第26話 対価

「おぬし、ずいぶんあの清掃員に馳走をしてるようじゃが、対価はもらっとるのか?」

「え? 無いですよそんなの」

 当然のように答える青年にトウコは暫し絶句した。

「え……何も対価にもらっておらんのにあんなに尽くしてやっておるのか?」

「いや、だってテツオさんに期待するだけ無駄じゃないですか……」

「それでいいのか若造ーーーー!!」

 ダン、とテーブルを叩くトウコに今度は青年が驚く。

「おぬしは人間より上位に立つ存在なんじゃぞ、わかっとるか!?」

「えっ。わかってるいつもりですが……なんかこう、感覚としてはペットの餌やりに近くて……ペットに対価求める飼い主とかいないじゃないですか」 

 そう、確かに彼がテツオと食事を共にするのは、青年の方から誘うことがほとんどで、テツオがはっきり口に出して「おごれ」というのは、青年がテツオを怒らせたり困らせたりしたときに限るのであった。

 初めて食事を共にしたきっかけというのも、かつてホテルで客を食い散らかした自分に怒ってきたテツオに、じゃあ人間の食事の作法を教えてください、と青年が頼んだのがきっかけだ。

「はぁ、そういうことか……。じゃが、たまにはこう、おぬしが相応の対価を求めてもよいのではないか? 私は見ていて心配じゃ」

「テツオさんに何かできるとは思えませんが、まあ考えてみましょう。ありがとうございますトウコさん」

 食料としては論外だし、金も持っていないテツオ。掃除だって仕事で報酬がもらえるからやっているだけで、普段の部屋は綺麗とはいえない。そんな彼に何かを求める意味はあるのか……?と、青年は内心疑問に思っている。


「じゃあトウコさんは彼氏さんから何を対価にもらってきたんですか?」

「は? 無いぞそんなの。恋人と一緒にいられるだけでそれ以上何を望むことがある!」

「そっか~」


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