第15話 おやつ
「………飽きてもうたわ」
京の老舗の高級生和菓子をつまんでいたキツネ目の女が、ぽつりとつぶやいた。
女の言葉を聞いた少年は呆れながら言う。
「先生が召し上がりたいとおっしゃるから朝からお店に並んで買ってきたんですよ?」
「でも飽きたもんは飽きたんや~! この1週間色々食べてみたけど、人間の作るお菓子なんて結局みーんな似たような味ばっかりや!」
女は床に寝転がってバタバタと手足を動かして子どものように駄々をこね始めた。
「やめてください、いい歳して!!」
「ピチピチの千二百歳ですぅ!もう我慢できん~~~! やっぱりおやつはナツメの血が良ぇ~~~!」
「もう……1週間前に僕が貧血で倒れたからしばらく我慢するっておっしゃったのはどなたでしたっけ?」
「うう、そやけど、やっぱりナツメの血よりおいしいおやつなんて無いもん!ひとくちだけでええから!」
「……仕方ない人ですね」
そう言われてしまうと、少年……ナツメの方も悪い気はしない。寝転がる女のそばに膝をつく。ナツメは自分の着物の襟をゆるめ、首元を露にした。透き通るような白い肌が、薄暗い部屋のなかで光っているようだ。
「本当にちょっとだけですからね」
「やったー!いただきまーす!」
さっきまでの駄々が嘘のように、女は満面の笑みを浮かべて、ナツメの首筋に歯を突き立てた。
あたたかいナツメの血が、女によって吸われていく。ナツメは女のおやつが終わるまで邪魔をしないよう、一言も喋らず黙ってじっと座っている。
ほどなくして、女がナツメの首筋から顔をあげ、「ごちそうさん」と笑顔で言った。
「ナツメの血はいつ飲んでも極上やね」
「先生に変なもの口にさせるわけにはいきませんので」
ナツメは己の体を厳しく自己管理しており、いつも最上の血の味が提供できるようにしている。先日はそれ以上に女がナツメの血を吸いすぎてしまったため、彼は貧血で倒れてしまったのだが。
「でも、いつも美味しいもんしか食べてないから、たま~にはゲテモノとかも食うてみたいわ~」
「張っ倒しますよ!?」
女の食への探究心は、ナツメといういつでもおやつにできる眷属を得た後でも変わらない。それは頭ではわかっていたが、できることなら自分以外のモノに心を傾けてほしくない、とナツメは思うのだった。
後に女が東京でテツオを見つけ、「ゲテモノっぽそう!食うてみたいわ!」と追いかけ回すことになるのはまた別のお話。
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