大雪 パイの可能性

 マリー・トツォの甘い旋律バイラスは、もはやとも言えるAIから生み出されたものだ。だが私たちは『パンデミミック』の浸透ぶりを利用し、新たな流行を創ることにした。


 それこそが、参謀ザッハが描いた物語シナリオだったのだ。


 現状を分析し、人々に警告を発するスコーンのパフォーマンス。そして救いの手を差し伸べる私の星策。混乱を招き傷ついた人々も多少は居ただろうが、おかげで低迷していたこの星界の経済は大きく動いた。


 カスティーリャ大学のパイ教授が提唱していた『パイはお菓子にもご飯にも成り得る』という説を引き合いに、というザッハの策略は的中し、人々はおかずパイに夢中になり、『スイーツは特別なもの』という価値観のパラダイムシフトも生まれた。


 おかげさまで星府公認のミートパイはバカ売れ。特別仕様のスイーツパイは価格を釣り上げても予約が殺到。関連する界隈は大いに潤った。


 当のパイ教授は「ワタシはそんなつもりでパイの可能性を説いていたのではない。もっと純粋で円満な幸福を……」と不服そうだったが、我々がズームアウトすれば、そんな声は人々には届かない。


 無論、物語シナリオは如何に魅せるか、ということに尽きる。


 何しろ人は皆、虚構の世界に生きている。を〈現実〉とする世界で。

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