小雪 虚構のリアリティ

「『パンデミミック』の拡散係数は最高潮プラトーに達しています。同時にメディア〈サイフォン〉の糖蜜度は現在もなお加速度を増しながら……リアリティ抜群であるがゆえに、もう……甘くて甘くて――」

 スコーンはうんざりした顔で項垂れた。


 メディアは元々、通称〈鷹の魔女キルケー〉と呼ばれる正体不明のエンジニアの発明品だが、今や開発者の手を離れて、自己複製と進化の枝葉を広げ多様化している。というダーウィンの『進化論』を適用できるとも言われ、時代にそぐわないものは淘汰されてきた。


 〈サイフォン〉もそういった数多くのメディアの一つに過ぎない。〈場〉が時代に適合し、マリー・トツォの甘い旋律バイラスが促進剤となり――


 上手くマッチングしたものが。その繰り返し。

 そして、その周辺でのだ。



   §




 社会はわかりやすい〈何か〉に注目を集め偏りや溜まりアンバランスを作ろうとするものじゃ。さざ波から大波へ。その傾きが多くの意識を動かし、社会を変えてゆく。


 栄養にしろ情報にしろ、過剰摂取は知らずの内に己を蝕むものと解っていながら、誰もが知らずの内にその〈何か〉を浸透・定着させる担い手となっている。

 興味を持ち、話題とすることで。


 そう。いつの世もなのじゃ。

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