第39話 醤油は偉大だ

 僕はイジイさんを連れて地下室にやって来た。そして、曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様に紹介したんだ。

 曾祖父ひいおじい様は、


『まだ、ご存命でしたか。高名な料理研究家のエクスワ・イジイ殿にお目にかかれて光栄です』


 と言い、曾祖母ひいおばあ様は、


『何で今なの!! 私もイジイさんの作る料理を食べたいっ!』


 と憤慨ふんがいしていた。曾祖母ひいおばあ様、食べたいと言われましてもと僕が思ったらイジイさんがあっさり、


「食べれるぞ。お供えしてやるからソレを食べたら良いぞい」


 と言う。えっ!? お供えって霊体の人が食べれるの? 初耳なんですけど。僕はイジイさんに聞いてみた。すると、


「何じゃ、コル坊は知らんかったかい。お供えはわしらの前世の文化じゃが、コチラではお供えしてやると、その霊体が出来るぞい。味も生きてた時の様に感じられる筈じゃ。カッカッカッカッ」


 その言葉に曾祖母ひいおばあ様だけじゃなく、曾祖父ひいおじい様まで歓喜していた。そして僕は二人に言った。


「この地下室は年中気温と湿度が一定だから、料理の為に少し活用しても良いですか?」


 二人の返事は『『勿論!』』だったので、イジイさんに醤油作りをココでやってくれないかと頼んだ。


「おお、ココなら良い醤油が出来そうじゃ。じゃが、たるなどの道具が必要じゃな」


 ソコで僕は必要な道具を聞いて、近日中に揃えるからお願いしますと頭を下げた。


 そして、そのままイジイさんを連れて我が家の調理室に行くと、料理長と副料理長、以下料理人五名が整列して待っていた。そして、皆を代表して料理長がイジイさんに挨拶する。


「本日より、我ら七名全員がエクスワ総料理長のご指導をたまわります。死ぬ気で覚えますので、よろしくお願い致します!!」


 気合い入り過ぎだって。イジイさんが少し引いてるよ。


「なあ、コル坊。わし別に料理の権威けんいでも何でも無いんじゃが…… 大丈夫かの?」


「うん、大丈夫だよ。イジイさんが美味しいと思うモノを作って、料理長達に教えてくれたら。あっ、僕にも教えて下さいね」


 僕は少しでも雰囲気ふんいきを柔らかくしようとニコニコして返事をしておいた。

 そして、本日の昼食からイジイさんの指導の元、僕にとっては懐かしい、他の皆にとっては珍しくて美味しい料理が出来上がって行く事になる。


 メイン調味料は醤油だ。僕はその日の締め括りに料理長達を前にして言った。


「この禁断の調味料である醤油を我が家の地下室で仕込む事になりました。そこで、仕込みの為に人手がいります。二名、誰か立候補してくれますか?」


 僕の言葉に全員が手を上げる。いや、料理長と副料理長はダメだからね。僕がソレを告げるとガックリと肩を落とす二人。だって二人が醤油作りに携わると誰が残った料理人を指揮するんですか? しかし、ソコでイジイさんが言った。


「交代で全員が作れる様にしたら良いんじゃ。誰か特定の人だけ覚えても、その人が病で倒れたりしたら困るぞい」


 それもそうか。良し、そうしよう。


「それじゃあ、必要な道具が明後日に揃うから、明後日の午後は料理長と君が地下室に来てくれる? 先ずは二人に覚えてもらうから。それから、次は副料理長と君に来てもらうよ」


 と僕が順番を決めて全員が覚える事になった。


 そして、その夜にイジイさんは醤油を使ったタレを三種類、料理人達に教えてくれた。僕は眠気に負けて寝てしまったんだけどね…… やっぱり、子供の体だと眠気には勝てないね。

 そして、昨晩の間に我が家の庭に畑と水田を作る計画書が料理長から父上に提出されたそうだ。



 体を壊すと大変だから、新しい事に挑戦して興奮するのは分かるけど、皆、ちゃんと寝てよ。


 

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