第10話 水中花

「トウコさーん、遊びに来ましたー!」

 同胞のトウコさんの家のインターホンを鳴らす。ドアを開けて出てきた今日のトウコさんの姿はスレンダーな女子大生、といった風情だ。

「よう来たな。さ、入れ」

「お邪魔します。あ、これお土産です」

 トウコさんは甘味も好きなので通勤経路の途中にある人気洋菓子店のケーキを買ってきた。会社の同僚の女の子たちに見つかり「もしかして彼女さんにですかー!?」と訊かれたが「大事なお友達へのお土産ですよ」と返しておいた。

 部屋にあがると、トウコさんの歴代の恋人たちの生首がガラスケースの仲に綺麗に並べて飾られている。大切に保管されているようだが、どれも息は止まってしまっている。

「あらーまた増えました?」

「うむ、しかしみんなすぐに枯れてしまってのう……」

 悲しげなトウコさんを見ると、同胞としてなんとかしてあげたいと思うが、人間の男の生首を妖力で長持ちさせるのは、残念ながら僕の専門外だ。

 トウコさんは気に入った男を見ると首を刈って(胴体は食べる)恋人の生首を一生懸命お世話するのだが、3日もたせるのが精一杯なのだという。一般的には短いと言われる彼女の恋はいつも全力全霊だ。恋人が息を止めたあとも、手入れをしながら丁寧に保管しているところが、彼女の愛情の深さを表していると思う。

 ふと、前回遊びに来たときにはなかったものを見つけた。大きな箱に黒い布がかかったように見える。

「トウコさんこれは?」

「あぁ……おぬしは水中花というものは知っておるかの」

「あー、水の中に造花とか入れて眺めるやつでしたっけ」

「そうじゃ、知り合いの雑貨屋が譲ってくれたんじゃが。首はサンプル用だからサービスじゃと言われての……」

 言いながら、トウコさんが布をとると、箱だと思っていたのは大きな水槽で、中には花のかわりに男の生首が、つくりものの海草と一緒に水のなかで揺れていた。

「ほうら綺麗じゃろ」

「わあ」

 水槽の中で、生首の髪がふわりと揺れて、なるほど確かに水中に咲く花のように見えなくもなかった。

「綺麗な女の子でやったら見映えしそう~」

「……おぬしの正直なところは嫌いではないぞ。」

「でもどうして布かけちゃってるんです?」

「む……水中首は死んでしまった恋人たちの鑑賞の仕方のひとつに紹介されて、私も最初は綺麗だと思ったんじゃがな……これでは触れることができぬじゃろう」

 言いながら、トウコさんは一番最近のものらしい、左耳がピアスだらけの恋人を手にとって丁寧に髪の毛を撫で始めた。

「やはり美しくても手が届かぬものを飾るより、私は愛するものに直に触れる方が幸せに感じるのう」

 そう言いながら男の首を見つめるトウコさんの目は慈愛に満ちていて、確かに幸せそうだと感じた。


※※※

「トウコさんって乙女なところありますよね~」

「何が!?!?!?!?ていうか俺は何を聞かされてるの!!?!?!?」

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