第76話 現れた神様

 カインズ公爵家から少し西に進んだ場所にあるアキンド国良爵の土地は、未だ開発が進んでない場所がある。そこも領地内ではあるが、魔獣が住み着いている為に、開発は後回しにされていた。しかし、諸々のゴタゴタや、仕事関係も人に割り振り時間に余裕が出来たコルクが、婚約者達と共に遂に開発に乗り出す事になったのだった。

 コレはその時のお話。



「コルク、それで今いる魔獣達はどうするの? 殲滅する?」


 マキヤ、君は癒し系だったのにすっかり殲滅好きになってしまったね……


「うーん、全てを殲滅する必要は無いんじゃないかな? 森は深いから、森の入口からニキロメートル位を開発しようと考えてるけど」


 僕がそう答えると、ラターシャお姉さまが


「それが良いな。全てが人にとって害ある魔獣ばかりでも無さそうだ。ここにいる魔獣でもジュエリースライム等は人と共存出来る存在だし」


 おっと、ラターシャお姉さま、その魔獣の名前は十年この世界で生きてきた僕には、初耳ですよ。何、そのキンキラしてそうなスライムは?

 僕は素直に聞いてみた。


「お姉さま、そのスライムの名前は初めて耳にしたんですけど、どんなスライムなんですか?」


「あら、知らないのコルク?」


 そう言って答えてくれたのはマアヤだった。


「ジュエリースライムはね、地中にある宝石を体内に取り込んで、自分の好きな形にしてから体外に放出して、巣や自分だけの場所に貯め込んでいるスライムなの。でも、貯め込むだけで管理なんかしないから、見つけて持って行っても怒らないの。それに、人に懐く事もあると聞いてるわ。それは聞いたたけだからホントかどうか分からないけど」


 ほえー、僕は説明を聞いて驚いてしまった。そんなスライムがいるなんて。更に補足としてラターシャお姉さまが言う。


「ジュエリースライムは実は宝石だけじゃなく、鉱石も好きで偶に珍しい鉱石を貯め込んでいる事もあるんだ。ミスリ鉱石、アーダマ鉱石、ヒヒカネ鉱石、他にもある可能性がある。それらを見つけるのも楽しみなんだ」


 ラターシャお姉さまは鍛冶職人でもあるから、本当に楽しみにしてるようだ。でも、この森をこんなふうに気楽に話しながら探索出来るのは、僕達ぐらいだろうね。何せ、話をしている最中にもマッドサーペントや、ポイズンギガーストードなんかが襲って来てるから。有無を言わさずマラヤとカリーナが嬉々として殲滅してるけど。


 今回はサクラちゃんは来ていない。何でもオオクワガタの血統名が乱立して、ちゃんと三代ブリードが完結してない人達に、ペナルティーを与える為に奔走しているからだ。クワガタの事になると労力を厭わないサクラちゃんには脱帽だね。

 あっ、因みに僕はコクワガタが四代目になって、血統名を付けたんだけど、サクラちゃんには【ダサい】と言われてしまった。

 【小国の王】ってダサいかな? 僕は格好良いと思うけどなー。


 そんな事を思いながらも遂に開発予定のニキロメートル奥に来た僕達はソコに印を付けた。ここを真ん中として、今度は横に1キロ進んで印を付ける予定だ。先ずは右に向かって進む僕達。何事も無く(勿論チョコチョコと魔獣の襲撃はあったけど)進み、印を入れてから戻って来た僕達は、左に向かって進み出した。すると、行く先にキレイな小川があり、ソコに小さなお社が建っていた。


 お社は古いけれど、キレイに清掃されていて、こんな場所で誰が? と不思議に思っていたら、中からスライムが二体現れた。


「おや、噂をすればだね。コルくん、アレがジュエリースライムだよ」


 ラターシャお姉さまがそう教えてくれた。スライム二体は僕達に向かっておいでおいでをするように触手を出して振っている。皆は兎も角、僕は前世の記憶からお社にお参りするのも悪くないと思って、誰が建てたか分からないし、何の神様かも分からないけれどお参りしようと皆に言った。


「エッ!? アレって教会なの?」


 口々に皆が言うから、僕はアレが僕の前世の場所では神様が現世で過ごされる場所だと説明したんだ。そして、お社の前の箱が賽銭箱と言って、お金を入れてご利益を願うんだと教えた。


 そして僕が先ずお手本として、賽銭箱に金貨を入れて、二礼二拍手一礼を見せた。


 そしたら、何とお社の扉が開いて、中から光を纏った人が現れたんだ。


「うーん、数百年ぶりじゃー!! 良くぞ参った。我は金精なるぞ! ソナタの為に願いを叶えてしんぜよう! ささ、願いを言うのじゃ! 久方振りの金貨の賽銭じゃ! 何でも言うが良い!!」


 神様が現れたんだ!!


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