第18話


倒木がいくつか重なり、ぽっかりとあいた空間に、小さな水溜まりがある。


夜中で真っ暗なのに、水溜まりはかすかに光って、ぼんやりと辺りを照らしていた。


黒猫の背中から滑り降りると、翼をたたんだ黒猫の体は、もとのサイズに戻ってしまった。


ひんやりと、森は夜の空気に包まれている。黒猫を肩に乗っけて、俺は周囲を見回した。


どっかに山河がいると思うんだが……どこだ。


ぴちょん、と、水溜まりが鳴った。


雨も降ってないのに、水滴が。


不思議に面って思わず注視すると。


ざばっとなにかが水溜まりから跳ね上がった──魚!?


フナみたいなのに、ながいヒレとヒゲがついてる。


水中から出てきて、そのまま空中に浮かんでる。


そいつは、驚いてる俺をじろりと睨んできた。


目がでかい。顔つきがおじさんぽい。


俺が固まってると、興味を失ったように、すいーっと空中を泳ぎだした。


おお……変なの出た。


そいつの体は、かすかに青緑色に発光して、木々をすりぬけつつ光をばらまいていく。

なんだろう。


俺はつい、後についていった。


泳ぐ魚はどんどん森の奥に進んでいき、やがてちいさな滝があらわれた。


魚はその滝壺に、ちゃぽんと飛び込んだ。

不思議な光の行進が終わる。


滝壺のまわりに生えている苔が、まだ余韻を残してきらきら光り続けてる。


俺はぼんやりと、滝壺に吸い込まれていく水の流れを眺める。


まだ、おわってない──。


「ニャ」


黒猫が、慌てたように鳴いた。


俺も思わず、うしろに下がった。


滝壺の底から、なにか出てきた。


馬? 馬っぽい。


猛々しい、荒い気迫で馬が辺りを一瞥し、俺と黒猫に気付く。


「!」


馬は全身、水でかたちづくられてる。地面にあがると水滴がしたたり落ちた。


迷わずこっちに向かってくる。


うお……俺、なんかしたかな? 魚についてきたのが、まずかった?


息を呑んでかたまってると。


目の前まできて、水の馬が止まった。俺の目をのぞきこみ、ぶるると頭を振って、すいっと回れ右した。


滝壺に、戻っていく。


「……」


よく、わからないけどちょっとびびった。

あんなものがいっぱいいるのか……この世界は?


水が意思をもってるみたいだ。


ここからは離れたほうがいいな、うん。


「いこ」


「ニャー」


黒猫を抱き上げて、俺は滝壺を後にしたのだった。




夜じゅう、森のなかは不思議な空気に包まれていた。


光る苔が、進む先を示してくれるようにぼうっと光っていて、俺はなにも考えずにその路を歩いた。


ある大きな大木を見つけて、その根元でやすんでいる鹿みたいな、不思議な動物の親子を見た。


けっこうあちこちに小さな水溜まりがあって、その周りでいろんな動物が眠っていた。


歩き進んでいるうちに、黒猫は俺の腕の中で寝息をたて、さすがに眠くなってきた頃。


ようやく、見つけた。


木に寄りかかって、馬もそばにいて、山河はぐっすり寝てるようだった。


そーっと近寄ってみる。


起きる気配はない。


顔をのぞきこんでみたが、寝顔すら、平然としてるようにしか見えない。


俺を置いてくとか、許せん。


落書きでもしてやろーかと思ったが、あいにく書くものがない。残念。


俺は仕方なく、やつの隣に座り込む。


すぐに睡魔に襲われた。

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