白露 甘い旋律はミミック

「「パンデミミック?」」

 問い返した声がザッハとハモり、思わず互いに視線を交わした。


 『パンデミミック』は旅の吟遊詩人マリー・トツォの歌だ。

 ハープを奏でながら語られる「パンの代わりに朝からスイーツを食べたっていいじゃない」という甘い旋律バイラスが一世を風靡し、世界的にが大流行した。


 メディア〈サイフォン〉で、俳優のマドレイヌが生クリームをたっぷり挟んだ丸いパンを朝食にしたと投稿したことも、おかしの流行に火を点けたと言っていいだろう。「朝から甘いものを食べられて幸せ」と語ったことから、スイーツを食べて幸福感に包まれることは〈福反応〉と呼ばれるようになった。

 現にさっき俺たちが食べていた貝殻型のマドレーヌも、俳優のマドレイヌ自身が『朝から食べたいスイーツ』と銘打って、レシピ開発に関わったものだ。


 窓から差し込む柔らかい朝陽の中に見目麗しくテーブルセットされた朝食の風景と自分たちの〈福反応〉について、メディア〈サイフォン〉へ投稿することに多くの人が熱を上げた。


「流行の最先端、パンデミミックが、どうかしたのか?」


 スコーンの慌てぶりと話題がどうにも結びつかない。




   §



 キャッチーな言葉が社会で密度を増してゆく時、ワシは無意識にか、そこから少し距離を取るようなところがある。そして現在・過去・未来へ横断的に意識を走らせ、事の起こりと行く末を想像する。


 センチメンタル・ジャーニーへ旅立つのじゃ。

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