第42話


ガタッとレテューが突然立ち上がり青い奴に飛びかかり、壁まで吹き飛ぶ。


「レ──」


レテューの名前を呼ぶことすら、突然現れた手に口を塞がれ、叶わなかった。


カシャン、と両方の手首に何かはめられ、ずしりと身体が重くなる。


「魔力封じの腕輪です。通常の100万倍──どうです?」


視界に立ち塞がるのは、黒いマントだ。


壁まで吹っ飛ばされたレテューの首を、緑のマントが掴んで抑えつけていて。


「……他言無用だ。わかっているな?」


震えるニルクを黄のマントが見下ろしていた。


手際が良すぎて、文句も出ない。


早々に諦めた俺の口から、そっと手が離れる。


「さ、行きましょう」


嬉しそうに、青マントは俺の腕を掴んだ。


レテューが、俺の名前を呼ぶのを聞きながら──切り替わった視界を確かめる。


豪華な部屋だった。


刺繍のされた真紅の絨毯。天蓋つきのゴテゴテした寝台。オフホワイトの壁には金糸の植物の模様。


衣装箪笥、猫足のテーブル、布張りの椅子。


まるで、貴族の部屋みたいな。


「隣室にバスルームとトイレがあります。何か欲しいものがあれば使用人に命じてください」


窓がない。


明かりは天井のシャンデリアのみ。


「では、ごゆっくり」


わざとらしく一礼して、青マントは消えた。


静寂が深すぎる。何の物音も聴こえない。


唯一あるドアを開けて確認したが、廊下をはさんで広いバスルームと、トイレしかない。


外に出るための、ドアがなかった。


左右の手首にはめられたのは、厚さ1センチくらい、幅10センチくらいの頑丈な腕輪で、宝石がびっしりはめ込まれ、石の中に模様が……魔法陣? が入っている。


試しに、母さんとこに戻ろうと思ってみたが、フワリと生まれた金色の粒たちは、腕輪の石に吸い込まれていった。


宝石じゃなくて、魔石ってやつか。


ため息しか出ない。


ソファーに座り込む。


視るのは──できるか。





分厚い壁……どうやら地下のようだった。


物理的な出入口はない。


何か大きな建物の地下。地上には……堅固で豪勢な広い建物……赤い絨毯、全身鎧の兵士、いくつもの部屋、これってあれだ、お城?


いくつか壁をすり抜けて、覚えのある気配が集まる部屋を見つけた。


長細い部屋に長細いテーブル。カラフルなマントの人物達が席につき、主賓席だろう男に注目している。


頭上に王冠をかぶっているから、王様、だよな。


なんともいえない、苦い顔つきの王様は40代くらいで、恰幅がいい威厳のある人物だった。


レテューはいない。


「──あの皇帝に、交渉など無駄だ」


「神竜の心臓ならいかがです? 交渉の席には出てくるでしょう」


「おとぎ話を信じてか?」


「精霊はいる。でしたら、神竜だっているはずです。あの皇帝なら絶対飛びつきます。なんせ──執着の激しい女性ですからね」


「……不老不死、か……」


嬉嬉として会話を進める青マントと、沈黙する他のマント達と、押され気味の王様。


王様に、頑張ってもらいたい所だけど。


「皇国に攻め込むのが無理なら、なんとかして皇帝を引っ張りだすしかないのです。麗獄は移転でしか出入りできません。中に入ってしまえば後は……」


青マントは、そこで口を閉じた。


王様は、思案しはじめる。


長い長い沈黙のあと、王様は縦に首を振った。




レテューを探して、お城の外を視た。


同じようなお屋敷が並んでいたので、彼の屋敷を見つけるまで、時間がかかってしまった。


ニルクはいたが、レテューの姿はない。


気配で捜せるか?


いったん、視界を戻して目を閉じる。


レテューの……灰色の髪と日焼けした肌とアイスブルーの瞳を脳裏に浮かべながら、居場所を探す。


いた──ギルドの建物の地下2階、小さな部屋に。気絶してるし、後ろ手に拘束されてるし……頬が腫れてる。


痛そうだ、けど治せない。


とりあえず。


「……ふ」


腕輪のせいか眠くなってきて、あくびをかみ殺す。ソファーで寝るのは寒い、でも豪華な寝台は──抵抗があるが仕方なく、端っこに潜り込んだ。


とっても眠い。


ちょっとだけ。


寝ても平気だよな……?











部屋の隅で、闇がチカリと輝く……。







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