第25話 ステッキ

有栖川雛菊の机の引出しの奥には、魔法のステッキが眠っている。

といっても、破魔の力や妖力などはまったく無い、ラップの芯と、色紙やビーズやモールで作った、こどもが手作りした魔法のステッキだ。

幼い頃、雛菊は、アニメに出てくる魔法少女たちが使う、魔法のステッキがずっと欲しかった。

もっと言うと、退魔師として怪異払いをするときは、魔法少女のようなかわいいドレスを着て、キラキラしたステッキで戦ってみたかった。

……しかし、そんなことを父母に言えるはずはなかった。遊びじゃないんだぞと一蹴されるのが目に見えていた。

 だからその願いを口に出したことはなかったのだが。ある日、小学校から帰ってきた紫苑が突然、「学校でつくったからあげる」と、雛菊に手作りの魔法のステッキをプレゼントしてくれたのだ。

 今になって思えば、よくある図画工作の時間に紫苑がこしらえただけのことで、なんなら雛菊だって同じ授業を受けたはずだ。だが当時の雛菊には、突然キラキラしたステッキをくれた紫苑が魔法使いのように見えたのだった。

「……………」

 雛菊は、月に一度の大掃除の日に引出しの奥からこれを取り出しては、逡巡したのち、結局ステッキをもとの場所にしまった。

 高校生の雛菊にはもう要らないものであるし、使うこともないのだけれど。

 それでも捨てる気にはなれなくて、ずっと机にしまっている。

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