第20話 祭りのあと

「……チッ、いつも以上に散らかしやがって」

 バケモノ御用達のラブホテル清掃が自分の仕事であり、客室が汚れていることなど日常茶飯事だ。日常茶飯事だが、それにしても毎年ハロウィンだのクリスマスだのといったお祭り騒ぎの後の片付けは、いつも骨がおれる。

 いつもの血や臓物にくわえて(これが「いつもの」なのが異常だとは思うが気にしたらやってられない)クラッカーやらコスプレ衣装の残骸やらがとっ散らかっていたり、他にもいつもなら信じられないようなところに信じられない汚れがついてたりするのが祭りのあとだ。

 ハロウィンはともかくバケモノがクリスマスに乗っかるんじゃねえよ……。

 そんな、いつも以上に散らかりがちなシーズンでも、たまに未使用かと思うほど綺麗に部屋をあとにする客もいる。

 顔見知りの「ヤツ」がそのひとりで――以前はあまりにもひでぇ部屋の使い方をしやがるのでキレた俺が文句を言ってから改善されたのだが――とにかく、今日も1つだけ綺麗なままの部屋があった。ヤツが使った部屋だろうか、まあバケモノのくせにクリスマスに乗じてお盛んなことで……と思いながら片付け始めたのだが、ほどなくして、どうやらヤツとは違う客らしいと気がついた。タオルの畳み方や、枕を戻す位置が微妙に違う。ゴミ箱に入っていたヒトの残骸も、どうやら男だったようで、ヤツの獲物になりそうな人間ではない。更にいえば、部屋にわずかに残る香りも、何がどうとは上手く説明できないが、ヤツのものとは違っていた。へえ、言われなくても綺麗にしていく怪異っているんだな。

 ……そこまで考えてから、俺は自分が必要以上にヤツの習性に詳しくなっていることに気がついてしまい、なんだかどっと疲れたような気がした。



※ ※ ※

仕事を終えて外に出ると、昨夜はホテルを利用してないはずの「ヤツ」の姿があった。

「テツオさんお疲れ様です~営業先でクリスマスのお菓子もらったんですけど食べます?」

「バケモノの癖に俺より社会人してる上にクリスマスに乗っかるんじゃねえよ……」

 綺麗に使われていた客室が、ヤツの使った部屋ではないと気付いた話は、コイツには絶対しないでおこうと思った。

 



 

 

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