第61話 国から謝罪がありました

 国中の貴族が衝撃を受けた発表から一日が過ぎた。アキンド家には何故か王太子であるヨーガ様が来られている。


「コルク商爵あきないしゃく、王家を代表して頭を下げよう。本来なら父がこの場に来なくてはダメなのだが、今はとある理由で動けないのだ。よって、名代みょうだいとして私がやって来た。どうか許して欲しい」


 ヨーガ様、ある理由って、にごしていただいて有難うございます。僕は微に入り細を穿って詳細を母上から聞かされてますから…… ミランダ様、無双物語を。


「ヨーガ様、お顔を上げて下さい。僕は今回の事で、王家に対するつもりもありません。むしろ、今後も忠誠を誓い、より良い国作りの為に頑張って行こうと思っております」


 僕の返事にホッとした顔で頭を上げたヨーガ様。そして、口調を少し崩されて、


「助かるよ、コルク。先日の義母上ミランダは凄まじくてね。私の母や他の義母達も、恐怖に震えるほどだったよ。まあ、全て問題を放置していた父が悪いのだけどね」


 そう言って苦笑いされてから、従者に荷物を持ってこさせた。


「王家としても、また私個人としても、カインズ公爵家とアキンド商爵あきないしゃくは大切な存在だ。これからも力を貸して欲しいと思ってる。だから、これは【けじめ】として何も言わずに受け取って欲しい。謝罪が金銭や物だと言うのは申し訳ないけど、こうした目に見える形を表すのも大切な事なんだ。コルクなら分かってくれると思う」


 そして、僕は素直に謝罪の品を受け取る。


 金貨五千枚。

 いにしえの大魔術師の杖(王家の秘宝)

 魔術大全の書Ⅱ


 魔術大全の書に二巻があるとは! 僕は家の書は全て読んでコレで漢字魔術を制覇したと思ってたけど、まだ先があるんだね。


 僕が書を持って驚いてるとヨーガ様が言った。


「どうやらマルコが言う通り、コルクはこの書が読めるようだね。私達は表紙の文字から全く読めないけど。この書は原本だけど、写本してあって、そちらを魔術研究所に置いてある。読めるならそれはコルクが好きに使ってくれて良いよ。私の権限で持ち出して来たから、父は知らないけどね。コルクには魔術道具テクマクマハリタを貰ったから」


 僕は有難くヨーガ様の好意を受け取る事にした。そして、ヨーガ様が家を辞去しようとした時に、サーパさんがサーライ兄上と美しい少女を伴って来たんだ。サーライ兄上はヨーガ様を見て言った。


「おう、これはヨーガ殿。ちょうど良い所に居られた。私はコルクが心配で来たのだが、先日にサンテミリ殿と交した約定に従って、ヨーガ殿の婚約者も連れて来たのでな。コレが私の長女で、サリーだ。よろしく頼む」


 そう少し雑に紹介された少女はサーライ兄上を少しだけ怒った様に見てからヨーガ様に挨拶をした。


「初めてお目にかかります、ヨーガ様。ラスティネ皇国第一皇女のサリーと申します。どうか末永くよろしくお願い致します」


 ヨーガ様はずっとサリー様を見て固まっていたけど、ハッとして、


「サ、サリー殿。私でよろしいのか?」


 と慌てて聞いている。サリー様の返事は、


「はい、私もお聞きしておりました。お互いが会って気に入ったなら、婚約しようと言う事でしたね。私は実は先程からヨーガ様のご様子を見させて頂いておりました。そして、その誠実なご様子にひと目で惹かれました」


 うわー、ハッキリ言う人なんだ、サリー様は。そんなサリー様を見てヨーガ様は、


「私もサリー殿にひと目で惹かれてしまった。どうか、よろしく頼む。婚約などを飛ばして直ぐに結婚したい気持ちが湧き上がるが、お互いをもっと良く知る期間も大事だと思うので、互いが納得した時に結婚しよう」


 こんな情熱的なヨーガ様は初めて見た〜。僕が他人事で眺めていたら、サーライ兄上が、


「それでは婚約発表までサリーはコルクの家で過ごすように」


 とシレっと言った。いや、初耳ですが…… サーライ兄上。


「うん? 今言ったろ?」


 はい、分かりました。確かに【たった今】お聞きしました。


 ヨーガ様が何故か少し不安そうな顔をして僕にコソっと言ってきた。


「コルク、私の婚約者を奪わないでくれよ」


 と…… はい? ヨーガ様には僕がどう見えてるんでしょうか? 詳しくお聞きしたいけど、グッとコラえて、そんな事にはなりませんよと返事をしておいた。


 だってサリー様は来られてからずっとヨーガ様の事しか見てないから。だから、安心して下さいね、ヨーガ様。




 

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