第52話 やって来たクワガタ

 

 遂にラスティネ皇国から皇帝陛下が、キノコ職人? 達を連れて我が家にやって来る日が来た。何故か国王陛下も来る事になったけど、今回は関係ないですよね。ただ、イジイさんの作る料理を食べたいだけですよね?


 そんな事を思いながらも了承した。けど、会議には出席させませんからねと父上には言っておいた。ソコはさすがに父上だ。


「ああ、心配ないぞ。俺の蒸留酒でも特に強いヤツを飲ませて早めに潰しておくから、コルクは気にせずに会議をしてくれ」


 と力強く言ってくれた。この言葉に安心して僕は皆様をお迎えしたんだ。




 サーライ陛下を先頭にゾロゾロと皆さんがやって来た。


「やあ、弟よ。皆を連れてやって来たよ。こちらが我が国の辺境の村、マッシイ村の村長でマッシュルームを栽培しているゴサクだ。その後ろにいる十五名が、それぞれがキノコを栽培している代表者達だ。後で名乗らせるよ」


「あんの〜、坊っちゃま。ワスがマッシイ村の村長だす。この度はお呼び頂いて、恥をしのんでやって参りますた……」


 え? アレ? 恥を忍んでってどういう事? 僕は慌てて挨拶をしながら聞いてみた。


「皆さん、本日は遠い所までようこそお越し下さいました。僕が皆さんをお呼びした、このラターシ王国のカインズ公爵家次男でコルクと言います。それで、ゴサクさん。恥を忍んでっておっしゃいましたが、何かありましたか?」


 僕がそう聞くとゴサクさんは訳を話し始めた。


「コルク坊ちゃま、ワスらにさん付けはいらねぇっす。そりゃ、こんなお偉い方に呼び出されたっけ、きっとこの間に買うて頂いたキノコが、お口に合わねかったから、お叱りを受ける覚悟で来たっし……」


 僕はサーパさんとサーライ兄上を見た。そしたら苦笑しながらサーパさんが言った。


「コルク殿、そんなに睨まないでくれ。私は勿論、サーライ兄上もちゃんとそう言う事じゃないと説明したんだが、どうも売買価格についての話合いだと言ったのが悪かったようでな…… 言っても信じてくれないのだ」


 なるほど、そう言う事ですか。僕はサーライ兄上に聞いてみた。


「皆さん、朝食はお済みなんですか?」


「ああ、弟よ。既に食べた後だぞ」


「それなら少し予定を変更して、今から話合いをさせて貰っても良いですか? 皆様の不安を解消しないとダメだと思うので」


「おお、そうしよう。ゴサク、コルクは我が弟でもあるから安心しなさい。何度も言うが悪いようにはならないから」


「へえ、分かりましたっし。陛下」


 それを聞いてから僕は皆さんを連れて大部屋に案内した。そして、先ずは安心させる為に第一声。


「皆さん、先日は大変美味しいキノコを気前よく売って頂き有難うございました。お陰様で我が家で大変好評でして、今後、領地のレストランや食堂にも卸して行く事になりました。そこで、ご相談があります。皆さんが栽培されているキノコですが、価格が安すぎます。そして、種類によって値段を変える必要があると僕は考えています。ソコで皆さんにお聞きしたいのです。栽培方法や掛かっている諸費用コストを。それで、改めて金額を決めて僕と取引をお願いしたいんです」


 あ、少し話が長すぎたかな? 皆がポカーンとした顔で僕を見ている。 


「ハッハッハ、弟よ。我が国ではキノコは何故か不人気でな。この間買って貰った金額でも破格の値段だったんだ。それが、安過ぎるて言われて皆がポカーンとしてしまったんだ」


 サーライ兄上が僕にそう教えてくれた。そうなんだ。ラスティネ皇国ではキノコの真価を知らないんだね。そこで僕はたたみかけた。


「ゴサクさん、マッシュルームを栽培されてるんですよね? ブラウンとホワイトの二種類。菌床にはオガクズじゃないモノを利用されていると思いますが、どうですか?」


「ぼ、坊ちゃまは何でご存知でしっか? 確かにマッシュルームは穀類が菌床ですっけ。菌糸(種)の保管にも注意が必要でしっけ」


「ですよね。その辺りの話を皆さんから聞いて、今の一山いくらではなく、適正な価格をつけたいと思ってるんです。そして、ソレが世界中で当たり前になる様に僕がしてみせます。だから、話合いをしましょう」


 僕がそう言うとキノコ農家の皆さんの顔に希望を見出した様な笑顔が浮かんだ。そして、話合いは順調に進み、価格も決まった。会議を手伝ってくれたマアヤとマキヤ、カリーナがそれぞれの国の文字で書類を作ってくれたので、ゴサクさんと僕でサインをして、契約を完了した。皆が笑顔だ。


 そして、シイタケ農家のヨネお婆さんと、ヒラタケ農家のアイさんの二人がオズオズと僕の方に来て、箱を差し出して来たんだ。


「あんの〜、コルク様。こんなモノを喜ばれるか分からんけんども、ウチの孫が好きなモンで、お年を聞いたら孫と一緒じゃったけえ、持って来たんだ〜」


 そう言われて僕は箱を受け取り、フタを開けてみた。ソコには、


「うわ、凄い! ヒラタクワガタだ!!」



ソコでアイさんが少し安心したように箱を差し出して来た。


「あの良かったらウチのも…… 弟が捕まえたんですけど……」


 僕はヨネお婆さんから頂いた箱にちゃんとフタをしてからアイさんの箱を受け取り、ドキドキしながらフタを開けた。


「出たー! 黒いダイヤ、オオクワガタだ!」


 興奮して叫んでしまったね。コレがキノコ村の第二の産業が決まった瞬間だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る