第59話 コルク怒りの鉄拳

 ある日の事だった。曾祖母ひいおばあ様に呼ばれた僕は曾祖母ひいおばあ様に案内されて神殿に向かっていた。

 ソコで見た人を僕は忘れないだろうと思う。心も体も壊れた女の子が保護されていたんだ。


 壊れた体は直ぐに治して上げたんだけど、心は何度魔術をかけても治す事が出来なかった。僕は神官長に断りを入れて、その子の記憶を見させて貰った。そして、ハラードのしている事を知ってしまった。

 その女の子は心が壊れながらも、自分と同じ様にイヤイヤ従っている奴隷の子が二人いると、僕に教えてくれた。


 僕は両手をキツく握りしめて怒りを堪えた。そして、その女の子達を心が壊れる前に助け出さないといけないと思ったんだ。この国では奴隷とはいえ性的な事を強要する事は出来ない。あくまで合意の上でなら許されるとしている。それも、成人している事が前提だ。(性的な成人年齢は十五才と明記されている)ちゃんと法律でそう決まっているんだ。


 なのにハラードがやっている事を証明する事が出来ない。証拠がないし、女の子達と性行為をした人も合意だったと言い張るだろう。年令は十五才だと聞いたって言うだろうし。


 僕は証拠なんて必要ない。これから行って奴隷の女の子二人を、もしかしたら増えているかも知れないけど、イヤイヤながらに従っている子達を助けに行く事にした。


 僕は神殿を出てから家に戻り、漢字魔術の最上級魔術を使い始めた。


 先ずは、

隠密じょうにん


 これで僕の姿は誰にも見えない。

 次に、

心読ようかいさとり


 これで女の子達の心が分かる。


 そして、僕はハラードがいるバーモン侯爵別邸に転位した。


 幸いな事に女の子達はまだ仕事に行かされてなかった。五人の奴隷の女の子達のうち、三人が目が死んでいる。この達の心も既に壊れかけていた。僕はその女の子達に隠密じょうにんをかけて姿を見えなくしてから、互いに手を繋がせて、そのまま転位した。

 残っている二人の女の子は楽しんでやっていたので、放置させて貰った。

 まあ、突然三人が見えなくなって、凄く驚いていたけど、それは勘弁してもらおう。


 僕は連れて帰った三人の子達をマアヤ、マキヤにまかせて商爵あきないしゃくの権限を行使して、ハラードが奴隷を購入出来ない様に手配した。


 勿論、僕の名前を出さない様に手を打った上でだけど。





 そして、ハラード・ヒーマン伯爵がやって来たのは、アキンド邸が遂に完成して移り住んで二日目の日だった。



 随分と傲慢な態度でウチの執事に声をかけているけど、ひょっとして自分の方が立場が下なんだと分かってない?


 うん、あり得るかな。ハラードは一を読んで十を知った気になる人物だからね。実際は一を読んで一の半分も理解出来てないんだけど。


 そして、セバスーンが僕の元に来て言った。


「旦那様、表に来ているあのアホを切り捨ててもよろしいでしょうか?」


 うん、怒ってるね。セバスーン。でもダメだよ。怒りの鉄槌を下すのは僕だからね。


 僕は顔は笑って目が笑ってない状態でセバスーンにこちらにお通しするように伝えた。

 セバスーンが少し怯えた様な顔をしたけど、気にしない事にした。


 ハラードが部屋に来る前に奥からラターシャお姉さまが来て僕の隣に座った。


「今のコルくんでは殺しかねないからね。あんなヤツにコルくんが手を汚す必要なんてないから。許すのは死なない程度の鉄拳一発だけだよ」


 そうお姉さまに釘をさされてしまった。僕は自分の中のどす黒い感情を飲み込んで、分かりましたと返事をしたんだ。

 しかし、入ってきたハラードの言葉に一発でる気になってしまった。


「おい、コルク。久しぶりだな。今や商爵あきないしゃくだってな。色々と儲けてるそうじゃないか。そこで、優しい俺様がお前の寄り親になってやろう。なーに、売上の八割を俺様に回せば良いだけだ。簡単だろう。それと、お前の五人の婚約者とソコに座ってるエルフを俺様に寄越せ。俺様が奴隷としてこき使ってやるから。ギャーハッハッハッ!」


 笑い声が終わった瞬間に僕はハラードの顔面を殴っていた。入ってきた扉を超えて吹っ飛ぶハラードに治癒魔術をかけて回復したら、また殴る。強さは同じだ。そしてまた治癒魔術をかけて殴る。


 最初に


「コ、コルク、貴様、何をして、ウボェッ!!」


 そんな事を言おうとしていたけど構わずに僕は殴っては治しを繰り返した。その僕を止めたのはラターシャお姉さまだった。僕が治して殴ろうとした時に背中から抱きついて、


「コルくん、もう良いよ。もう、良いんだ。ハラードは既に心が壊れたよ。それに、ごらん。部屋の奥を」


 そう言われたので僕は部屋の奥を見た。ソコには僕の婚約者が五人と、最初に心が壊れていた女の子と、助け出した三人の女の子が涙を流して立っていた。


 そして、あの心が壊れた女の子が僕に駆け寄ってきて、


「有難う、有難う」


 って言うんだ。そこで僕はハラードを殴るのを止めた。そして、父上に連絡を入れて僕とハラードの処遇を国王陛下に決めてもらう事にしたんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る