夏至 おかしなはなし

 暑い時は涼しげなことを想像してやり過ごすに限る。

 『おかしな話』は冬の光景から始めるとするかの。




   §




 あの時の俺は、確かカスタードクリームパイを食べていたっけ。


 熱々のミートパイを齧りながら、木枯らしが吹く窓の外を眺めた。暖炉の熱が対流する部屋の中は、ビートルズの『ハロー・グッドバイ』に満たされている。何もかもが流行り廃れ、栄枯盛衰を繰り返す。 

 春が来て夏が過ぎ、秋の実りに気を取られている間に冬に包まれる。俺たちが太陽を周遊している限り、そうした四季の律動から逃れられないのと同じだ。


 それでも、こうして腹が満たされるというがあれば、くだらない虚構で塗り固められた現実さえも、適当に生きていくことができる。

 温かくて美味いものならなお良い。


 膝の上に溢れたパイ屑を払って、こっくりとしたクラムチャウダーを掬い上げると、最後まで耐えていた一枚の木の葉が、無情にも彼方へ連れてゆかれた。




   §




 ふう……物語の書き出しは難しい。


 しかも物語の起こりばかり思い付いて、うまく纏まらん。あれもこれもが『銀河』の藻屑になってゆくのは実に惜しい。


 それでもやはり、種は蒔いておくに限る。そうは思わぬか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る