第24話


どたばたと一悶着あったけど、とりあえず落ち着いたヒューレアさんは山河に引きずっていかれ、俺は黒猫……ミューレイと母さんと一緒に、宿屋の一階に降りていた。


俺たち以外、客のいなかった古い宿屋は、なぜか賑わっている。


「リュウキ、具合は?」


こっちに来いと手招きされ、俺は素直にオヤジの隣の椅子に座った。


「大丈夫」


「そうか」


目を細めるオヤジの、もう片側に、母さんも座る。


ミューレイはどうしたらいいのかわからず、俺の後ろでうろうろとしている。


俺は仕方なく、空いてるテーブルの椅子に座るよううながす。


丸テーブルは六人掛けで、のこり三つの席には老人と、大人二人が座っていた。


「おお、リューイ殿のご子息ですな!」


「似ておられる…」


「こんなところでお会いできるとは」


ざわざわと、周囲から興味津々と見詰められ、居心地の悪さを味わった。


宿屋の一階は、おそらく食堂で、同じ丸テーブルが九つ並び、半分は席が埋まっている。


その全員が、どうやら……。


「悪いが、挨拶や紹介は後だ。先に、今後の方針を決めよう」


オヤジの一言で、みんな黙って真面目な顔付きになってしまった……全員、知人みたいだ。


「方針といっても」


「なあ、あいつらところ構わず荒らしやがるし」


「噂を聞き付けてか、どんどん増えてきてるぞ」


「はやく、なんとかしなきゃあ……」


テーブルごとに話し込み、深刻そうなその様子に耳を傾けた。


オヤジは腕組みして、黙って聞いているだけだ。


「……どこにあるかなんて……」


「埋ってるって噂じゃないか?」


「ガセだろう、どうせ」


母さんは、宿屋のおばあさんがお盆で運んできてくれたカップを、オヤジと俺の前に置く。


例の、魔法! を使ってたおばあさんだ!

俺はついつい、おばあさんを目で追った。


がらんとしてた宿屋がいっぱいになって、喜んでるにちがいない。


大人たちの話し込みは終わりそうもない。


2階から山河が降りてきて、ちょっとあきれたようにその様子を見回している。


やがて、雑談が混じりはじめたころ、オヤジが声を張り上げた。


「要するに、よそ者が増えないよう、いざこざが起きないようにすれば解決するんだろう? それは、今までだって同じに見えるがな。その噂は、外から入ってきたのか?」


顔を見合わせ、ほとんどのひとがうなずいた。


「この廃都のどこかに、古代のすっごい武器が隠されてる……ってな。子供らまで信じこんでるありさまだ」


武器……?


不穏な台詞を聞き、俺は不安感を覚えた。


「どんな武器か、の、話は?」


オヤジが訊ねる。


「さあなあ、とにかく、剣だとか槍だとか、いろいろでなあ」


……ミサイルを思い浮かべてしまった。なんだ、剣とか槍なのか。


安堵していいのかは、わからないけど。


がしがしと、オヤジは頭をかく。


「はっきりしないと、なんとも言えないな……。とにかく、出入りは制限作って、子供らには危険な場所に出入りしないよう、言い聞かせるんだな。よそ者が暴れたら、協力してふんじばれ」


「──そうだな」


「うんうん。出入り口、いくつかふさぐか」


「そうしようか」


お。


何やら、方針が決まったらしく、次々と大人らは宿屋を出ていった。


丸テーブルには、小さな石が……あれか、魔力を溜めるとかいう……のが置かれている。


おばあさんが奥からひょっこり現れ、素早く回収していった。


ぽつんと、俺たちだけ残る。


寂しい宿屋に戻ってしまった。


「……どういう話?」


聞いていいのか不安になりながら、両親に問う。


ふ、と母さんが笑った。


「街の安全性のお話し、かしら?」


はーっと、オヤジがため息をついた。


「自分らで決めればいいだけなのに、ぐだぐだと腰が重い連中なんだ」


ふーん……。


カップの中身を飲んでみた。


さわやかな香りのする、なにかの飲み物。


ようやく、山河がテーブルの方に歩いてきて、俺の背後を眺めて止まる。


ん?


つられて首をひねれば、黒猫耳少女……ミューレイが両手を前で組み、微動だにせず、俺の背後で緊張顔で立っていた。


「? ……なにやって」


「はいっ!? 」


ずっとそこにいたのか?


なんでだ。


「座ったら?」


「い、いいえっ。とんでも、ないです……っ」


うつむき、ふるふると震えて、けっきょく、ずーっと俺の背後に立っていた。



静かになってホッとして。


不思議な飲み物を飲んでいると、じーっと両親が俺のことを見つめてきた。


ん?


俺の顔になんかついてるのか?


不思議に思って見返すと、やんわり微笑まれる。


「さて……こっちは、どうするか」


オヤジがまた、俺の頭をわしわしする。


なんだよ、もう。


「鈴一、どこまで話した?」


オヤジに聞かれて山河が答える。


「簡単なことだけ、ですね」


「そうか」


山河も、なんでか椅子に座らない。


宿屋のおばあさんがひょっこり顔をのぞかせたが、俺たちがまだ話しているので、また引っ込んだ。


俺は、両親を交互に見る。


いろいろありすぎて、忘れてたけど。


無事に会えて、安心してる場合じゃ──なかったような。


「オヤジたち、なんでここに来たの」


「うん……来たと、いうか。むりやり運ばれたんだがな」



母さんが、宿屋の入り口を見る。


「入ってらっしゃい──」


すぐには、ドアは開かなかった。


だいぶ、間があいてから、ようやく扉が動き……黒灰色のマントが見えた。


俺は、夢の続きを見てるのかと思った。


──あいつだ。


夜の。




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