小暑 お知らせは突然に
限られた数とはいえ、ワシは季節の便りを一枚一枚宛名も含め手書きしておる。
形式的でない唯一無二の筆跡。
相手を思ってというよりは、自分にそうしたい存在がいると再認識してしみじみとする、極めて内省的な儀式じゃ。
さて、『おかしな話』の舞台はこの『銀河』の何処か。
オブラート星策を巧みに繰り返す、とある星界の話じゃ。星屑を束ねるための星策はいつだって虚構に満ちておる。それも他愛も無いことのように。
§
「どうだ、トルテ。この策は」
「まいったな。とんだ名作だ」
目の前に居る参謀ザッハを映す自分の瞳は、畏怖と侮蔑の入り混じった色をしているだろう。
少し頭の中を整理しようと、マドレーヌを紅茶に浸して口に運ぶ。芳醇なバターの香りが呼び覚ましたのは、子供の頃に初めて焼きたてのバターロールを食べた記憶だった。
そのまま過去に浸っていたかったが、駆け足で近づいてくる騒々しい足音が、そうはさせてくれないことを物語っている。
ドアの方を一瞥し、残りのマドレーヌと紅茶を急いで腹に収めた。
「閣下! 今、よろしいですか! 緊急事態です!」
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