第60話 ヒーマン家取潰し

 驚いてアキンド邸に飛んできた父上。そこには祖父おじい様の姿もあった。

 そして少し遅れて祖母おばあ様と母上が。更に兄上とミレーお姉様にミランダ様まで来てくれた。


 ハラードは壊れた心を治してやったが、僕が視界に入ると失神するので、今は後ろ手に縛った上で目隠しもしている状態だった。


 僕は正直に父上に話をした。


 曾祖母ひいおばあ様に連れられて神殿に行った事から、ハラードが奴隷の女の子を買ってやっていた事。そして、三人の女の子をそこから勝手に助け出した事。

 ウチに来たハラードが言った言葉に逆上して僕が行った行為も包み隠さずに話をして、陛下の裁定を待ちますと告げた。


 そしたら父上が、


「良くやった! さすがは俺とリーンの息子だ。ロトノアにはお前に罰を与えるようならカインズ公爵家が相手だと言ってやる!」


 なんて叫ぶし、祖父おじい様はラターシャお姉さまに


「師匠、どうですか! 私の孫は最高でしょう!」


 なんて言っている。そして、兄上は何とハラードの方に剣を抜いて近寄ろうとしたので慌てて止めた。


「コルク、どくんだ。僕は大事な弟を侮辱されて何もしない情けない兄じゃないぞ!」


「兄上、どうか落ち着いて。身体的な罰は僕が十分にハラードに与えたから」


「いいや、コルク。今では傷も治ってるようだし、コイツは反省なんかしない。片耳を削ぎ落とすぐらいはしておかないと」


 目は隠してるけど、耳は塞いでないから僕達の会話はハラードに丸聞こえだ。ハラードはガクブルしながら許しを乞う。


「わ、わたくしはもう二度、二度と、ごのような事、事はいだしまぜん!! ですから、ですか、ど、どうが、お、おゆ、お許じぐだざいーー」


 泣きながらそう言うとまた失神した。


 そして、祖母おばあ様と母上が、奴隷だった四人の女の子達の元に行き、有難うとお礼を言った。

 言われた四人は何故お礼を言われたのか分かってないようだ。そこで、母上が言った。


「闇に飲まれかけた息子を止めてくれて有難う。貴方達が止めてくれたから、コルくんはコルくんのままで居られたの」


 母上の言葉に四人は泣きながら首を横に振って言った。


 助けて貰ったのは自分達だと。最初に心が壊れた女の子は僕が何度も何度もハラードを殴るのを見て、正気に戻ったそうだ。そして、止めないとって思ったけど足が竦んで動けなかったと言う。

 それでも、母上は言う。


 でも、貴方達を見てコルくんは正道に戻れたのよと。そして続けて、


「奴隷の立場からは今、この時から解放されます。貴方達は自由よ。その気があるなら、カインズ公爵家でも、アキンド商爵家でも雇う準備があるわ」


 そう彼女達に言ったんだ。彼女達はウチで働きたいと申し出てくれた。そこで、あとの事はメイド頭のハーニャにお願いしておいた。


 それから、ミレーお姉様とミランダ様が僕の元にやって来た。


「コルク、良くやったね! 私の弟はやっぱり偉い!!」


「コルくん、心配は何もないからね。陛下には何もさせないから。ウフフフ、全て私に任せてちょうだいね」


 うん、全面的にお任せしようと思います。ここは余計な手出しはしちゃダメだ。


 それから僕はラターシャお姉さまと一緒にいる婚約者達の元に向かった。


「みんな、心配させてゴメンね。もう二度と怒りに任せて衝動的に行動したりしないよ」


「ううん、コルクが謝る事なんて何もないの。私達、先生ラターシャに教えられて嬉しかったの。我慢していたコルクが怒ったのは、私達の事をハラードが言ったからだって知って、とても愛されてるって知ったから」


 皆を代表してマアヤがそう言ってくれた。少し照れくさいけど、僕がキレてしまったのは確かにその通りだから、ウンと素直に頷いた。


 そこでラターシャお姉さまが、


「コ、コルくんがキレたのは、私の事も言ったからだよね?」


 と聞いてきたから、


「勿論そうです。お姉さまの事をあんな風に扱うつもりかとキレてしまったんです。でも、お姉さまが後ろから抱き締めて止めてくれたから、僕は闇落ちしなくて済みました。本当に有難うございます。また、僕が間違った方向に進んだ時には止めて下さいね」


 僕がそう言うと、鼻を押さえて顔を真っ赤にしたお姉さまが、


「も、勿論だよ。コルくん。何時だって私がコルくんを止めるからね」


 と鼻詰まりの声で確約してくれた。


 そして、父上、母上、ミランダ様がハラードを連れて王宮に行き、国王陛下に【お話】をして来ると言って出ていった。


 その翌朝、国の全貴族に通達があった。


 ハラード・ヒーマン伯爵家の取潰しと、コルク・アキンド商爵あきないしゃくの立場は公爵と同等だと発表されたのだった。


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