第27話 ほろほろ

 うーん、今日の女性はおいしいことはおいしいけど少し固かったかな。

 ラブホテルの部屋を片付けながら(散らかしたままだとテツオさんに怒られたので使用後綺麗に片付けるようになった)思った。今日の彼女はアスリートだというので、健康的な身体を期待してはいたが、筋肉が多すぎた。ちょっと失敗だったなあ。

 口直しに人間の作ったほろほろお肉のビーフシチューでも食べに行こうかな。近くに腕のいい洋食屋があるのだ。テツオさんはオフだし「今日は用事があるから連絡してくんなよ」と言われたので、たまには一人で食べに行ってみよう。

そう思ってひとりで店に入ったのだが。偶然にも、見覚えのある人物が窓際のテーブルに座っているのを見つけた。

 初めは誰だかわからなかった。

 座っていたテツオさんは、いつもの毛玉だらけのスウェットや擦りきれたジャケットではなく、きちんとアイロンがかかった新しいジャケットを着ている。ぼさぼさの髪もちゃんと整えられている。いつもは猫背の背筋もピンと伸びていて、テツオさんはこんなに上背があったのかと驚いた。別人みたいだ。

 ところでこの店には喫煙スペースがないのにテツオさんはイライラしないのかと彼の表情をうかがってみると、なんだか緊張していて、それどころではないようだった。

 よく見たらテツオさんは一人ではなかった。退魔師並の力を持つと言う恐ろしいクリーニング屋のシロタが向かい合って座っている。

……僕は離れた席で新聞を読むふりをしてテツオさんとシロタの様子をうかがうことにした。僕は全神経を研ぎ澄ませて、二人の会話を聞き取る。

「せっかくのお休みにお付き合いいただいてすみません、川下さん」

「あっ、いえ!全然大丈夫です!こちらこそわざわざジャケットまで用意していただいて……」

「なに、ちょっとした気持ちですよ。優良従業員の受賞、おめでとうございます」

 何それそんなの聞いてない……。

「はあ、全然実感ねえけど……ありがとうございます。シロタさんが今の仕事を紹介してくれたおかげです」

 緊張したおももちながら、感謝の意を告げるテツオさん……どうやらシロタのことは嫌ってはいないらしいとわかった。

シロタはおもむろに白いハンカチを取り出してテーブルに置いた。

「恥ずかしながら今の洋食のソースの汚れに疎いので、研究のために食事をしたかったんですがひとりでは気が引けますし、誘える方もいなかったものですから……お付き合いいただいてありがとうございます。」

 クリーニング店の店員にでも声をかければいいものを。店長慕ってそうだったのにあの子。

「ふーん……………」

 いつの間にか、注文していたビーフシチューがテーブルの上に置いてあった。

 二人の会話を聞きながら片手間に食べるほろほろの牛肉が入ったビーフシチューは、何故かおいしくなかった。


※ ※ ※

「どうして優良従業員に選ばれたって教えてくれなかったんですか!?」

 シロタさんが去ったあと、いきなり現れたヤツに俺はぎょっとした。

「えっなんでお前ここに……いや、だって優良従業員なんて客に関係ないだろ…」

「受賞式いつやるんです!? 出席して祝辞を壇上で読み上げてやります!」

「やめろ!!」




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