第74話 弱い、弱いよ

 取り敢えず倒れた十人を最上級魔術の【捕縛魔術きっこう】で縛り上げた。これは魔力で構成されたロープで両手首と両足首を隙間なく締め上げる為に、対象者の背中が丸まって亀の甲羅の様に見えるから、亀甲きっこうと名付けたと解説されていた。…… と、僕も説明を入れておきますね。


 そして、野営地に向かおうとした時に、白兵戦のつもりなのか、サバイバルナイフや山刀マチェットを構えた迷彩服を着た男達が凡そ二十人、僕達の前に現れた。それを見たボトル兄上が、


「コルク、地球という星の兵士がどれ位強いか確かめたいから、俺がいっても良いか?」


 と、先の十人から奪ったサバイバルナイフを手に言う。ああ、あの二十人はプライドを粉々にされるどころか、すり鉢ですり潰される事が決定したね。僕はボトル兄上に、


「ホドホドに加減してやってね。兄上の普段の手加減よりももっと力を抜かないと、彼らは直ぐに死んじゃうから」


 とアドバイスを送った。コレで油断するような兄上じゃないから言えるアドバイスだけどね。僕の言葉に分かったと言いながら一人で前に出る兄上。

 その兄上に、


「オイオイ、たった一人で俺達と白兵戦をするつもりか? 舐められたもんだな、俺達も」


 と言って持っていたサバイバルナイフをユックリと舐める兵士。日本語で喋ってるから日本人なんだろうね。でも、その目は嫌らしく女性陣を睨めつけてる。ボトル兄上は静かに言った。


「手加減はしてやるから、誰からでもかかって来い。全員一辺にでも構わないぞ」


 その言葉に先頭にいた兵士が反応した。

 

 僕達全員の感想は、【遅い】だった。他の兵士はニヤニヤとコレで決まったみたいな顔をしてるけど、あんなに遅くちゃボトル兄上が待ちくたびれるよ。その証拠にほら、待ちきれなくて兄上が動いたもん。その兵士は何をされたか分からなかっただろうね。

 兄上は一歩進み出て、ナイフを振り上げた腕を掴んで軽く捻っただけなんだけど、それだけで肘から下が一回転しちゃって千切れそうになったんだから。 

 

 兄上、手加減してくださいってお願いしたでしょう。僕がそう思ってたら困った顔で僕を見る兄上。


「どうしよう、コルク? 今のでも十パーセント位しか力を出してないんだが…… 」


「兄上、三パーセントでお願いします」


 僕達兄弟は普通に話してるけど、千切れかけた腕を必死に抑えて暴れて大声で叫ぶ男が一人。五月蝿いから魔術で気絶させた。


「さ、さあ、次は誰だ? 次はちゃんと上手く手加減してやるから」


 しかし、残った十九人の兵士は既に大きく後ろに下がり、銃を構えて撃とうとしていた。


「こ、この化物が、女に当たらない様に撃て!」


 日本人の号令に一斉に銃を撃つ兵士達。けれども全てが僕が全方位に展開した防御、反射魔術によって男達に向かって弾丸を弾き返した。弾丸は全てが腕と足に当たる。太い動脈を傷つけない様に制御したけどね。

 自らが撃った弾丸に貫かれた兵士達がうめき声を上げるから、彼らも気絶させて縛り上げた。


 そうしていたら、双眼鏡で様子を見ていたのは知ってるけど、グレネードランチャーを構えた兵士が前に出てきた。ランチャー程度なら今展開している魔術で防げるから僕達は気にせずに前進を始める。


 誰かの合図で二十丁のランチャーから弾が飛び出したけど、全てが中空に止まり僕達が前進するのに合わせて動いた。ソレを見た兵士達が慌ててランチャーを放り出して逃げ出した。


 次は何かなと思ったら機銃を装備した装甲車が百台程目の前に展開された。僕はメンド臭くなったので、この野営地にある全ての動く車、バイク、戦車すらも動かない様に魔術を展開してやった。


 神級魔術【稲妻てんのさばき】を内部の装置に打ち込んでやったんだ。乗っていた中の人間も感電したようだけど、死なない程度に威力は抑えたからね。これで司令部にいる人間以外は全て無力化したよ。残りは二十人程だね。


 僕達は気絶した兵士達を縛り上げて、司令部に向かって歩き出したんだ。


 


 

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