第38話 ウチにまで来た皇帝の使者

 陛下に父上が了承の返事をした翌日。ラスティネ皇国の使者がウチにまでやって来た。慌てて出迎える祖母おばあ様と母上。父上は領地内にある町からの要請ようせいで出かけていて、祖父おじい様は魔術研究所に行っている。

 必然的に二人が対応に出たのだが、使者さんは兄上と僕にも挨拶したいと言っているらしく、呼ばれて居間に行ってみた。そこには、


「サーパさん!」


 あの魔法師がいたのだ。だが、兄上は不思議そうに僕とサーパさんを見ている。そして、サーパさんが口を開いた。


「やはりコルク殿には効かぬか。顔を魔法で変えているのだが……」


 そう言って魔法を解いたのだろう。皆が驚愕きょうがくの顔をして身構えた。

 中でも母上がドレスをたくし上げて、太腿に差していた短剣を出して構えたのにはビックリ仰天してしまった。

 ああ、そう言えば祖父おじい様にしか事情を言ってなかったや…… どうしようと思っていたら、母上がサーパさんに語りかけた。


「ラスティネ皇国の使者といつわって、我が家にやって来たのは何が目的なの!? また私達を襲うつもりかしら?」


 言われたサーパさんが僕を見た。僕はゴメンと言いながらこのタイミングだと思って皆に言った。


「母上、待って下さい。皆も構えを解いて。サーパさんはある事情で僕達を襲ったんだ。今はもう僕達を襲ったりはしないよ。ですよね?」


 僕の言葉にサーパさんは、


「襲った事実は消えないから、ここで何をされても私は抵抗はしない。そして、カインズ公爵家の方々を襲う事は二度とないとルーン神に誓おう。それから、使者をいつわった訳ではない事をここで伝えておく。私はラスティネ皇国皇帝、サーライの正式な使者だ」

 

 そう言葉をつむいだ。その言葉に構えを解く皆だけど、母上だけは未だに解いてない。僕は母上に呼びかけた。


「母上、構えを解いて下さい。大丈夫ですから」


「でも、コルくん……」


 しぶる母上を何とかなだめて構えを解いてもらった。太腿に慣れた様子で短剣を直す母上を見て兄上もビックリしている。うん、母上には僕達二人が知らない過去があるようだ。今度曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様にこっそりと聞いてみよう。


 僕がそんな事を考えていたら、サーパさんが喋りだした。


「ラスティネ皇国の使者として、皇帝の妹御いもうとごがコチラにご厄介になる際には、身一つで来る事を伝えにきました。護衛やメイドは付いてきません。行儀見習いの為ですので。それを一言申し上げたくて、コチラに参りました」


 そう言って頭を下げた後に言葉を続けるサーパさん。


「そして、コチラに如何いかなる事情があろうとも、皆様を襲った事は許される事ではありません。ここで、深くお詫び申し上げると共に、どんな罰だろうと受ける覚悟で来ております」


 と言ってまた頭を下げて今度は頭を上げない。祖母おばあ様はそれを見て、兄上に言った。


「ボトくん、マルコもヴァンも居ない今は貴方がこの家の当主よ。罰も貴方が決めなさい」


 祖母おばあ様にそう言われた兄上は、少し考えてから僕に聞いてきた。


「コルク、コルクは事情を知っているんだよね? その上で襲った事を不問にしたんだろう?」


 兄上に聞かれた僕は事情を素直に話す事にした。


「はい、兄上。サーパさんは卑劣ひれつにもモリノミに妹さんを人質にとられていて、言う通りにしないと妹さんを害すると脅されていたんです。ですが、襲ってきたのは事実です。が、コチラには何も被害が出ていないので、そんな事情ならと不問にする事を勝手に決めてしまいました。お許しください」


「そうか…… サーパといったね。使者殿を傷つけたりしたらラスティネ皇国と戦争になるかも知れない。そんな発端ほったんをウチが作る訳にはいかないから、貴方を傷つける罰は考えられない。そこで、皇帝がもし許すならばだが、貴方は来られる皇帝の妹御いもうとごの護衛として、ウチに居られる間は働いてもらう。それでどうかな?」


 さすが、兄上だ。思慮深い意見に僕だけでなく祖母おばあ様と母上もニコニコして頷いている。


 兄上の言葉にサーパさんは、


「皇帝陛下はお許し下さると思いますので、その罰を謹んで受けます。ルーン神に誓って必ずその様に致します。寛大なご処置に感謝致します。ボトル殿」


 そう兄上の目を見ながら言った。そして、一刻も早く皇帝に知らせたいからと、何と目の前で転移して帰って行った。あっ、カリーナさんが元気か聞くのを忘れてしまった。まあ、また皇帝の妹さんを連れて来るし、その時に聞けば良いか。


 そして、僕はラターシャ塾を卒業して、イジイ塾に入塾した。醤油の為に。(笑) 

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