第79話 銀太一空誉

 銀太一空誉は考えていた。


 この魔術を世に出しても良いのかと。


 自問自答を繰り返し、時には金清様に相談もして長い長い時間をかけて考えに考えた。


 そして、たどり着いたのが日本語で書く【魔術大全の書】【魔術大全の書Ⅱ】【漢字魔術の秘術】だった。


 地球の日本では【国語の神様】や、【漢字の生き字引】などと人から言われていた空誉は、実は書にある魔術を掛けていた。


 それは、書に遺された空誉の探索魔術によって決して悪用はしないと認められなければ、書を開く事も出来ないという魔術である。


 言葉遊びの様な魔術にしたのは、その探索魔術に気付かれない様にする為でもあったのだ。


 そして、空誉は願って逝った。


いずれは誰かに見つけて貰うのだが、どうか私のユーモアを分かってくれる人が見つけて、読んでくれますように』


 と。


 そして今、二冊の書がコルクという少年の手に渡った。あと一冊も近い将来にコルクの手元に渡る事になる。何故なら、最後の書は金清様があずかっているからだ。金清様がコルクの事を完全に認めた時に、【漢字魔術の秘術】は手渡される事になる。


 成人している事が条件になるので、あと五年はかかるだろうけど、その日は着実に迫ってきていた。


 そんな銀太一空誉はこの世界で満足して逝ったが、心残りが一つだけあった。出来たらこの三冊の書を受け取った人には、空誉自身が出来なかった心残りを叶えて欲しいと願っていた。


 そして、計らずもコルクは既にそれを叶えていたのだった。その事を空誉が知る事は無いが。

 コルクはやがて空誉からの言葉を送られる事になるが、その時はイヤミをかなり言われる事になるだろうと考えられる。

 その時が来るのも、書を渡される時と重なるのだが。またその時にお話しようと思う。





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