第11話


いきなり、なんだ?


「……ヒューレア」


「いやムリ、いくらあたしでも! 相手が悪すぎる!」


左手首を後からつかまれ、俺は後ろを向いた。山河の背中越しに、どこにも逃げ場がないのを確かめた。


馬が怯えて、いななく。


囲みが一部割れて、ひとり歩み出てくる。


髪の青い男で、いかめしい顔つきの人物。黒猫が肩で爪をたて、ちくっと痛みがした。


男は、じっくりと俺たちを見回し、俺で視線を止め口元に笑みを浮かべた。


「フードを外していただけると、ありがたいが……」


「ことわる」


反射的に、俺は答えていた。


緊張はしてるけど、怖さを感じないのは、なんでだろう。


怯えるようにしがみつく黒猫を、俺はそっと撫でる。馬の首も撫でてやると、次第に馬も落ち着いた。


こーゆー時に、ビビった態度をとるのはNGだ。


ちらと山河の様子をうかがえば、全く動揺していない。じいっと俺を見ている。


さて、相手はどうすんのかな?と視線を戻すと、面白そうに笑みを深められた。


男が、サッと左腕を横に上げて、下ろす。同時に、向けられていた剣が、一斉に下ろされた。


「ご無礼をお許しください、殿下」


男が、その場に片膝をつき、頭まで下げる──俺に。


同じように大勢の囲む人達も、一斉に膝をついた。


「こちらにおいでと判明しましたゆえ、お迎えにあがりました。城までご案内いたします」


えーと……俺に言ってる……んだろうな。


そっと山河の手が離れ、俺の前からどいてしまう。


隠れる背中がなくなって、もろに男と目があってしまった。


ただ強く見詰めてくる、髪と同じ青色の瞳の威力が半端ない。


誰だろう、このヒト?


歳はたぶん、山河よりちょっと上かな。


俺が何かしら返事しないと、事態が動かないようだ。


とこっと、ヒューレアさんが横にきてくれた。緊張はしてるけど、警戒心はない彼女の様子から、この男は敵ではないんだろうと判断。


とりあえず。


「誰?」


聞いてみよう。


「青都の守護をつとめます、イムハイユと申します」


名乗って立ち上がり、男は歩み出てくる。


腰に重そうな、幅広の剣。鎧をつけてる。西洋風の騎士みたいな格好だ。


彼が近付くと、なぜかヒューレアさんも山河も、俺の斜め後ろに下がってしまった。そのまま二人とも、片膝をついた。


え?


「──将軍閣下」


え。


将軍って、エライ人じゃ?


「殿下」


にこやかに、右手が差し出される。握手? なわけないか。


これは、あれか。手を出せってか。


じっと見返すと、イムハイユはうながすように笑みを深める。彼の表情や仕草からは、ただまっすぐな強い意思しか見えない。


初対面なのに、俺のことを知ってるような態度だ。


腑に落ちないまま、けれどこのまま突っ立ってるわけにも。


「──リュウキ、彼は大丈夫」


こっそり……背中にささやきが届く。


俺は、おそるおそる左手をのせてみた。


「では」


それが合図だったんだろう。


イムハイユと俺の真上、空中に青い光が生まれた。驚く間もなく、光が周囲全体に伸びる。本当に、一瞬で。


「……っ!?」


森がなくなった。


かわりに、広い場所にいた。


あれ、と瞬きをする。


人の位置は変わらず、ただ周囲だけが変わったのだ。


混乱して、山河とヒューレアさんの姿を探し、二人がちゃんといるのに安堵して、馬も黒猫も一緒なのを確かめ。


「殿下」


イムハイユの手に引っ張られ、そこから視線が空をさ迷った。


──なんだ、ここ?


空が目の前?


「青の都セトレア──空中庭都へ、ようこそ」




……空に、浮いてる……!?



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