第4話 魔王討伐

魔王が封印されている荒野に到着した。

ぽつんと祭壇が置かれている。

そこを中心に木も草も生えていない。


なんとか魔王が解き放たれる前に到着することが出来た。


王女に魔王討伐に当たり作戦会議をすると言われる。


「まずこの私が魔王の封印を解きます。魔王が解き放たれた所で勇者であるあなたの出番です」

この王女も流石に魔王を相手にするには真剣になるのだと思ってしまった。


「俺は何をすればいいんだ?」


「肉壁となって私を守りなさい」


「は?」


「魔王からの攻撃にも耐えられるように私がちゃんと躾けてあげたでしょう?それにちゃんと耐えられるようにこの私が巫女の力でサポートしてあげますわ。泣いて喜び、感謝しなさい」

少しでも見直してしまって損をした。


「……俺は防御に徹してればいいのか?」

イラつくだけなので聞き流すことにする。


「何サボろうとしてますの?こんなのでも勇者なのですから、壁になりながら攻撃もしなさいよ。だれが手を抜けなんて言ったのかしら?あなたは犬らしくご主人様である私を喜ばせようと尻尾を振っていればいいのよ」


「……わかったよ」


「賢者のあなたは駄犬が犠牲になっている間に魔法を打ち込みなさい。犬のことは無視して巻き込んでも構わないわ。賢者というくらいなんだから猿くらいの頭はあるでしょう?」

王女が笹原くんに言った。

猿と犬、とちらがマシなのだろうか……?


王女は犠牲と言っただけでなく、俺に味方の魔法まで受けろと言っている。


「……わかりました。魔王に魔法を当てます」

ちゃんと魔王だけを狙ってくれよ?


「最後にメス豚、あなたは犬が壊れないように回復させなさい。死にそうにして楽しむのはいいけど、本当に死なせたらダメよ。ペットは大事にしないと。加減が難しいだろうけど、私を楽しませなさい」

これはヒドい。

こんな可愛い子に向かってメス豚呼ばわりはない。


しかも目的が最終的に王女を楽しませることに変わっている。


「……死なせないようにします」

星野さんは答えるけど、感情を持たないようにしているように見える。


「ちゃんと駄犬を痛めつけるのよ。これで作戦は完璧ね。それじゃあ封印を解くわよ」

王女は鼻歌混じりに魔王が封印されている祭壇に近づいていく。


俺はこんなんでも同じパーティなので、王女を守る為に仕方なくついていく。


王女は祭壇の前で祈りを捧げる。


すると祭壇から黒いモヤが出てきたあと、角の生えた男が現れた。

人のようにも見えるが、目は黒く、爪は鋭く尖り、尻尾が生えている。

このいかにも凶悪そうな奴が魔王か……。


角が片方折れているのが気になるが、以前封印した時に折ったのだろうか。


「なんだ……お前ら?ミカヅキはどこにいる?」

ミカヅキ?


「ミカヅキ様は既に亡くなられています」


「ふざけるな!あいつは俺の手でなぶり殺しにしないと気がすまねぇ!隠すつもりならこの世界ごとぶっ壊すまでだ。それが嫌ならあの野郎の居場所を教えろ!」


「あなたはミカヅキ様によって約1000年封印されていました。人間は1000年も生きることが出来ません」

王女が答える


「……そうか。それが本当かどうかこの辺り一帯を吹き飛ばしてみればわかるか?あいつが本当は生きてるなら姿を表すだろう。なんだか体も鈍っているようだし準備運動としてはちょうどいい。とりあえず、お前死んどけ」


ガギン!


俺は王女の首を切り落とそうとした魔王の爪を剣で受け止める。


「よくやりました。そのまま私の盾となりなさい」

そんなこと言う暇があったら早くここから離れてほしい。


「なんだてめぇ!俺の遊び相手になってくれるのか?あぁ?」


「お前を討伐する」

魔王との戦いが始まった。


始まってすぐにわかってしまった。

俺達は勝てない。


まだ俺が生きているのは、魔王が本調子ではないからだ。


封印されていたせいで戦い方を忘れているのか、それとも体が凝り固まって動かないのかは知らないけど、今はまだ戦えている。


ただ、魔王の攻撃はどんどんと激しさを増している。

俺は防御寄りになっており、攻撃は笹原君がしてくれて星野さんが俺の回復をしてくれているからなんとか耐えているだけだ。

今は少しだけど押している。


だけど魔王の力は増していっているので、このままだと押されだすのは時間の問題だ。

それに、いつまで笹原くんと星野さんの魔力が保つか……。


というか、王女はどこにいる?

