第3話 南瓜

 この季節は南瓜を使った甘味……スイーツが女の子たちに人気だ。

 おいしい人間をおびき寄せるには、おいしい料理と決まっている。古今東西、異界の食べ物を口にして現世に帰れなくなった人間の例は後を絶たない。

 僕が作る料理にはそこまでの妖力は無いし、媚薬が入っているわけではないけれど、人間の女性の胃袋をつかむには十分な腕前だと自負している。最終的に胃袋ふくめて食べるのは僕の方ではあるが。

 今回の標的がカボチャ好きで、たまたま近くのスーパーで安売りしていたのでたくさん買ってきてしまった。スイーツ作ったあともちょっと余りそうだなこれ……。

 こんなとき、人間同士の知り合いだったなら、作りすぎてしまった料理をお裾分けして、それをきっかけに親密度が増したりすることもあるんだろう。

 

しかし、テツオさんは決して僕が作った料理を食べることはない。


 過去に一度、あまりにも不摂生なテツオさんに手料理を差し入れしようとしたとき。

「あー……やめとくわ。」と、頭をぼりぼり掻きながら言われたのだった。

「どうしてですか? ちゃんと肉屋さんの肉使いましたよ?」

「いや、別にお前が作ったからってわけじゃなくて他人の手作りって食えねえんだわ」

 やんわりと断られたが、ヒトでないものの食べ物を口にするのは憚られるのだろう。

 ヒトではない存在を相手にする商売に関わる人間として、テツオさんの警戒は正しい。むしろ道端に落ちてる食べ物を拾って食べりしてなくてよかった。


だから、ちょっとさみしいと思ってしまうのは僕のエゴでしかない。


 そんなわけで、僕はいつもテツオさんを外食に誘うか、市販の差し入れをするかのどちらかになるのだった。

 しかしテツオさんは、他人の手作りが嫌だからといって自炊してる様子もあんまり無いので、南瓜をまるごとあげたところで腐らせてしまうのがオチだ。


「それでこんなに南瓜があるのか……まあお前の甘味のあまりにありつけるのは悪くないがのう」

「トウコさん、今世ではスイーツって言うんですよ」

 その後、南瓜の処理に悩んだ僕は同胞のトウコさんを家に呼び、一緒に南瓜のスイーツ作りを手伝ってもらうことにした。今日のトウコさんは9歳くらいの子供の姿になっている。トウコさんの刃の切れ味は抜群なので南瓜を切るときには正直助かる。

 南瓜のタルトにプリンにパイ……ホテルが提供するスイーツにも負けないような一品がずらりとできあがった。味見もしてみると、うん、僕自身がつまむのにも、上質な餌としても合格だ。

 トウコさんにはお土産でいくつかもってかえってもらい、標的用のスイーツは綺麗にラッピングして冷蔵庫にいれておいた。

 標的の彼女が食べた後、これらがめぐりめぐって最終的には自分の胃のなかにおさまるんだなぁ、ということをぼんやりと考える。

 食物連鎖って生命の合理的で神秘的なサイクルだなぁ。

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