第78話 そして、お願いした

 現れたコクアは僕を見て、


「アラ、ダメじゃない。貴方。神々の秘密を暴露したら」


 と金清様に言った。けれども金清様は落ち着いて答えた。


「なに、大丈夫じゃ。この子は我が認めた清廉な心持ちの子じゃ。我の教えを人に言いふらしたりはすまいよ」


 そう僕を見ながら言ったので、混乱しながらも僕は頷いてその言葉を肯定したんだ。

 コクアは僕をジッと見ていたけど、アラこの子と言いながら近づいてきて僕の頭に手を置いて、


「そう、あの物語を読んだのね。それなら、私を認識出来る筈だわ。でも、認識出来てるのはアナタだけだから、婚約者達にはナイショにしておきなさい」


 そう言って頭を軽く撫でてから手を放した。そして、金清様に


「それじゃ、貴方。私は元に帰るわね」


 そう言うと現れた時と同じ様にパッと消えたんだ。


「おお、全く、偶には我の相手もしてくれたらよいものを……」


 とかブツブツ金清様は文句を言ってるけど。一連の流れの間、僕の婚約者達は何が起こっているのか分からなかったようだ。しかし、ラターシャお姉さまは流石だった。


「コルくん、今何か神聖な気配を感じたのだが?」


 僕は慌てて誤魔化した。


「お姉さま、今のは金清様の神力によるモノですよ」


「そうなのか? ウーン…… まあ、コルくんがそう言うなら」


 何とか納得してくれたようだ。そして、僕は金清様にお願いしなくてはと思い出していた。


「金清様、何でも叶えて下さるって言ってくれましたよね? それじゃあ、僕は国からこの森を含む土地を領地として下賜されたのですが、森全てを更地にするつもりはありません。アチラから二千メートルの範囲だけ森を切り開きたいんですけど、それを許可して貰えますか?」


「何じゃ? そんな事で良いのか? それなら簡単じゃ。ホイッ!」


 金清様の掛け声と共に僕達が考えていた範囲の森が切り開かれ更地になった。無くなった木は丸太材になってお社の近くに積み上げられている。


「コレで良いか? 良いなら我も少し願いがある。この木を利用して我の社ももう少し立派なモノにしてくれんかのう? 神体は言わずともコルクなら分かっておろう。ソコに女陰ほと石も並べて、陰陽一体で祭って欲しい。頼めるかの?」


「はい、分かりました。金清様のお社を神社の様に大きなお社に建て替えます。早速、明日から職人達に来て貰って取り掛かりますね。今日は有難うございました。そして、コレからもよろしくお願いします」


 僕がそう言って頭を下げたので、金清様の神力に驚いていた僕の婚約者達も慌てて頭を下げたんだ。


「ほっほっほっ、良い良い。我も賑やかな方が楽しいからの。周りにも人が住むなら住んでも構わぬからな」


 金清様は機嫌よくそう言ってくれた。先ずは金清様のお社の建て替えを行ってから、区割りを考えよう。神職の人も近くに住居を建てて住んでもらえるかな? でもコッチの神職の人には頼めないから、新たに募集しないとね。出来れば既婚者さんで、まだ子宝に恵まれてない夫婦の人が良いなあ。 


 それから、屋敷に帰ってきた僕達はそのまま会社にまで足を運び、商工部の部長に来て貰った。


「お呼びですか? シャチョー」


 この人は商工ギルドでサブマスターをしていたナーセナルさん。皆が思った通り、口癖は【成せば成る】だよ。


「うん、ナーセナル。実はこの図面の通りに建築出来る大工さんを五名と、その手伝い人を十五名ほど見つけて欲しいんだ」


 僕は前世で宮大工と呼ばれた職人を育てようと考えていた。何故なら、これからアキンド国良爵領内では金清様信仰になるから、ラターシ王国の領地だけじゃなく、ラスティネ皇国の領地にも神社を建てるからだ。


 僕がナーセナルに渡した図面には、宮大工達が培った技術を一部だけ書いていて、ソレを見て理解出来る大工さんを集めて貰うつもりなんだ。ナーセナルはパラパラと図面を眺めてから、


「畏まりました。シャチョー、人材は何時までに?」


 そう聞いてきた。


「急で悪いけど、今日中に探して欲しいんだ。明日には仕事場に案内して、仕事をしてもらうつもりなんだ。」


 僕の言葉に一瞬怯むナーセナルだけど、直ぐに決然とした表情になって、


「畏まりました! この命にかえましても!!」


 と言って部屋を飛び出して行った。


 いや、命は一番大切だからね。ナーセナル、何回もそう教えたけど、いつまでも直らないよね。


 結果は、三名の大工さんと、その補助又は助手が出来る大工さんが二名。下働きや見習いさんが十八名。夕方までに僕の目の前に揃いました。勿論、ナーセナルには特別賞与を支払いました。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る