巫女の力で俺の力を増してくれるんじゃなかったのかよ!?


まさか逃げたのか……?


遂に魔王に押されだす。

そして隙を突かれて俺は魔王を笹原君の方に通してしまった。


俺は魔王を追うが間に合わず、笹原君の腹に魔王の爪が刺さる。


魔王は笹原君から距離を取る


「こんなものか……。我を楽しませたことは褒めてやる」


笹原君は生きてはいる。

ただ、傷は深そうに見える。


詰んだ。


笹原君を治すには星野さんが俺の回復を止めないといけない。

そしたら俺は1分と保たないだろう。

笹原君を見捨てたとしても、攻撃の手が止まる。

今は俺が防御に徹していたからなんとか耐えれただけだ。

攻撃をしようものなら、すぐに殺されるだろう。


「笹原君を治して」

俺は星野さんに笹原さんを治すように言う。


勝算があるわけではない。

どうせ負けるなら、見捨てるという選択をしたくなかっただけだ。

結果として全員死ぬのに変わりはない。


星野さんが笹原君を治していたが、魔王は俺を無視して星野さんを攻撃した。


星野さんは攻撃を受ける。

致命傷ではなさそうだけど、気を失ってしまった。

笹原君の傷は治されてはいるけど、完全ではなく戦える状態ではない。


2人が戦えないので、防御に徹してもジリ貧になるだけだ。

俺は刺し違える気持ちで悪あがきをする。


防御を捨てたからか魔王に深傷を負わせることは出来たが、俺の腹には大きな穴が空いている。

死んだな……


「よくやってくれました。ナオト様感謝します。今まで申し訳ありませんでした」

意識が朦朧としていく中、いつもとは違う表情の王女の姿が見えた気がした。

あの王女がこんなことを言うはずがない。

死ぬ間際にこんなものを見るなんてな……

普通は走馬灯でも見るものじゃないのかよ。


俺は死んだものだと思っていたが、目を覚ました。


「宮島さん!良かった、間に合った」

目の前には星野さんがいる。


腹に空いた穴は無くなっている。

どうなってるんだ……?

腹の穴は星野さんが治してくれたのだろうけど、魔王は?


「死んだと思ったんですけど、魔王は?」


「宮島さんが倒したんじゃないんですか?」


「俺は倒してない。傷は与えたが、倒せてはいない」


「……私が目を覚ました時には死ぬ間際の宮島さんと倒れた笹原さんがいただけです」


「笹原君は?」


「致命傷ではないです。ただ、魔力が無くなってしまったので治すことが出来ません」


「そっか。良かった。王女は?戦っている最中も姿が見えなかったけど……」


「わかりません。逃げたんじゃないですか?」


「そうだよな」


「どうかしたんですか?」


「いや、意識を失う前にお礼を言う王女の姿を見た気がしたんだけど、気のせいだろうな」


少し休んで星野さんが魔力を回復した後、笹原君の怪我を治している時、騎士団長が迎えにやってきた。


「魔王討伐ご苦労様でした。おかげでこの世界は救われました」

騎士団長の言動に違和感を覚える。


「魔王を倒した記憶はないんだが?どこかに逃げただけと言う可能性はないのか?」


「この世界から魔王の反応は消えています」


「これで元の世界に帰れるのか?」


「城にて送還の儀式の準備は出来ています。本当にありがとうございました。それで王女様はどちらに?」


「気がついた時にはいなかった」


「そうですか。では皆さんだけでも城にお戻りください。城に着きましたら、世界が救われた事を祝したパーティの後に儀式を行います」

やはりおかしい。おかしいことはわかるが何がおかしいんだ?


「元の世界に戻ったら俺達はどうなるんだ?」


「わかりません。文献に送還の儀式について書いてはあるのですが、戻った後のことを私達に確認するすべはありません。ただ、儀式が成功したとは記されていますので、それは安心して下さい」

人間やめたような力のまま帰ることになるかもしれないということか……。

どうなるかはわからないけど、俺に出来ることは儀式が成功するように願うだけだ。


「この首輪は取れないのか?」


「解呪の言葉を聞いております」

騎士団長に教えられた言葉を言いながら首輪に触ると、首輪が外れた。


首輪を外したということはやはりもう俺達を縛るつもりはないということだ。


魔王のこととか分からないこともあるが、元の世界に帰ればこの世界のことなんて関係ない。

やっと解放された自由という幸せを噛み締めることにする

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