった部屋の中で、おばあちゃんの申し訳なさそうな声が響いた。頭しかないカボチャ男は頭の中もすっからかんで、何の言葉も言わなかった。


 それから、部屋を出ていきかけたおばあちゃんは、ふと思い出したように僕に言った。


「そういえば、そろそろ食べれそうなカボチャもなってたわね。今日はカボチャの煮物を作りましょうか」


 嬉しくなって、僕は飛び上がった。ハサミとカゴ準備しながら、ぼんやり考える。

 今日のは割れてないといいな。割れていたって、美味しいけれど。


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