第34話 締魔ーなお爺さんが居ました


 辺りを慎重に、また兄上の索敵を頼りに北に進むと、ガイアウルフの群れがいた。

 けれど、そこには群れだけじゃなくて一軒の小屋が建っていた。ガイアウルフ達は取ってきた木の根を小屋の前に置いて吠えだす。すると小屋の中からお爺さんが現れた。


「ホイホイ、急かすな、急かすな。歳を取ると動くのが遅くなるんじゃから。おっ! ちゃんと取って来てくれたのか。偉いのう。これでまた寿命が二十年は伸びるわい。カッカッカッカッ」


 お爺さんは前世で見た水戸のご老公のような笑い声をあげると、ガイアウルフを一頭ずつ撫で回して褒めていた。それからおもむろに顔を上げて、何と僕達の方を見て言った。


「ホレホレ、そんな所で隠れて見とらんでコッチにおいで。美味しいご飯をご馳走しようじゃないか。この子(ガイアウルフ)達もお前さんらを襲ったりせんからの。安心して出ておいで」


 明らかに僕達に向かって言っている。顔を見合わせる僕と兄上。しかし、お爺さんからは敵意は何も感じられないから、僕達は素直に出て行く事にした。いざとなったら僕は魔術で皆を転位させられるしね。それに、何処どこかからラターシャお姉さまも見てくれてる筈だし。


「ホッホウ、こりゃあチンマイのに、ベッピンさんに色々じゃの。いや、言葉が悪いのは勘弁してくれい。見ての通りのじじいじゃからな」


 出て来た僕達を見てお爺さんはそう言った。そして続けて、


「それでじゃ、何でこんな森の奥深くに子供や女子おなごだけで来ておるのじゃな? ピクニックという雰囲気ふんいきでも無さそうじゃが?」


 そう言うので、皆を代表して兄上がコチラの事情を話した。すると、


「何と、ふもとではそんな大事になっておったのか? これはスマン事をしたなぁ。この子(ガイアウルフ)達はわしが締群ていむした子達で、人を襲ったりは絶対にしないのじゃが…… これは一度領主様にご挨拶に行かねばならんかのう……」


 そう言って考え込むお爺さん。けど僕はお爺さんの言った言葉にワクワクしていた。だって【テイム】だよ。と言う事はこのお爺さんは【テイマー】だって事だよね。僕は考え込むお爺さんに聞いて見た。


「あの、【テイム】したって事はお爺さんは【テイマー】なんですよね!?」


「ん? イヤイヤ、わしゃ【締魔ていまー】じゃよ。坊主」


「えっ? だから【テイマー】ですよね?」


「イヤイヤ、違う違う。【締魔ていまー】じゃよ」


 アレ? このお爺さんってひょっとして耳の聞こえない神様? 僕の脳裏に前世で見た爆笑コントがよみがえる。


「わしは【締魔ていまー】じゃよ。断じて【テイマー】なんかじゃ無いぞ」


 うん、謎だ。僕の微妙に可哀想な人を見る目に気がついたお爺さんは、ハッとしたように言う。


「そうじゃった、そうじゃった。言葉だと音が一緒じゃから坊主には意味が分からんわの。こりゃあ、わしが悪かった。カッカッカッカッ」


 大笑いしながらお爺さんが坊主には読めんじゃろうがと言いながら地面に棒で文字を書いた。一つは、


【テイマー】この国の文字だ。そしてもう一つが、


締魔ていまー】だった。


 思わず僕は言ってしまった。


「漢字かい!」


 しまった。前世での口調が出てしまった。兄上をはじめ、皆が驚いた様に僕を見ている。しかし、それよりもお爺さんが興奮して言う。


「おおっ! 坊主はコレが読めるのかっ! と言う事は坊主も【渡り人】なんじゃな! いや、初めて会ったぞい」


 もって事はお爺さんも渡り人って事だよね。僕も初めて会ったぞい! ダメだ、口調が伝染うつっちゃったや。






 

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