第16話
使者の一団が階段をあがってきてる。いろいろ、尋ねる時間がない。
オヤジと母さんがいないこの状況で、他国の使者がくるっていうのは、偶然とは思えないんだけど。
やがて、扉をくぐって使者たちの姿がはっきり見えた。
当然のように、テラスにいる俺たちの前まで来て、彼らが止まった。
やっと二人の手が離れ、シーシアさんとイム将軍が前に出た。
「ミレハ統務、グレン将軍──シダとシュコクでしめしあわせての、ご来訪でしょうか?」
シーシアさんの緊張が、細い背中から伝わってくる。
「シーシア殿、夜分に突然の来訪、申し訳ない。しめしあわせたつもりはなく、偶然なのですが」
左の白装束の男は平凡な容姿で、偉そうな人物には見えない。すまなそうに返答して、晩餐会場を眺め、俺で視線をとめる。
「そちらが──王子殿下殿、でしょうか?」
茶色い瞳は興味深そうに、俺を品定めしてる。大人が、子供を見る時の視線だ──まだ子供じゃないか、っていう。
俺は、右の赤軍服の男に視線を移した。目が合うと、相手が一瞬驚き──それから真剣な顔になる。
「リューキ様?」
俺が黙ってるので、シーシアさんが振り返る。
なにか、返事しなきゃいけないのか。
けど、俺は『王子様』をやる気はないし。
でもこの場をなんとかしないと、いけないらしい。
俺は迷った。
使者は二人とも、お供は三人ずつ。護衛なんだろう。
ミレハは丸腰だが、グレンは腰にでかい立派な──刀?ぽいものをつけてる。胸まわりも腕の太さも立派で、いかにも武人ぽくて、強そうだ。
「イム将軍」
「はい?」
俺は、こっそり聞いてみる。
「あのグレンさんと将軍と、どっちが強い?」
イム将軍は、面白そうに微笑んだ。あごをなでる。
「サシで勝負したことはありませんから、なんとも……」
なにかしら思う所があるのか、楽しそうだな。
ふむふむ。
「王子? なんのお話です」
シーシアさんが、眉をひそめて聞いてくる。俺は、彼女にも聞いてみた。
「シーシアさんと、あの頭良さそうなミレハさん? と、どっちが……頭いい?」
「は?」
一瞬、怒りそうになってから、シーシアさんは考え込む。
「それは……」
「盤上ゲームみたいなのって、ある?」
「ゲーム?」
首をかしげられた。ないのか。
「オヤジと母さんが帰れるのって、何日くらいかかる?」
「それは……申し訳ありません……」
わからない、か。
「帰ってくるまで、使者さんたちをもてなせる?」
二人がハッとした。
単純に、時間かせぎだけど。
いま思い付くのなんて、このくらいだ。
シーシアさんとイム将軍は目を合わせて、それぞれ、使者たちに声をかける。
「ようこそミレハ統務、グレン将軍。せっかくお越しくださったのですから、晩餐にご参加なされませ……。王子殿下のご要望ですわ」
にっこりと。
シーシアさん……ちゃっかり俺を使う気か。
緊迫感が弱まり、会場のざわめきが戻っていく。
使者たちが、ゆるく包囲されるのを見ながら、俺は会場を後にした。
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